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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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99/122

元嫁は、寝台の上で安静にすごす

「う……んん」


 ヴィオレットは身じろぎ、目を覚ます。カーテンの隙間から、太陽の光が差し込んでいた。ここで、ハッとなる。


「わ、わたくし──!」


 起き上がろうとして、ギョッとする。一糸まとわぬ姿だったからだ。

 人の気配を感じる。そこには水差しを持ったバーベナがいた。


「ヴィオレット様、お目覚めですか?」

「あ、あの、あの、バーベナ、わたくし、どうして服を着ていませんの?」

「昨晩は、猫化されていたようで、旦那様が寝台までお運びになったようですよ」

「そう、だったのですね」


 ハイドランジアの魔力を唇から受け取ったあと、苦しくなった記憶しか残っていない。そのあと、内なる魔力が暴走し、猫化してしまったのだろう。


「旦那様は明け方まで、ヴィオレット様を心配して付き添っていたようですが、今朝方出勤されました」

「そうでしたのね──って、わたくしも、仕事に行かなくては!」

「今日は、一日安静にされるようにと、旦那様がおっしゃっておりました」

「でも、わたくし、もう元気ですわ」


 枕の下に入れていた懐中時計を掴み、時刻を確認する。昼はとうに過ぎていた。

 体の重さも、気持ち悪さも、きれいになくなっている。猫化することによって、魔力を消費したからかもしれない。


「すぐに準備を――」

「なりません、ヴィオレット様。旦那様の言うことを聞きませんと」


 今、ヴィオレットはハイドランジアの客人という立場である。自由に行動することは、許されていない。ここに世話になっている以上、言うことは聞かないといけないのだ。

 バーベナも、以前はヴィオレットのやりたいことを優先してくれたが、今はハイドランジアの命令を優先している。


 はあと、重たいため息をついてしまう。

 せっかくハイドランジアの役に立てると思っていたのに、逆に迷惑をかけてしまった。

 自己嫌悪している間に、バーベナが服を着させてくれた。

 スノウワイトと竜の子は、昼間なのにぐっすり眠っている。悩みがないように見える寝顔に、ヴィオレットは心癒やされた。


 バーベナが用意してくれたのは、寝間着だった。元気なのに、一日安静にしていなければならないらしい。もの申さずに、寝台へと戻った。

 バーベナが寝室の扉を開くと、紙で作った鳥が入ってきた。ハイドランジアの、鳥翰魔法である。

 ヴィオレットの手のひらに着地し、動きを止めた。


「ハイドランジア様からのお手紙ですわ」


 開くと、容態を確認する内容が書きつづられていた。すぐさま、ヴィオレットは返事を書く。

 三十分後に返事が飛んできた。そこには、今日一日外出せず、寝台の上でゆっくり休んでおくようにと書かれていた。

 鳥翰魔法をかけていた手紙は再び鳥の形となり、ヴィオレットをじっと見つめる。監視させる魔法もかけていたようだ。

 二羽の折り紙の鳥を眺め、ヴィオレットはクスリと微笑む。

 仕方がないので、今日は寝台で大人しくしていることにした。


 ◇◇◇


 ヴィオレットは寝台の上で、ハンカチに刺繍ししゅうをしていた。

 金糸に祝福のまじないをかけ、ハイドランジアの名前を刺す。

 そのあとおまけに猫も縫った。きっと、喜ぶだろう。そんなことを考えながら、一針一針丁寧に縫っていた。

 夕刻、太陽が沈む前に、ハイドランジアは帰宅してきたようだ。

 直接ヴィオレットの寝室に転移せず、バーベナを通してやってきた。


「ヴィー、具合はどうだ?」

「おかげさまで、元気ですわ」

「よかった」


 他人の心配をしている場合なのか。ヴィオレットはハイドランジアを見上げながら思う。


「猫の姿から、戻れたのだな」

「がっかりしましたか?」

「いいや、ホッとした。また、原因不明で人の姿に戻れなくなったら、困るからな」


 ヴィオレットも安堵した。ここで猫がよかったと言われたら、大きなショックを受けていただろう。


「ハイドランジア様、ここに、おかけになって」


 ヴィオレットはそう言って、寝台の縁を叩いた。しかし、ハイドランジアは棒立ちのままだった。


「お顔がよく見えませんの」

「昨晩のように、突然よからぬことをするのではないな?」

「もう、いたしません」

「そうか、ならば」


 そう言って、ハイドランジアはヴィオレットの寝台に腰掛ける。


「ヴィー、なぜ、頰を膨らませている?」

「だって、わたくしのキスが、イヤだったみたいな言い方をするものですから」

「ヴィーのキスがイヤなわけではない。私の魔力を受け入れて、倒れてしまうのがイヤなのだ」

「だったら、他の場所だったら、キスしてもよろしいの?」

「それは、構わない」

「だったら――」


 そう言いかけて、ヴィオレットは我に返った。危うく、ムキになってキスしようとしてしまった。なんてはしたない発言をしてしまったのか。頰が焼けるように熱くなる。


「どうした?」

「な、何が、ですの?」

「キスをしたいのだろう?」

「そ、そんなこと、申していません!」

「む、そうだったか? 私にキスをしたいと言っていたように聞こえたが」

「気のせいですわ!」

「だったら、私のほうからしよう」

「え!?」


 ハイドランジアはヴィオレットの手をすくい取り、指先にそっと唇を寄せた。

 触れられた指先からカーッと熱くなっていく気がして、ヴィオレットは羞恥心に耐える。 熱っぽい視線を浴び、どうすればいいのかわからなくなった。

 雰囲気を壊すために、別の話題を振る。


「あの、そういえば、今日、ハンカチに刺繍をしましたの」


 枕の下に入れていたハンカチを取り出し、ハイドランジアに手渡した。


「この、私の名と猫を、ヴィーが刺したと」

「ええ。大したものではありませんが」

「これは、とてもすばらしいものだ。ありがとう」

「い、いえ」


 先ほどの色っぽい目つきから、少年のような微笑みに変わっていく。

 刺繍したハンカチがあってよかったと、ヴィオレットはひとまずホッとした。

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