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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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95/122

元嫁は、魔法図書室で勤務を始める

 魔法図書室は、ヴィオレットの父の書斎とは比べものにならないほど広い。

 蔵書数は三十万冊ほどで、目にはみえない異空間の部屋もいくつか存在するらしい。

 螺旋らせん階段や天井にまで、本が敷き詰められている。古い本特有の臭いはなく、埃っぽさもない。空気はよどんでおらず、部屋の隅から隅まで清潔だった。

 なんでも、ちりや埃が発生しないような魔法がかけられているらしい。そのため、掃除をしなくてもいいようだ。使用人を図書室に入れないようにするための、対策でもある。

 あまりにも広いので、ハイドランジアは図書室内の地図を広げて説明する。


「この辺りは、禁書を保管している場所だ。触れるだけで瘴気しょうきが生じる本もある。扱いは気を付けろ。一応、危険な本には、魔法陣で印を付けている」

「禁書は触れられないよう、封印がかけてありますの?」

「いや、警告用の魔法陣ではあるが、封印は特に付けていない」


 ハイドランジアの答えに、ヴィオレットは目を見開く。


「わたくしが、うっかり禁書に触れて中を読み、大きな事件を起こすとか、考えませんでしたの?」

「ヴィーがそのようなことをする者ならば、司書部長に選んでいない」

「どうして、わたくしがそうであると、わかりますの?」

「ヴィーは魔法に対して、敬意を示している。そして、現代の魔法の扱いについて、熟知していた。それに反する行動に出ないだろうことは、魔法を教えている時から把握していた」


 ヴィオレットの魔法に対する姿勢を、ハイドランジアはしっかり見ていたのだ。

 思わぬ信頼に、頰が熱くなっていくのを感じる。そんなヴィオレットの様子に気づきもせず、ハイドランジアは話を続ける。


「実を言えば、ここの整理は十年ほど行われていない。入手した魔法書は、ここに適当に積んである」


 ハイドランジアは懐から鍵の束を取り出し、その中の一本を何もないところでひねる。すると、空間がゆがんで大きな二枚扉が出現した。

 内部は、白塗りの壁に大理石のテーブルがあるばかりの部屋だった。そこに、千冊を超えるであろう本が、山のように積み上げられていた。すべて、魔法書らしい。


「これを、種類ごとに整理してほしい。禁書もあるから、扱いには注意してくれ」


 本にうっすらと魔法陣が浮かんでいるものが、禁書らしい。それ以外の本にも、魔法のインクでカテゴリー分けがされているようだ。


「印がないものは、軽く内容を読んで、振り分けてほしい」

「わかりましたわ」

「頼んだぞ」


 他にも修繕が必要な本や、翻訳が必要な本、処分する本など、仕事は多岐に亘る。それらを、ヴィオレットは一人でこなさなければならない。山のように仕事はあるが、ヴィオレットはドキドキと胸が高鳴っていた。

 大好きな、魔法書に囲まれた空間で仕事ができるなんて夢のよう。仕事を任せてくれたハイドランジアには、感謝の気持ちしかない。


 ハイドランジアは鍵の束をヴィオレットに託す。両手で受け取った鍵は、ドレスの腰にあるリボンに結んで吊した。


「昼食は、一緒に食べよう。なるべく、毎日」

「一介の団員が、師団長閣下と一緒に食事を取るなんて、畏れ多いですわ」

「気にするな」

「他の団員は、特定の者と一緒に食事を取っていると知ったら、面白くないのではなくて?」

「私のすることに、文句は言わせない」

「案外、独裁的ですのね」

「ヴィーのことに関しては、寛大になれないのでな。それにヴィーの魔力は、私と一緒にいないと安定しないだろう」

「そうでしたわね」

「まあ、そうでなくとも、なるべく、一緒にいたい」


 だったらなぜ、離婚なんかしたのか。その答えは、すでに聞いている。ハイドランジアの寿命が刻一刻と迫っているからだ。

 ハイドランジアの死後、ヴィオレットが結婚相手に困らないよう配慮した結果だ。

 しかし、そんなことよりも、生涯添い遂げてくれと言ってくれたほうがヴィオレットは嬉しい。その価値が、自分にはないのか。そんなことすら、考えてしまう。

 何か、ハイドランジアの死を回避できる方法はないものか。もしかしたら、ここの蔵書の中にあるのかもしれない。


「ハイドランジア様は、ここの本はすべてお読みになられたのですか?」

「いや、すべてではない。なんせ、読み切れないほどの量があるからな」

「ここの本を読みたい場合は、ハイドランジア様に申告すればよろしいの?」

「好きな本を好きなだけ読むといい」

「よろしいの、ですか?」

「もちろんだ。ただし、勤務中はダメだからな」

「はい。ありがとうございます」


 ヴィオレットは深々と、頭を下げる。

 ハイドランジアと別れたあとは、すぐに作業を開始した。

 まず、一冊目の本を手に取る。薄紅色に着色された革張りの本だ。その本は鳥の羽根のように軽かったので、ギョッとした。

 いったいなぜ、重さを感じないのか。その疑問は、背後に降り立ったガーゴイルが説明してくれた。


『あー、それ、妖精図鑑だよ。先代が中に封じていた妖精を逃がしちゃって、空っぽなんだよね』

『先代ったら、見ない振りをして、本を閉じて放置してしまったんだ』

「妖精は、どこに?」

『そう遠くへは行っていないと思う』

『魔法師団の敷地内にいると思うなあ』


 本を開くと、妖精のシルエットが影のようになっていた。

 不完全な状態で、本を棚に差し込むわけにはいかない。

 ヴィオレットは妖精探しを決意した。 

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