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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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92/122

元嫁は新しい朝を迎える

『キュンキュン?』

「うう……ん」

『キュキュ~~ン』

「はっ!」


 朝──ヴィオレットは竜の子の寝言で目覚める。カーテンから僅かに太陽の光が差し込んでいるので、そう早くもない時間なのだろう。


 ヴィオレットは寝台の端のほうへと追いやられ、真ん中では竜の子がポメラニアンを枕にしつつお腹を上に向けて眠っていた。その隣にスノウワイトが大きな体を丸くして眠っている。

 クイーンサイズの大きな寝台ではあるものの、ヴィオレットが使えるスペースはごくわずかだ。

 寝台から落ちたこともあるし、布団を取られて風邪を引く時もある。けれど、気持ちよさそうに眠る竜の子とスノウワイトを見ていたら、毎朝どうでもよくなっていた。


「ヴィオレット様、おはようございます。バーベナです。入ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、よろしくってよ」


 バーベナが寝室へとやってきて、恭しく会釈をした。


「おはよう」

「おはようございます」

「バーベナ、また、今日からよろしくね」

「はい。心から、お仕えしたいと思います」


 バーベナはハイドランジアの乳母だった女性で、ヴィオレット付きの侍女である。

 年頃は母親が生きていたら彼女と同じくらいか。

 ハキハキ喋り、キビキビ働く気持ちのいい人だ。ヴィオレットが心から信頼している人物の一人である。


「本日は、コバルトブルーのデイ・ドレスをご準備いたしました。いかがでしょうか?」

「それにいたします」


 寝間着を脱ぎ、ドレスをまとう。襟は詰まっていて、フリルやレースはなく、スカートがストンとまっすぐ流れているシンプルな意匠だ。

 化粧は薄く施された。頬にかかる髪は熱したコテで巻き、後ろの髪は一つに纏め捩じり上げてお団子状にする。


「いかがでしょうか?」

「ええ。問題なくてよ。ありがとう」

「もったいないお言葉です」


 身支度が整ったら、スノウワイトと竜の子を起こす。ポメラニアンは起きていたが、竜の子が目覚めるまで枕役を務めているようだ。


「ねえ、起きて。朝よ」


 スノウワイトはもぞもぞ動くばかりで、竜の子は目覚める気配すらない。

 これも、いつものことだった。竜の子とスノウワイトは、朝に弱い。

 仕方がないので、ポメラニアンを竜の子から引き抜いて連れて行くことにする。


 食堂では、ハイドランジアが無表情で新聞を読んでいた。相変わらず、朝から完璧な美貌をさらしている。

 窓から陽光を浴びて輝くハイドランジアを、ヴィオレットは目を細めて見つめる。


「おはよう、ヴィー」

「おはようございます。ハイドランジア様」


 ポメラニアンを下ろし、執事が引いた椅子に座る。

 離婚したというのに、いつもの朝と何ら変わらない。


「どうした?」

「いえ、わたくしはハイドランジア様の妻でもないのに、ここにいてもいいのかと思いまして」

「ヴィーの魔力は私の傍にいないと安定しないのだろう? 気にするな。どうせ、部屋は空いている」


 ハイドランジアがヴィオレットを傍に置くことを許しているのは、魔力の問題だけなのか。

 なんだか、心の中がモヤモヤする。


「ヴィー、今日は魔法師団に見学にくるか?」

「え?」

「魔法師団がどういう組織か、まだきちんと見せていないだろう?」

「そう、でしたわね」


 一時期、ハイドランジアの秘書兼侍女として一緒に付いていくことはあったが、きちんと建物の中を見学したわけではない。


「どうする?」

「行きたい、ですわ」

「だったら、支度をしておけ」

「はい。ありがとうございます」


 まさか、翌日から連れて行ってもらえるとは思いもしなかった。

 ドキン、ドキンと胸が高鳴っている。


 父親と同じ、魔法師団に入団できるのだ。夢のようだとも思っていた。

 緊張するあまり、食事の味がよくわからないままだった。

 喉の渇きもいつもより感じ、紅茶は二杯も飲んでしまった。

 朝食を終えた一時間後に、出勤する。

 スノウワイトと竜の子も一緒に出勤することとなった。

 今まで寝ていたのだが、ヴィオレットが家に置いて行くと言ったら、すぐさま目を覚ました。


 竜の子を胸に抱き、スノウワイトはヴィオレットのあとをのっしのっしと付いて来る。


「ハイドランジア様、お待たせいたしました」

「む。スノウワイトと竜の子も連れてゆくのだな?」

「はい。何か、問題でも」

「いや、ない」

「では、行きましょう」

「ああ」


 出勤は転移魔法である。一瞬にして、ハイドランジアの執務室に到着した。


「どわー!!」


 転移した瞬間、ハイドランジアの副官クインスが驚いて腰を抜かす。


「あら、ごめんなさい。驚かせてしまいました」

「気にするな。こいつは毎朝、私が来ただけで大袈裟に驚く」

「まあ、そうでしたのね」

「すみません、ビビリで……」


 クインスはヴィオレットと同じくらいか、一つ年下くらいだろう。にっこり微笑むと、あどけなく感じる。


「ヴィオレットは近々、ここで働くことになる」

「そうなんですね。よろしくお願いしま──って、大白虎でかっ!! それと、竜!?」


 まずはスノウワイトの存在に目を剥き、続いて竜の子に気づいて体をのけ反らせて驚く。


「皆、いい子ですのよ。どうぞよろしくお願いいたします」

「は、はあ」


 クインスは顔を引きつらせながら、会釈を返していた。


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