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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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元嫁は、元夫エルフへ想いをはせる

 ヴィオレット・フォン・ノースポールは普通の貴族の娘と大きく違っていた。

 異性に触れると猫化する。いつ戻るかわからないため、外出は禁じられた。

 心慰めるものは父親が所蔵していた魔法書。それから、兄が趣味で読んでいた不思議な物語。

 魔法はヴィオレットの知識欲を満たしてくれた。実際に魔法を使うことは禁じられたが、それでも魔法への興味は尽きなかった。

 物語の世界は、いつもいつでもヴィオレットをドキドキハラハラさせてくれる。

 その中でも、千年前の英雄譚は何度も読み返した。

 魔王が降臨した世界は、危機に陥る。そんな中で王子が精霊を連れ、大賢者であるエルフに助けを乞う。

 英雄譚の挿絵にあるエルフは、それはそれは美しく描かれていた。

 幼いころのヴィオレットは、エルフという存在に憧れを抱いていた。

 英雄譚は実話で、今でも伝説のエルフの血を引く一族が存在する。

 ローダンセ公爵家──魔法師団を創設し、魔法の保存と魔法に関わる事件を引き受ける組織である。

 その師団長を代々勤め上げるのが、ローダンセ公爵家の当主なのだ。

 エルフ族であるものの、人と交わってきたために寿命は百年もないという。

 けれど、見た目はエルフそのままらしい。

 ローダンセ公爵家について父から話を聞いたヴィオレットは、一度でもいいから会って話をしてみたいと思っていた。

 しかし、家から出ることを禁じられていたヴィオレットは、生涯エルフ族を見ることなど叶わないだろう。

 そう思っていた折に、思いがけない事態となる。

 ローダンセ公爵家の当主ハイドランジアが、ヴィオレットを妻にしたいと望んだのだ。

 念願のエルフである。

 ヴィオレットは夢見心地でハイドランジアの姿を見た。

 英雄譚に出てくるエルフ族と同じく、美しい銀の髪に澄んだ瞳、整った目鼻立ち。それから、尖った耳を持っていた。

 描かれていたエルフよりも、さらに美しい。

 まるで、物語の世界の住人のようだと、ヴィオレットは感激した。

 ハイドランジアは、ヴィオレットの夢を壊さない完璧な姿だった。

 そんな物語の住人が、ヴィオレットに求婚してきた。

 ただ、この求婚はヴィオレットを気に入り、妻になってほしいと乞うものではない。

 結婚するとハイドランジアとヴィオレット、両方に旨みがあるというもの。つまり、契約結婚だった。


 実家であるノースポール伯爵家は困窮していたが、ハイドランジアは援助を名乗り出たのだ。

 援助をする代わりに、ヴィオレットはハイドランジアのお飾りの妻となる。

 金で買われた結婚というわけだ。


 美貌のエルフ族であり、魔法師団の師団長であるハイドランジアは、傲慢で冷たく、偉そうにしていた。ヴィオレットの兄にも、酷い行いをする。

 結婚なんて絶対にしたくないと思ったが、実家の状況は無視できない。

 そんなわけで、ヴィオレットはイヤイヤハイドランジアと結婚したのだ。


 形ばかりの夫婦生活をする中で、ヴィオレットはハイドランジアから魔法を習うこととなる。

 どうせ、偉そうにしながら教えるのだろう。そう考えていたが、予想は外れる。

 ハイドランジアは忙しい仕事の合間を縫って、ヴィオレットに魔法の基礎から丁寧に教えてくれた。

 何か失敗したり、間違ったことを言ったりしても、厳しく叱ることはない。

 どこが間違っているかヴィオレットが納得するまで説明し、できるようになれば褒めてくれた。


 意外にも、ハイドランジアはよき師匠だったのだ。

 さらに、美しいルビーがあしらわれた杖を贈ってくれた。それは、ヴィオレットの宝物となっている。


 ヴィオレットはハイドランジアへの気持ちを改め始めていた。


 思いがけないことはそれだけではない。

 ヴィオレットは幻獣大白虎ヴィットティールの子を育てることになった。

 最初は小さな子猫だったのに、今では二メトルくらいの大猫になっている。まだまだ大きく成長するようだ。

 ハイドランジアは二人の娘だと言っていた。だが、スノウワイトと名付けられた大白虎はいまだにハイドランジアに心を許していない。

 そんなハイドランジアとスノウワイトのやり取りは、どこか微笑ましく笑えるのだ。


 次に、ヴィオレットの中に存在していた竜が、卵となって生まれた存在、竜の子。

 白くモチモチした子竜はすくすくと成長している。

 いったい、どれだけ大きくなるのか。今から戦々恐々としていた。


 ハイドランジアとの結婚生活は毎日が奇想天外。

 バタバタと忙しかったり、ゆっくりのんびり過ごしたり、思いがけない事件に巻き込まれたり。

 外出を禁じられていたヴィオレットにとって、新鮮で面白く、愉快な日々だった。

 ハイドランジアはヴィオレットのことを第一に考え、守ってくれる。

 頼りになる「旦那様」だった。


 共に暮らしていくうちに、ヴィオレットはハイドランジアを愛するようになる。

 ハイドランジアもまた、ヴィオレットに愛情を向けているような気がしていた。

 ヴィオレットが抱える問題が解決したあとは、本当の夫婦になると思っていた。

 しかし、ハイドランジアは夫婦関係を解消し、ヴィオレットに実家に帰るように言ってきたのだ。

 大きな大きな衝撃を受ける。

 裏切られたと思い、ハイドランジアへの愛はぎゅっと蓋を閉ざしてしまった。

 きっと、深い理由があるのだろう。心のどこかでわかっていたが、なぜそれを話してくれないのか。

 信頼されていなかったのだと気づき、落ち込みながら実家へ戻る。


 実家にいても、邪魔になる。ならば、修道院にでも行こうか。

 そんなことを考えていたら、ある違和感に気づいた。

 魔法が上手く使えないのだ。魔力が安定せず、簡単な魔法も失敗してしまう。

 加えて、異性に触れたら猫化してしまうようになっていた。

 猫化は完璧に制御ができていたと思っていたのに、なぜ?

 考えてもわからないし、元の姿になかなか戻れない。


 ハイドランジアに相談していいものか。そんなことを考えていると、彼がノースポール伯爵邸へとやってきた。

 もう、会いたくないと思っていたのに、ヴィオレットは心のどこかで歓喜していた。

 それなのに、口から出た言葉は「会いたくない」だった。

 兄より、カーテンの後ろにでも隠れて、話を聞きなさいと言われる。それには応じた。


 そこで、真実を耳にする。


 ハイドランジアは自身の中に在る魔力に、体を蝕まれているのだという。

 このままでは、若くして死んでしまうと。

 ヴィオレットは動揺した。

 ハイドランジアに死んでほしくない。でも、自分に何ができるのか。

 自問しても、答えは浮かんでこない。


 ハイドランジアは再びヴィオレットへ手を差し伸べた。

 その手に、自らの手を重ねる。


 ハイドランジアのためにできることはない。けれど、傍にいたいと強く思った。


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