表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/122

デレデレエルフは元嫁に堂々とキスをする

 突然口付けがしたいなどと述べたので、ヴィオレットは可愛らしい猫の口をぽかんと開いている。


『他に、方法はありませんの?』

「残念ながら、ない」

『……』


 せっかくハイドランジアの膝の上で寝転がっていたのに、ヴィオレットは我に返ったのか起き上がってしまう。

 毛がぶわっと膨らんだのは、警戒からなのか。


「ヴィーよ、これはヴィーのためにしているのだぞ?」

『……』

「まあ、イヤならば、他の案を考えるとしよう。かなり、時間がかかると思うが」

『イ、イヤではありませんわ。これは、わたくしが人の姿に戻るためですもの!』

「そうだ」

『ハイドランジア様、どうぞ、わたくしに口付けを』


 ヴィオレットはぎゅっと目を瞑り、ハイドランジアのほうへと顔を上げた。


「──ッ!」


 世界最高の、キス待ちの顔である。可愛すぎるにもほどがあった。

 きっと、ただの猫ではここまで胸がときめくことなどないだろう。

 ヴィオレットだからこそ、ドキドキするのだ。ハイドランジアはそう思っている。


 外套で包んでいた上着ごとヴィオレットを抱き上げ、口にそっとキスをした。


 すると、魔法陣が浮かび上がり、発光したのちにパチンと音を立てて霧散した。

 強い光に周囲が包まれたのでハイドランジアは瞼を閉じる。しかしその光は、すぐに消えてなくなった。

 同時に、ずっしりと今までとは違う重みを膝に感じた。

 そっと瞼を開けたら、人の姿に戻ったヴィオレットの姿があった。


「ほ、本当に、ハイドランジア様の口付けで戻りましたわ」

「みたいだな」


 今回はハイドランジアの外套を纏っているので、産まれた時の姿ではない。

 しっかり袖を通した状態で、戻ったようだ。

 ヴィオレットを背中から抱くようにして膝に座らせたまま、ハイドランジアはさらなる要求をする。


「ヴィー、一度、にゃーと鳴いてみろ」

「え?」

「忘れたのか? 猫の鳴き声は猫化の詠唱のようだっただろう?」


 以前までは、「にゃー」と鳴くことが猫化となる引き金トリガーだった。

 今度はそれができるか、試してみる。


「……」

「ヴィー、どうかしたのか?」

「あ、いえ。また、猫になって戻れなくなったら、どうしようかと」

「その時はまた、私がヴィーに口付けをすればいいではないか」

「あ、そ、そうですが」


 きっと、何度してもヴィオレットにとっては恥ずかしい行為なのだろう。

 頬を紅く染め、潤んだ目でハイドランジアを見上げ、困った表情を見せている。

 あまりの可愛さに、もう一度、キスがしたくなる。

 しかし、ヴィオレットにこれ以上嫌われたくないので、ぐっと我慢した。


「せっかく人の姿に戻ったのだから、また、明日にするか」

「いいえ、今、できますわ!」


 負けず嫌いのヴィオレットは、今すぐできると言い切った。居住まいを正そうとしたので、ハイドランジアは待ったをかける。


「ヴィー! あまり、人の姿で動くな!」

「すみません。今、膝から下りますわ」

「いや、そのままでいい。ただ、あまり身じろぐなと言っているだけで」

「重たいのでは?」

「重くはない。ただ、別のことで困っている」

「?」


 小型の猫と違い、人のヴィオレットとの距離はあまりにも近い。

 匂いや触れた感覚、その身に感じる重みが、まるで違う。ちょっと動いただけで、ハイドランジアは大きな衝撃を受けてしまうのだ。


「具体的に、どんなことで困っていますの?」

「それは……」


 ムラムラする、などと正直に言えるわけがなかった。ここは、沈黙を貫き通す。


「私のことはいい。早く、にゃーと鳴いてみるのだ」

「ええ、そうでしたわね」


 ヴィオレットは息を大きく吸い込み、深く吐き出す。

 そして、彼女は「にゃあ!」と躊躇ためらうことなく鳴いた。

 すると、先ほどと同じように、ヴィオレットの前に魔法陣が浮かび上がって強く発光する。

 パチンと音が鳴ると、ヴィオレットの姿は人から猫へと変わっていった。


『ね、猫に、なりましたわ』

「ならば、猫化の魔法は自在に使えるようになったのだろう」

『不思議ですわね』

「不思議でもなんでもない」


 ハイドランジアは猫化したヴィオレットの頭を撫でつつ言った。


「ヴィーの魔力は、私の傍にいてこそ安定する。そのため、常に傍にいれば、魔法は自在に操れるのだ」

『ということは、わたくしはハイドランジア様から離れられない、ということですの?』

「そうみたいだな」


 再び、ヴィオレットの毛がぶわりと膨らむ。これが意味することは、イヤだと思っているのか。それとも、別に構わないと思っているのか。

 ハイドランジアにはわからない。


「どうせ、ヴィーは魔法師団に入団するのだろう。ならば、いつも一緒だ」

『ハイドランジア様、本当に、わたくしを魔法師団に入れてくださるの?』

「そうだ。嘘は言わない」


 そう答えると、ヴィオレットの耳と尻尾がピンと立つ。

 これは、喜んでいるということが見て取れた。


「初の女性団員だから、苦労するかと思うが」

『今まで、いませんでしたの?』

「そうだな。男社会に入ってまで、魔法使いとして活躍したいと望む女性はいなかった」

『なんだか、複雑ですわ』


 魔法を習うのには、多大な金がかかる。裕福な貴族でも、なかなか手出しできる学問ではない。

 今の時代、貴族女性が社会でもっとも貢献できることが結婚である。

 そのため、女性魔法使いという存在が稀なのだ。


「ヴィーはどうしたい?」

『わたくしは──魔法を使って国のために働きたいと、思っています』


 ハイドランジアはヴィオレットを高々と抱き上げて叫んだ。


「それでこそ、ヴィーだ! 私は、誇りに思うぞ!」

『は、恥ずかしいので、下ろしてください』

「ふむ。すまなかった」


 ヴィオレットを膝に下ろしてからも、ハイドランジアは満足げな目で愛おしい猫を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ