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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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愚か者エルフは、元嫁を持ち帰る

 ヴィオレットと共に家に帰ることができる。

 ハイドランジアは嬉しくてたまらない。

 存在感を殺していたヴィオレットの兄ノースポール伯爵に断りを入れる。


「そんなわけで、ヴィーと子ども達は我が家に連れて帰ることにした。よいか?」

「あ、はい。よ、よろしいかと」

「感謝する」


 ヴィオレットだけでなく、愛しい我が子達も一緒に帰らなければならない。

 大白虎ヴィットテイールのスノウワイトと、竜の子である。

 ちなみに、竜にまだ名はない。

 幻獣の名付けは使役に繋がることがある。竜を使役するともなれば、どれほどの魔力を必要とするか未知数だ。最悪、魔力が枯渇して、死ぬ可能性がある。そのため、まだ名付けを行っていない。


「スノウワイトと竜の子は、ヴィーの部屋にいるのか?」

『え、ええ』

「迎えに行っても?」

『いえ、わたくしが呼んできますわ。ハイドランジア様は、そこでお待ちを』

「わかった」


 ヴィオレットはハイドランジアの腕の中から跳び下り、テテテと走って自室へと戻る。

 再び、ノースポール伯爵と二人きりになってしまった。

 気まずさから逃れるため、ハイドランジアは話しかけた。


「必死になってヴィオレットに縋る私が、愚かに見えるだろうか?」

「いいえ、とんでもないです」

「正直に言ってよい」

『まったくもって愚かだな』


 そう言ったのは、ポメラニアンであった。ハイドランジアは渾身の眼力でポメラニアンを睨みつける。


『愚か者エルフよ。怖い目で見るのは止めるぞよ。正直に言ってよいと言ったのは、お主ではないか』

「ポメラニアン、お前には言っていない!」

『狭い心の持ち主だ』


 ポメラニアンがいると、まともに話もできない。


「おい、ポメラニアン。お前は先に家に戻れ」

『ここに連れてきたのは、お主だろが。誠に勝手な男ぞよ』

「ここにいるならば、黙って座っていろ」

『わかったぞよ。ちなみに、私の声は最初の発言以外元嫁の兄には聞こえないようにしていた』

「な、なんだと!?」


 衝撃の事実である。ハイドランジアは、今まで犬と喋る怪しい人に見えていたようだ。


 ノースポール伯爵のほうに視線を移すと、サッと逸らされてしまった。


「私は──」

『ハイドランジア様、連れてまいりました』


 スノウワイトは渋々といった感じでやってきて、竜の子はスノウワイトの背中ですうすうと寝息を立てながら眠っていた。


 ハイドランジアはノースポール伯爵に弁解できないまま、家路に就くことになってしまった。


「どうしてこうなった」

『何がですの?』

「いや、なんでもない」


 ヴィオレットを抱き上げ、スノウワイトと竜の子と共に自宅へ魔法で転移した。

 降り立ったのは、壁一面に本が並ぶ地下の魔法工房。スノウワイトは眠いようで、竜の子を器用に背中に乗せたまま、上の階へと上がっていった。ポメラニアンはヤレヤレと言った感じで部屋を去る。


「今日はもう遅い。猫化についての謎の追及は、明日行うか?」

『いいえ、今! あ、ハイドランジア様が、お疲れでなかったら、ですけれど』

「疲れていない。ヴィーは、その体だと不便だろう。解決するかわからないがな」

『では、よろしくお願いいたします』


 猫の姿のヴィオレットを抱いたまま、一人がけの椅子に腰かける。

 寒くないよう着ていた外套でヴィオレットの体を包んでから、膝にそっと優しく乗せた。


『ハイドランジア様、わたくしなんかを包んだら、外套に毛が付きますし、皺にもなりますわ』

「大丈夫だ。外套は、何枚も持っている。それに、突然姿が戻った時に、必要になるだろう」

『そう、でしたわね。では、お言葉に甘えて』


 ヴィオレットの猫化についての情報をまとめた本を手に取り、読んでいるふりをしながら頭を撫でる。

 ヴィオレットの毛並みは、触り心地は最高だ。必死に顔がにやけないようにしながらも、よしよしと撫で続ける。


『あ、あの、ハイドランジア様、わたくしの頭を撫でる必要はあるのですか?』

「ある。こうして、ヴィーの内なる魔力を探っているのだ」

『そう、でしたのね』


 もちろん、嘘である。ハイドランジアが撫でたいから、撫でているのだ。

 頭から首筋に手を移動させ、最後に顎の下を毛の流れに沿ってかしかしと掻くように撫でる。


『うっ、うう……』

「どうした?」

『な、なんでもありませんわ!』

「触れらるのがイヤならば、言ってくれ」

『イ、イヤでは、ありませんけれど!』

「そうか、よかった」

『……』


 猫は顎の下に触れると喜ぶと本で読んだことがある。猫化したヴィオレットも、例外ではなかったようだ。

 顎の下を撫で続けていると、ヴィオレットの強張っていた体がだんだんと解れていく。

 最終的に、ハイドランジアの膝の上でコロンと横たわってしまった。


「──!?」


 あまりにも、無防備な姿である。愛らしい寝姿に、ハイドランジアは「可愛すぎるだろうが!」と、声を上げそうになってしまった。


『ハイドランジア様、それで、わ、わたくしの魔力を見て、何か、わかりましたか?』


 ヴィオレットの声が、熱っぽくなっている。

 それに煽られるように、ハイドランジアは言った。


「ふむ、そうだな。まずは、私と口付けをしてみよう」


 それは、ただの変態発言ではない。

 ヴィオレットとハイドランジアがキスをすることによって、猫化の魔法が解かれた実績が数多くある。

 決して、猫とキスがしたい男の変態的発言ではないのだ。


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