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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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訪問エルフと滝汗ノースポール伯爵

 もう婚姻関係ではないため、ハイドランジアは玄関口から訪問する。

 ノースポール伯爵家の老齢の執事は、突然の訪問に驚いていた。


「あ、あなた様は──」

「見ての通り、ヴィオレットの元夫だ。彼女と話がしたいのだが」

「は、はい。では、どうぞ、中へ」


 すぐに、中に案内される。


(おい)


 ポメラニアンが脳内に語りかけてくる。


「なんだ?」

(お前、さっき執事に、嫁を失った悲しみのあまり、犬と常に一緒に行動している憐れな男という目で見られていたぞ)

「好きなように見るがいい。私は構わない」

(ちなみに今は、独り言を言っている危ない奴と思われているぞ)

「……」


 長椅子を勧められ、腰かける。ポメラニアンは逃げないように、膝の上に置いて押さえておいた。

 執事の生温かい視線を受けながら、客間でヴィオレットを待つ。

 数分後、やってきたのはヴィオレットではなく、兄であるノースポール伯爵だった。


「ご無沙汰しております……」

「元気そうで何よりだ」

「おかげさまで」


 ノースポール伯爵は実に気まずそうに、ヴィオレットが来なかった理由を話し始める。


「あの……ですね、ヴィオレットは……その」


 はっきり言わないか。そんな言葉をハイドランジアは呑み込む。

 相手はヴィオレットの兄である。さすがのハイドランジアであっても、言えなかった。

 ノースポール伯爵はしどろもどろと言いよどんだ末に、ようやく話し始めた。


「妹は、会いたくない、と言っておりまして」

「……」


 驚きはしない。むしろ、その答えしか想像できていなかった。

 実家に帰るほど怒っていたのだ。簡単に会ってくれるわけがない。


「一言謝罪でもしたら、会ってくれるだろうか?」

「いや……あの、難しいかなと」

「謝罪もさせてくれないと」

「申し訳ありません……」


 もしや、ここにヴィオレットはいないのではないか。そんなことを思い、ハイドランジアは屋敷内の魔力を探る。すると、ヴィオレットの魔力を感じた。

 ただ、何か結界のような物を張っているようで、現在位置まではわからない。

 このような小細工も覚えたのかと、感心するのと同時に悔しくもなる。

 ハイドランジアはふんと鼻を鳴らし、足を組んでノースポール伯爵に宣言した。


「では、会ってくれるまで、ここで待つことにしよう」

「えっ、それは……」

「迷惑だと言いたいのか?」

『普通、迷惑だろうが』


 絶妙なタイミングで、ポメラニアンがツッコミを入れる。

 突然聞こえた声にノースポール伯爵は驚き、執事を振り返った。当然ながら、執事は自分ではないと首を横に振る。


「あの、今、どこからか中年男性の声が聞こえたのですが?」

「私は、聞こえなかったが」


 間違いなくポメラニアンの声だったが、ハイドランジアはしらばっくれた。


「ノースポール伯爵の本心が、声となって聞こえてきたのではないか?」

「そ、そんなことは」

「ちなみに、なんと言っていた?」

「あ……いえ。私の気のせいだったようです」

「そうか」


 ハイドランジアはポメラニアンを抱えたまま立ち上がり、部屋から出て行こうとする。


「あ、あの、ローダンセ公爵、ど、どちらへ行かれるのですか?」

「ヴィオレットのところへ」

「し、しかし、妹は、会わないと」

「会わなくてもよい。ただ、話がしたいだけだから。対面でなくても会話はできる」

「で、でも……妹は……」


 ノースポール伯爵は妹思いである。普通の兄は、ここまで妹を庇わないだろう。


「ノースポール伯爵、私とヴィオレットが結婚をなかったことにしたと聞いて、どう思った?」

「……」

「本心を語ってくれ。言わないと、魔法を使って吐かせるぞ」

「あ、い、言います。あの、離婚すると聞いて、正直ホッとしました!」

「……」


 ポメラニアンが笑いそうになったので、早急に口を塞いでおく。


「その、ローダンセ公爵が結婚相手として悪い相手だったというわけではなくて、妹とローダンセ公爵は家柄も、性格も、つり合っているように見えなかったので。その、あの、すみません」

「いや、いい。ノースポール伯爵の言う通りだろう」


 ヴィオレットとハイドランジアは、水と油のようだった。しかし、共に暮らしていくうちに、理解しあい、愛を深め合っていたような気もする。


「私は、ヴィオレットと契約結婚を申込んだ。しかし、彼女と暮らしていくうちに、深く愛するようになった」


 ハイドランジアの告白に、ノースポール伯爵は瞠目する。想定外のことだったのだろう。


「だから、本当の妻として迎えるつもりだったが──ある騒動の時に使った大魔法により、私の中にある魔力が、日に日に大きくなっていたことに気づいた。このままでは、魔力を抑えきれずに死ぬ」


 エルフは強大な魔力を保有することに耐えうる体の創りとなっている。

 しかし、ローダンセ公爵家の当主は人と交わることによって、多くの魔力を受け止めることができなくなっていた。

 その結果、容量以上の魔力が生じた時、死を迎える。


「だから、死する前に、ヴィオレットを自由にしようと思ったのだ」

「そ、そうだったの、ですね……」


 事情を理解したノースポール伯爵は、ポロポロと涙を流していた。


「正直な話、ローダンセ公爵に、捨てられた妹が、気の毒でならなくて……しかし、妹は、捨てられたわけではないのですね……」

「当たり前だ」


 今でも愛しているのだから。

 ハイドランジアははっきりと告げる。


(おい、それは元嫁の兄ではく、元嫁本人に言うべきではないのか?)

(うるさい、ポメラニアン。直接脳内に話しかけてくるな!)


「ヴィオレット、今の言葉、聞いたか?」


 どこにヴィオレットが? そう思った瞬間に、カーテンから一匹の猫が出てきた。


「ヴィー!」


 どうやらヴィオレットは、ハイドランジアの話をずっと聞いていたようだ。

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