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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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爆走エルフと、逃げるポメラニアン

「ヴィー、な、なぜ、猫の姿に?」

『実家に帰らせていただきますわ!!』

「え?」


 そう言って、ヴィオレットはくるりと踵を返す。

 バーベナに命じ、扉を開けさせた。


「ヴィー」


 突然のことで動揺し、ヴィオレットの名を呼ぶ。

 すると彼女は振り返ったが、牙を剥きだし、シャー! と威嚇するような声で鳴いてから叫んだ。


『わたくしを追ってきたりしたら、絶交ですわ』

「……」


 別れがこれでは心残りとなる。そう思ってハイドランジアは立ち上がったが、絶交と言われ体が動かなくなった。


 ヴィオレットは走り去り、視えなくなってしまった。

 ハイドランジアはそのまま、膝からくずおれる。


 ◇◇◇


 バーベナより、「奥様をご実家に送ってまいりました」という報告が入った。

 自分で突き放したのに、ショックを受けてしまう。

 用意された夕食も、喉を通らなかった。


 ふらふらと、ヴィオレットの部屋に行ったが、中はまっくら。

 それだけではなく、スノウワイトに竜の子もいない。皆、ヴィオレットが連れて行ったのだろう。


 残っているのは、ヴィオレットの香りだけである。

 特に寝室は、ヴィオレットの香りが強く残っていた。

 寝台の前に片膝を突き、絶望に打ちひしがれる。


「ヴィー……」


 こうなることはわかっていた。しかし、長くいればいるほど、別れが辛くなる。

 だから、決意を固めていたつもりだった。

 ヴィオレットと離れることは、想像以上に辛いことだった。


 ヴィオレットのいない残りの人生は、どういうふうに生きたらいいのか。

 その答えは、すぐには浮かんでこない。


 ヴィオレットの枕の匂いをかごうと手を伸ばしたところで、背後より声をかけられる。


『おい変態エルフ、何をしておる?』

「お、お前は、ポメラニアン!!」


 ハイドランジアの恥ずかしい行動を、ポメラニアンが目撃してしまった。

 すぐさま手を伸ばし、モフモフの体を捕獲しようとする。が、ポメラニアンは寸前で回避した。


『何をするのだ!』

「今の行動を見てしまったお前を、生かしてはおけない」

『精霊殺しは大罪ぞよ!』

「殺しはしない。記憶を消すだけだ」

『嘘を吐け! 今、生かしておけないと言ったではないか!』

「気のせいだ。さあ、私のもとへ来るがよい」

『近寄るな! この、変態エルフめ!』

「何回、変態エルフと私を呼ぶつもりだ」

『まだ二回ぞよ!!』


 ハイドランジアは走ってポメラニアンを捕獲しようとする。

 しかし、ポメラニアンは捕まるまいと逃げた。


「待て、ポメラニアン!」

『待つわけないだろうが!』


 ポメラニアンはヴィオレットの部屋から飛び出す。ハイドランジアもそれに続いた。


 ポメラニアンとハイドランジアの、追いかけっこが始まった。


 ハイドランジアの事情を知らない使用人は、ポメラニアンと遊んでいるのだと思う。

 ハイドランジアの事情をよく知る使用人の一人バーベナは、ついにご乱心かと思っていた。


「はあ、はあ、はあ……この、ポメラニアンのくせに、小癪な!」

『ふ、ふん! さすが、変態エルフ。体力が、ありあまっている。それに、悪役が吐くようなセリフが、よく似合うぞよ』

「お前は……絶対に赦さんぞ」

『別に構わぬぞ!』


 ハイドランジアはくたくたになるまでポメラニアンを追いかけた。

 疲れたハイドランジアは、その日の夜はぐっすり眠る。


 ◇◇◇


 ヴィオレットがいない朝を迎えてしまった。

 愛妻がいない食堂は、灰色の世界に見える。


 食卓にはヴィオレットが作るように命じていた三日月パンが並んでいて、ハイドランジアは心の中で涙を流しながら食べる。

 集中力が欠けているのか、転移魔法が使えなくなっていた。そのため、久々に馬に乗って出勤する。


 白馬に跨ったハイドランジアは、街中で思いっきり目立っていた。

 そんな中で、書店にヴィオレットが好きだと言っていた作家の新刊を発見する。

 贈ってあげたら喜ぶだろうか。それとも、迷惑だろうか。そんなことを考えこんでしまう。

 子どもに妖精さんだと指差され、ハッと我に返った。

 ここで、物思いにふけっている場合ではない。仕事に行かなければ。


 国王を襲った事件から一週間が経過していた。魔法使いの在り方も、数世紀ぶりに見直されるという。

 国の魔法使いの代表として、ハイドランジアは毎日忙しい日々を送っていた。


「閣下、本日は朝から定例会議、そのあとは国王陛下直々にお話があるようです。午後からは視察、夕方からは面会、夜は隣国の首席魔法使いとの会食となっております」

「ふむ」


 副官クインスの報告に、生返事をする。

 ハイドランジアの心あらずの様子に、クインスは違和感を覚えたようだ。


「閣下、その、今日は体調がよろしくないのですか?」

「なぜ、そう思う?」

「上の空に見えたので」

「気のせいだ」

「だったら、いいのですが……」


 気を紛らわせるためか、クインスは続けて話しかけてくる。


「あの、さっき聞いたのですが、今日の朝、街中で世にも美しい銀妖精と呼ばれる存在が目撃されたそうですよ。銀の髪を持ち、耳はエルフのように尖っていて、うっとりするような美しい容貌で、書店の前で物思いにふけっていたそうです。白馬にも跨っていたそうで……それはそれは、幻想的だったようで。ぜひとも、見てみたかったなーと」

「それは私だ」

「え?」

「今日は馬で出勤してきた」


 クインスはハイドランジアを指差し、「間違いなく、話の通りの銀妖精だ!」と叫んだ。

 ハイドランジアは、誰が銀妖精だとツッコミを入れた。


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