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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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竜の子は、邪竜に向かい

 パキ、パキパキパキ、パリン!!


 ガラスが割れるような音を立てながら、竜の卵が割れた。

 口で突いていたのか、人差し指と親指を丸めたくらいの穴が開いている。

 ポメラニアンの背中で、竜が誕生したのだ。

 心配そうに、ヴィオレットが覗き込む。

 すると、鼻先を出してくる。白い鱗に覆われており、鼻の先端は薄紅だった。

ヴィオレットが顔を近づけると、ペロリと舐める。


『きゃっ!』


 その声に驚いて、今度は穴から目を覗かせる。

 澄んだ空のような、美しい青い目がヴィオレットを見ていた。


『キュン?』


 愛らしい鳴き声に、ヴィオレットの驚きはすぐに解かれた。

 うわごとのように、『なんて可愛いの』と呟いている。


『キュキュ、キュウウン』

『なんと言っている?』

『卵から、出たい?』

「おい、そんなことを今、話している場合か!」

『ですが、苦しげに聞こえて』

「ええい!」


 ハイドランジアは殻を二つに割り、竜を外に出してやる。

 竜の子は成人男性の手のひらくらいの大きさだった。

 まるまるとしていて、目はくりっとしている。長い尾の先まで、綺麗な白い鱗が生えていた。

竜の子は『キュン』と鳴くと、バサバサと翼をはためかせ空を飛ぶ。


『まあ、あなた、危ないですわ!』

『いったい、何をするぞよ!?』


 ハイドランジアは手を伸ばしたが、竜の子の捕獲に失敗する。

 空を飛ぶ魔法を展開させようとしたら、ポメラニアンに止められた。


『おい、止めろ! お前は、高所恐怖症だろうが!』

「一分くらいであれば、耐えられる!」


 そうこう話している間に、邪竜の『闇の行軍』の魔法式は完成していく。

 詠唱を邪魔しようと魔法を放つが、すさまじい濃度の魔力に弾き返されてしまうのだ。

 そんな状況の中、淡く光る竜の子が、邪竜に向かって飛んでいた。


『あなた、戻ってきなさい!!』


 ヴィオレットの声には反応し、振り向く。だが、言うことは聞かず、『キュン』と鳴いたきり、再び邪竜のもとへと飛んでいく。


 ついに、邪竜との距離が五メトルまで近づいた時、竜の子は魔法陣を展開させた。


『キュキュ、キュン!』


 歌うように、呪文を詠唱する。魔法陣はみるみるうちに大きくなり、邪竜の大きさ以上にまでなった。


『あ、あれは、なんですの?』

『ま、まさか!』

「伏せて、目を閉じろ!」


 ハイドランジアはヴィオレットとポメラニアンを胸に抱き、庇うように姿勢を低くした。

 それと同時に、周囲が光に包まれる。


『キュキュキュ、キュ~ン!』


 聖なる祝福ホーリー・ギフト


 光魔法の最上位で、悪しき存在ものすべてを滅する。

 天も、地も、人も、魔物も、ありとあらゆる存在は浄化される、奇跡の中の奇跡の魔法だ。


 光はなかなか収まらない。そんな中で、邪竜の断末魔が聞こえる。


 そして──地上に舞い降りた絶望、邪竜は滅することとなった。


 ◇◇◇


 その後、魔法師団の団員の安否確認が行われた。

 邪竜召喚時に、団員の命も魔法式に加わっていたが、誰一人命を落としていなかった。

 ハイドランジアがいち早く、団員の命を対価の中から外していたのだ。

 そのため、代わりにエゼール家の魔法使いの命が対価と成り代わってしまったのだろう。

 完全に、自業自得であった。

 王太子マグノリアも帰国し、王宮の者達の幻術も解かれた。

 国王の振りをしていたトリトマ・セシリアは、騎士隊に捕らわれる。


「クソ! どうしてこんなことになった! 俺は悪くない! 悪いのは、俺を唆したエゼール家の魔法使いだ! あいつだけを、捕らえるんだ!」

「いいから、まっすぐ歩け」

「クソ!!」


 トリトマ・セシリアは処刑すべきだという声があがったが、待ったをかけたのはマグノリア王子だった。

 死ぬよりも、生きることのほうが辛い。

 そう言い含め、終身刑を言い渡した。彼は最低限の食事と生活環境の中で、長い人生を生きることとなる。


 こうして、ヴィオレットの父、シラン・フォン・ノースポールにとっての長い戦いは幕を閉じた。


 もう、二度とこのようなことがあってはならない。

 ハイドランジアが行ったのは、輪廻転生の流れを断つこと。禁術であったが、致し方ない。

 前世に未練や恨みがあった者の野心が、今回の事件を引き起こしたのだ。

 国王からも許可を貰い、トリトマ・セシリアとエゼール家の魔法使い二人の、来世への魂の流れを、完全に断った。

 これからは前世に囚われず、新しい命となって生まれるだろう。

 願わくば、幸せに生きて行けるように。ハイドランジアは散った命へ願った。


 ◇◇◇


 生まれた竜の子は、前世の記憶はなく、子どものように無邪気だ。

 ヴィオレットを母親だと思っているようで、ひと時も離れようとしない。

 大白虎ヴィット・テールのスノウワイトは、ヴィオレットを取られたようで面白くない。しかし、竜の子が姉のように慕うので、だんだんと絆されつつある。


 事件は解決し、実家であるノースポール伯爵家を脅していたトリトマ・セシリアはいなくなった。猫化の呪いも勘違いだったことが明らかとなり、「にゃ~」と鳴けばいつでも変化できる。

 もう、ヴィオレットに憂い事は一つもなかった。

 

 そんな中で、ハイドランジアが問いかける。


「ヴィーよ」

「なんですの?」

「聞きたいことがあるのだが」

「なんなりと」

「これから、どうするのだ?」

「どうする、というのは?」

「私と本当に結婚するのか、ということだ」

「はい?」


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