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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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苦戦エルフと壊滅の魔法師団

 月夜の晩──ハイドランジアは王城へ向かう。


 ヴィオレット、ポメラニアンと共に向かったのは、魔法師団の執務室である。

 王城の敷地内すべてに結界が張ってあるのだろう。妨害のようなものを感じたが、すぐに封じ突破した。

 ヴィオレットの腰を抱き、着地する。ポメラニアンも続き、執務室に浮かんだ魔法陣の上に優雅に降り立っていた。

 執務室には、数名の魔法使いが待機している。皆、不安げな表情だった。

 副官であるクインスが、涙目でハイドランジアの胸に飛び込んでくる。


「ローダンセ閣下~~!!」


 ハイドランジアはクインスに抱き着かれそうになったが、額を押して拒絶した。


「うっ、酷い!!」

「酷くない。いったい、何をする!」

「だって、ホッとして……」

「何があった? 報告しろ。喜ぶのは、事件が解決してからだ」

「は、はい……」


 王城の隣の宮殿にある魔法師団は、謎の魔法にかかり脱出不可能状態になっていたようだ。


「閣下に連絡しようにも、魔法で妨害されて」

「なるほど」


 魔法の知識がある者達は、閉じ込めていたらしい。

 しかし、閉じ込めただけでは解決しないだろう。明日になれば、ハイドランジアが出勤してくるのだ。

 かけられた魔法はハイドランジアの侵入を阻もうとした。しかし、第一魔法師である彼は難なく魔法を解くことができた。


 魔法師団の団員達は、次々と失神したらしい。


「魔力の少ない者から、昏倒しているようです」

魔力吸収マギア・ドレインか?」

「おそらく」


 魔法師団の団員の魔力を吸って、ここの結界を維持しているようだ。

 ハイドランジアは奥歯を噛みしめ、悔しさを募らせる。


「倒れた者達は、救護室で休ませています。寝台が足りず、長椅子や毛布を敷いた上に寝かせている者もいますが……」

「そうか」


 なんとか耐えることができた者だけ、ハイドランジアの執務室に集まったようだ。


「閣下の部屋は、閣下の結界で守られています。ここから一歩外に出ただけで、苦しくなるのです」

「……」


 いったい、何の魔法なのか。ハイドランジアは考える。

 古代魔法の中に、『人肉結界』という禁術があったことを思いだす。

 人肉結界とは人の血肉を使って結界を作るもので、世にある結界の中でも最強と言われている。

 命と引き換えに、展開させる最低最悪の魔法だ。

 ただ、今の状況では断定できない。


「そ、それから、変な、刻印のようなものがあって」

「刻印だと?」


 ハイドランジアが呟いた瞬間、魔法師団の建物が震えた。


「地震か?」

『むうんっ!?』


 ポメラニアンが思いっきり渋い中年親父のような声で唸ったが、皆自分のことで精一杯で気づいていなかった。


「きゃあ!」

「ヴィー、大丈夫だ」

「ハイドランジア様!」


 ヴィオレットはハイドランジアに抱き着き、揺れに耐える。

 ポメラニアンは四肢をふんばって、堪えていた。


「どわあ!」


 クインスは支えるものがなく、床の上を転がっていく。


 ハイドランジアは水晶杖を取り出し、床に打ち付けた。

 自身の魔力を流し、どのような魔法が展開されているのか探る。


「──!?」


 ありえない呪文の構成に、ハイドランジアは息を呑んだ。


「ハ、ハイドランジア様! 窓に、呪文が」


 振り返ると、血で描かれたような呪文がびっしりと浮かんでくる。

 ガラスがミシ、ミシと音を立てていた。ハイドランジアのかけた結界を、破ろうとしているのだ。


 結界のおかげで魔力を奪われる感覚はないが、建物の揺れはただの揺れではないのだろう。

 魔力を素手でぐちゃぐちゃにかき混ぜられているような感覚に陥る。

 何かを調べるような、魔法なのだろう。


「クッ!」


 ミシミシと音を立てているガラスが、限界であると叫んでいるようだった。


「させぬ!」


 結界に魔力を注ぎ、強化させる。そして、さらに水晶杖で床を叩いた。

 すると、揺れは収まる。


 残っていた団員も、意識を失っていた。床の上に倒れ、ピクリともしない。魔力を刺激され、意識が昏睡状態になってしまったのだろう。


 ヴィオレットは表情を青くしながらも、特に異状はないようだ。大精霊であるポメラニアンも同様である。


 倒れた団員の中で、唯一唸り声をあげている者がいた。副官のクインスである。

 彼は第二魔法師で、魔法師団の中でも魔力の高い魔法使いなのだ。


「ううっ……」

「おい、クインス。意識はあるか?」

「い、意識は、ありま~す」

「では、立て」

「はい」


 返事はしたものの、生まれたての子鹿のようにプルプルと震えていた。顔も土気色になっている。明らかに、体調は万全ではない。

 ハイドランジアはしゃがみ込み、クインスの額に手を当てる。


「──汝、祝福す、不調の因果を、癒しませ」


 青い魔法陣が浮かび上がり、パチンと音を立てて弾けた。

 回復魔法を施すと、クインスはホッと息をはきだす。


「大丈夫か?」

「な、なんとか。閣下、ありがとうございます」

「大事な、駒だからな」

「駒……はい。頑張ります」


 クインスは立ち上がり、表情をキリッとさせていた。


「閣下、これは、どのような魔法なのでしょうか?」

「邪竜召喚だ」

「へ?」

「邪竜、召喚」


 邪竜──魔王と呼ばれ恐れられた存在である。

 人々の命と引き換えに、この地に邪竜を召喚しようとしていたのだ。


「そ、そんな、邪竜召喚なんて、古代に、失われた魔法では!?」

「転生者がいるのだ。古代の、魔法使いのな」


 早く手を打たなければ、大変なことになる。

 ハイドランジアはすぐさま行動を起こした。


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