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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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猫好きエルフと、確認する嫁

 ヴィオレットは異性に触れても、猫化しなくなった。

 異性への恐怖を、克服したのだろう。

 そして──「にゃあ」と鳴くと猫化する、という特殊能力を身に着けた。


 夫婦は並んで座り、現状がよい方向へ進んでいることを喜び合った。


「これで、ヴィーは異性への接触を気にせず、外出できるだろう」

「本当に、嬉しいですわ。自由に外出できるなんて、夢のようで……」

「どこに、行きたい?」

「……?」

「どうした?」

「いいえ、外出を禁じられていた時は行きたい場所やお店がたくさんあったはずなのに、今は一つも思い浮かばなくって」


 もっとも行きたかった劇場は、ハイドランジアが連れて行った。それで、満足していたのかもしれない。


「ゆっくり考えるといい」

「ええ、ありがとうございます。でも今は、ハイドランジア様とこうしてゆっくりのんびりと、過ごしたいのです」


 ヴィオレットはそう言って、ハイドランジアに身を寄せる。

 その瞬間、全身の肌が粟立った。

 なんて、可愛らしいことを言ってくるのか。

 カ~~ッと顔が熱くなり、だんだんムラムラしてくる。きっと、抱き寄せてキスをしただけでは止まらないだろう。


 夫婦にはまだ、越えなければならない高く厚い壁があったのだ。

 桃色になった気分を誤魔化すため、別の話題を振った。


「しかし、短縮詠唱での猫化は素晴らしい能力だ。今後、役立つだろう」

「ハイドランジア様、猫化がなんに役立ちますの?」

「そ、それは……なんだ、そうだな……」


 まず、見た目が愛らしくて癒される。次に、鳴き声が美しいので、耳が浄化される。それから、存在が奇跡。その姿を目の当たりにしただけで、心が晴れる。

 少し考えただけで、たくさん思い浮かんでくる。しかし、口に出すのは酷く恥ずかしいものばかりだ。

 そんなことを考えているうちに、ヴィオレットの目つきが鋭くなっていく。


「ハイドランジア様は、やっぱり猫好きですのね」

「犬より猫のほうが、好ましいだけだ」

「素直になったらよろしいのに」

「……」


 唇を噛みしめ、追及から逃れようとする。が、ここでまさかの展開となった。


「にゃあ」

「!?」


 猫化の呪文を唱えたヴィオレットは、金色の猫の姿となる。

 その姿はあまりにも美しく、尊い。ハイドランジアは熱い溜息を落とした。


『今、ハイドランジア様のわたくしを見る様子が、変わりましたわ』

「私は、いつもと変わらない」

『どうせ、普段のわたくしより、猫の姿のわたくしのほうが好きなのでしょう』

「そんなことはない」


 そう答えても、ヴィオレットはぷいっと顔を逸らす。怒ってそっぽを向いた姿も、最高に愛らしい。

 今すぐ抱き寄せたいが、じわじわ逆立つ毛を見ていると噛みつかれそうだ。


「ヴィー……」


 思いのほか、懇願するような弱々しい声がでてしまった。

 ヴィオレットは振り返り、凝らした目でハイドランジアを見る。


『猫好きではないとしたら、これも、耐えることができるはず』

「?」


 ヴィオレットはハイドランジアに近寄って、頬ずりした。


「──ッ!!」


 最高に可愛い!!

 今すぐ、抱き寄せて頬擦りし返したい。だが、ぐっと堪える。


『ハイドランジア様ったら、我慢強いのですね』


 そう言って、ヴィオレットは次なる行動に出た。

 なんと、ハイドランジアの膝に上り、丸くなったのだ。

 その瞬間、息が詰まってしまう。


「はっ、はっ、はっ……!」


 ヴィオレットが可愛すぎて──辛い。

 ハイドランジアは嫁を愛らしく思うあまり、息をすることもままならなかった。

 そんなハイドランジアの様子を確認したヴィオレットは、ポツリ、ポツリと話し始める。


『ハイドランジア様は、わかりやすいのです。猫化した瞬間、目つきが変わりましたもの』

「どんな目だ」

『わたくしに、キスを迫る時のような──あら、ハイドランジア様は、普段のわたくしも大好きなのでしょうか?』

「どんな姿でも、ヴィーはヴィーだろう。ただ、猫の姿の時のほうが、小さくて可愛がりやすいというか……なんというか……」

『まあ! そうでしたのね。わたくしったら、勘違いを』


 なんとか、誤解(?)は解けたようでホッとする。


 ◇◇◇


 雲間から月が姿を覗かせるという、魔力満ちた夜──ハイドランジアは行動を起こす。


「ヴィー、覚悟はいいか?」

「いつでも、よろしくってよ」


 ヴィオレットは凛々しく答えた。

 今宵の彼女は、男装姿でいる。シャツの襟にジャボを巻き、ベストを着こんで、下はズボンに黒いブーツを合わせている。

 すべて、ハイドランジアが少年時代に着ていた服装だ。魔法無効化や物理攻撃を跳ね返す結界など、さまざまな魔法が糸に込められている。


 ハイドランジアはヴィオレットの男装姿を見て、うんうんと何度も頷いていた。

 寸法はぴったりで、胸元から腰、尻、腿、ふくらはぎと、見事な体形が見て取れる素晴らしい装いだった。

 魔法の服なので、纏う者に合わせて服の寸法が変わるのだ。

 ただ、この素晴らしい恰好は他の者に見せるわけにはいかない。


「ヴィー、これを着ておけ」

「これは、ハイドランジア様の外套では?」

「いいから、着ておくのだ」


 ヴィオレットの肩に、漆黒の魔法使いの外套をかける。これで、一見して男装しているとバレない。完璧な工作だった。


「さて、行くか──」

『待たれよ!』


 そう言ってやってきたのは、竜の卵を背負ったポメラニアンだった。

 今日は、ポメラニアンが卵を温める当番だったようだ。

 そんなポメラニアンが、思いがけないことを口にする。


『私も、王城へゆくぞ!』


 キリリとした顔で言っていたが、背中に卵を背負っているおかげでイマイチ決まらなかった。

 しかし、大精霊であるポメラニアンの同行はありがたい。

 ハイドランジアは胸に手を当て、ポメラニアンに敬意を示した。



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