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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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憤怒エルフともじもじ国王

 いったい、何が起こったのか。とりあえず、身支度を整えてもらった。

 一時間後──立派な身なりに着替えた国王は、もじもじしていた。

 着替えたのに、国王の威厳はほぼ消えている。


「それで陛下、いかがなさいましたか?」

「わ、私の偽物が、出たのだ」

「偽物、ですか?」

「ああ、そうだ」


 偽物の国王との邂逅は突然だった。


「月に一度の、市民を招いた謁見の日があるだろう?」

「陛下、それは三日後の予定でしたが?」

「う、うむ……そうだが」

「なぜ、日付を変えたのです?」

「し、臣下が、どうしても今日したいと」

「また、言いなりになったのですね?」

「うう……」


 誰かの糸引きがあったようだ。


「誰が言ったのです?」

「さ、宰相の弟で、最近入った……」

「ルードルフ・フォン・デーベライナー、ですね?」

「そ、そうだな」


 ハイドランジアは国王の前であったが、舌打ちする。

 宰相は数少ない国王に忠誠を誓った男だが、一族がそうであるとは限らない。

 弟が出仕すると聞いた時、ハイドランジアは訝しく思っていたのだ。

 ルードルフ・フォン・デーベライナー、御年四十二歳。今まで、政治に関わることなく、不労収入で豪遊する自由人だと噂されていた。実際、ハイドランジアは宰相本人からルードルフの話を聞いたことがある。家族すら、扱いに困っていると。

 ハイドランジアは、よくもそんな男を入れたものだと思った。人事権を握っていたら、絶対に反対している。

 ローダンセ公爵家は、政治に一切関わらないと初代が取り決めを作っていたので介入できなかったのだ。


「私は一度、あの男には気を付けるよう、言っていましたよね?」

「まあ、うん、そうだったな」

「王太子様にも言われていたでしょう」

「う、うむ」

「なぜ、言うことを聞いてしまったのですか?」

「……」

「陛下!」


 ここで、ヴィオレットがハイドランジアの手を握る。


「ハイドランジア様……」

「なんだ?」

「もっと、お優しくなさったほうが。国王陛下も、傷心ですのよ」

「それは、そうだが」


 国王はヴィオレットの言葉に、コクコクと頷いていた。

 ヴィオレットが触れた指先から、体がじわじわと温まっていく。ハイドランジアは怒りを抑え、冷静さを取り戻した。

 一度、ふうと長い息をはいた。


「あの、ハイドランジア。その、一応、私は一度、断ったのだ。ハイドランジアのいない日に、謁見はできないと」


 謁見は、応募者の中から身分問わずに選ばれる。そのため、当日はハイドランジアが国王の傍に立ち、護衛を務めるのだ。

 強力な結界は、術者が近くにいないと発動されない。

 ローダンセ公爵家の初代が作ったような常時展開型の強い結界は、現代では失われた魔法なのだ。

 ハイドランジアも結界を張っているが、侵入者が敷地内に入ったら知らせる程度のものである。強制的に捕えたり、攻撃を加えたりするタイプの魔法は、空気中に漂う魔力が豊富だった時代だからこそ使えたものでもあるのだ。


「そ、それで、ルードルフとやらに言われたのだ」


 ──陛下は、ローダンセ閣下の言いなりなのですね、と。


「なるほど。それを聞いて、国王は私のいない日に謁見をすることにしたと」

「う、うむ」


 ハイドランジアは膝の上にあった両手で拳を作り、強く握った。

 ヴィオレットがいなかったら、国王を怒鳴っていただろう。

 今は、ぐっと我慢する。


「ハイドランジア、怒っているのか?」

「いいえ、まったく」

「お、怒っているだろう? 怒りは、小出しにしたほうがいい。溜めておくと、いつか爆発する」

「怒ってないと言っております。どうぞ、続きをお話しください」

「う……まあ、そうだな」


 謁見直後、ボロボロの外套に身を包んだ男がやってきた。


「たまに、こういう者もおるから、なんとも思っていなかった。しかし──」


 男が頭巾を取り外した瞬間、国王は驚愕する。自分と同じ顔を持っていたからだ。


「その者が言ったのだ。玉座に座っているのは、偽物の王だ、と」

「……」

「どうしてか、周囲の者達はそれを信じてしまった」

「おそらく、幻術と、強制催眠です」

「魔法! そうか、魔法、だったのか」


 頼みの王太子は、外交の旅に出ていたらしい。国王はまんまと嵌められてしまったのだ。

 ハイドランジアは本日二度目の溜息を吐いた。


「私はそのあと、偽物が着ていたボロボロの服を着せられ、牢屋に入れられた。ご、五時間後に、処刑される予定だった」

「ありえないですね」

「そ、そうだな」


 処刑はそんなに早く決まらない。何度も審議をしたのちに、執り行われる。

 ハイドランジアが翌日出勤する前に、処分してしまおうという魂胆が見え見えであった。


「だから──魔法師団を国王の護衛に付けるように言っていたのに」

「それは、すまなかった」


 いまだに、魔法に対するイメージはそこまでよくない。過去の悪しき歴史を引きずったまま、現代に至る。

 特に、魔法使いに虐げられた過去を持つ古い家柄の者は、毛嫌いしているのだ。

 それらの一族は、政治家に多い。

 ローダンセ公爵の初代は魔法使いの扱いに怒り、今後一切政治にかかわらないと宣言している。加えて、王族の身辺警護はしない、と。

 その姿勢はハイドランジアの父親の代まで続いていたが、ハイドランジアは国王と多くかかわっていた。


「ハイドランジア、許してくれ」


 この通り、放っておけない人物だからだ。


「それで、どうやって脱出したのですか?」

「それが──」


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