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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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猫エルフ、嫁に猫かわいがりされる

 少女の姿をしたヴィオレットは、愛らしい姿でキスをすればいいと発言。

 ハイドランジアの全身の毛が逆立ち、後方に二、三と跳んで距離を取った。


「ハイドランジア様……わたくしとキスをするのは、イヤですの?」

『そんなことはない!』


 ヴィオレットとキスなんぞ、したいに決まっている! と、ストレートに言うのはさすがに自重した。


 ハイドランジアはちらりとヴィオレットを見る。

 幼い彼女の姿で、キスをするのは重い罪のような気がするのだ。


 それ以前にも問題があることに気づく。


『我が妻ヴィオレットよ』

「ハイドランジア様、ヴィー、ですわ」

『我が妻、ヴ、ヴィー』


 まだ、ヴィーと呼ぶのは照れてしまう。名前を呼ばれるのも、慣れていない。しかし今は、恥ずかしがっている場合ではなかった。


「それで、なんですの?」

『今、キスをするのには、問題がある』

「問題、とは?」

『人の姿に戻った私は、おそらく裸だろう』

「そうでしたわ」

『せっかくの申し出だが』

「ええ、止めたほうがいいでしょう」


 納得してくれて、ホッとした。しかし、想定外の事態となる。

 ヴィオレットはハイドランジアに急接近し、抱き上げる。

 そして、とろけるような笑顔を浮かべると、額にキスをしてきた。

 ぶわりと、全身の毛が逆立つ。


『な、何を!?』

「だって、猫のハイドランジア様、とっても愛らしいんですもの」

『……』


 子どもの姿に精神も引っ張られているのだろうか。いつもより、積極的だ。

 最終的に、胸の中にぎゅっと抱きしめられてしまった。


『わ、私は、ぬいぐるみではないぞ』

「ぬいぐるみより、ふわふわで可愛らしいですわ」


 ヴィオレットがそう言った瞬間、すぐ近くに雷が落ちた。

 ハイドランジアはとっさに、結界を展開させる。


『あ、危ない……!』

「ハイドランジア様、猫の姿でも魔法を使えますのね」

『そういえば、そうだな』


 よかったと、心から思う。

 雷が落ちた場所には、大きな穴が開いていた。


「竜が、わたくし達に攻撃をしたのでしょうか?」

「……」


 竜の精神世界でイチャイチャするな、というツッコミのようにも思えた。


『先を、急ごう』

「ええ」


 ハイドランジアはヴィオレットの腕の中から跳び下り、暗い森の中に入る。


 竜の精神世界には、魔物がいた。まるで森の奥に入るなと言わんばかりに、次々と襲いかかってくる。


 トカゲの形をした、黒い影のような魔物だ。

 ハイドランジアは魔法で一掃するが、次から次へと出てくる。

 ここで、ヴィオレットが想定外の活躍を見せた。


「業火の射的は釁撃きんげきより現れ、我が身に害なす敵を貫く──」


 ヴィオレットの高い少女の声が、呪文を紡ぐ。そして、手に持っていた紅玉杖ルビー・ロッドを振り上げ、魔法を完成させる。


「光よ熱となれ、炎の矢フレア・アロウ!」


 魔法の炎が矢を作り出し、敵へと放たれる。矢羽から鏃まで炎で構成された矢は、トカゲの額を射ち貫き、たちまち全身を炎上させる。


 ヴィオレットの護身用にと教えていた魔法は、魔物に大打撃を与えていた。

 もしも、魔力が安定していなかったり、魔法の制御が上手くいかなかったりしたらサポートするつもりだったが、必要ないようだった。


 ハイドランジアより魔力量が多いヴィオレットは、次々と魔法で魔物を倒していく。

 とても、初めての戦闘には見えなかった。


「ハイドランジア様、大丈夫ですの?」

『まあ、な』


 ヴィオレットはハイドランジアを守っているつもりらしい。しかし、魔物討伐数は彼女のほうが多いことから、そのようになってしまうのも仕方がない話となる。

 猫の姿では、思うように印が結べず、杖も持てないので魔法の撃てる回数が制限されてしまうのだ。


 森はどんどん暗くなり、道も狭まっていく。

 棘のある蔦が木に巻き付いており、他人を拒絶する深層心理が見て取れた。

 だんだんと棘が鋭くなる。ナイフのような鋭利な棘だった。

 次第に棘が通路側まで伸び、行く手を阻むようになる。

 ハイドランジアは魔法で棘を断ちつつ、先へと向かう。


「どうして、このようなことを……」

『誰も近づくな、という伝言なのだろう』


 そして、森の最深部に辿り着く。竜は、水晶の中に閉じ込められていた。

 金の鱗を持つ、美しい竜だった。

 そこまで大きくはない。尾まで入れて、一米突メートルくらいか。


「これは、いったい──」

「ポメラニアンの封印だろう。竜の意識は、魔法によって抑えられている。触れたらきっと話ができるはずだ」


 さて、どうするか。そう考えている間にヴィオレットが水晶へ近づき、手で触れてしまった。

 触った瞬間、バチンと雷が生じる。


『ヴィー!』

「きゃあ!」


 嫌な予感がしていたので、あらかじめヴィオレットに目には見えない魔法の盾を作っておいた。それが発動し、ヴィオレットは無傷だった。


『ヴィー、何をしているのだ!』

「さ、寂しそうに思えて、つい……」

『寂しい?』


 水晶に閉じ込められた竜を見る。

 ただ、目を閉じ、意識がないようにしか見えない。

 竜の力をその身に宿したヴィオレットだからこそわかることなのか。


 ヴィオレットは竜の力に慄いているのか、微かに震えていた。

 こういう時、抱きしめられない猫の体なのがはがゆい。

 励ますように身を寄せると、ヴィオレットはハイドランジアを持ち上げる。そして、ぬいぐるみのようにぎゅっと抱きしめた。


 ヴィオレットはホッと息をはいていた。どうやら、落ち着きを取り戻したようだ。

 猫の体でも、励ますことは可能らしい。


 と、ここでハイドランジアの中にある魔力がざわつく。それは、ヴィオレットも同様だった。


 大きな力に、体内の魔力が活性化されている。

 その原因は、水晶の中に閉じ込められた竜だろう。

 竜の閉ざされた目が、カッと開く。同時に、水晶にヒビが入った。


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