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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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キス魔エルフとドキドキ嫁

 どこにキスをしたら猫化しないのか。確認する必要がある。

 そう主張すると、ヴィオレットは真っ赤になって反論した。


「そ、それ、どうしても、必要ですの?」

「私にとっては、だがな。嫌だと言うのならば、無理強いはしない」


 下心は大いにある。

 しかし、魔法使いの視点から見ても、キスで姿が変わるというのは大いに興味があることだった。


 下心の件を除き、魔法使いの観点から重要性を主張すると、ヴィオレットも興味を抱き始める。


「たしかに、興味がないとは言えませんわ」

「だろう?」


 手招くと、ヴィオレットはゆっくり、ゆっくりとハイドランジアへ歩み寄る。

 それは、警戒心の強い子猫のようだった。


 ハイドランジアはヴィオレットのほうを向き、膝をぽんぽんと叩いた。


「そこに、座れとおっしゃっていますの?」

「それ以外に何がある?」

「どうして、座る必要が?」

「キスがしやすい」


 ヴィオレットは顔全体を真っ赤にさせ、ジロリとハイドランジアを睨んだ。しかし、迫力はいまいち欠けている。


「膝に座ったら、魔法を一つ見せてやろう」

「どんな、魔法ですの?」

「火で小さな竜を作る」

「まあ!」


 興味がそそられたのか、ヴィオレットはすぐさま近づいてくる。

 ただ、膝に座ることは抵抗があったようだ。

 再びハイドランジアが膝を叩くと、渋々といった感じで座った。


「旦那様。早く、見せてくださいまし」

「わかった」


 ヴィオレットが至近距離にいるせいでいまいち集中できないが、約束を守るために魔法を展開させる。

 まずは指先に小さな魔法の火を点し、魔力を練って含ませる。

 竜を想像し、火に念を送った。すると、火に翼が生え竜の形となった。

 火でできた竜は翼をはためかせ、ヴィオレットの目の前へと飛んで行く。


「素敵!」


 振り返ったヴィオレットの瞳は、宝石のようにキラキラと輝いていた。

 魔法の火で作った竜は、羽ばたいていったあと天井につく前に消えた。


「他にも作れますの?」

「猫……とか」

「火の猫ちゃん!」


 見てみたいと目で訴えてくるので、ハイドランジアは火で猫を作る。

 小さな猫は、ハイドランジアの執務机の上をぴょこぴょこと跳ね回る。

 最後は処分する書類入れに飛び込み、中の紙を灰と化してくれた。


「可愛らしい魔法ですのね。これはなんの目的で使う魔法ですの?」

「……」


 猫を間近でみたいあまり、作ろうと思った魔法である。

 しかし、触れることのできない魔法は空しいと気づかされてくれたものでもあった。

 竜は攻撃魔法として使えないか、研究中だ。


 そんなしようもない理由を、隠すことなく伝えた。


「旦那様は、本当に猫がお好きですのね」

「犬より好ましいだけだ」

「はいはい」


 ヴィオレットは返事をしながら、ハイドランジアのほうを向く。

 目を閉じて、キスでもなんでもどうぞと勧めた。

 その様子は、あまりにも無防備すぎる。


「いいのか?」

「ええ。素敵な魔法を見せていただいたのですもの。わたくしも、協力しなくては」

「感謝する」


 まずはヴィオレットを抱き寄せる。想定外のことだったのか、ヴィオレットの睫毛がふるりと震えた。


「旦那様、このように、くっつく必要は、ありますの?」

「ある。大いに」

「でしたら、いいですけれど」

「嫌だったら、抵抗しろ」


 しばし、動きを止めたが、ヴィオレットは身じろぐ様子はない。

 嫌ではないということだ。

 まずは姫に忠誠を誓う騎士のように、指先にキスをした。


「そ、そこから、ですのね」

「ああ。徹底的に調べるつもりだ」


 指先は問題ないようだ。続いて、手の甲にキスをする。


「う……」

「どうした?」

「こういうことを、されるのは慣れていませんので……」


 うっすら開いたヴィオレットの瞳は、潤んでいた。

 社交界デビューをしていないので、こういう接触には慣れていないのだろう。

 実をいえば、ハイドランジアも異性にこのようなことをするのは初めてである。

 夜会の時に、女性から手を差し出されたことはあったが、知らない振りをして毎回固い握手を交わしていた。


「続きは、どうする?」

「べ、別に、構わなくてよ」

「そうか。だったら──」


 ハイドランジアは頬に軽くキスをした。

 ヴィオレットは軽く反応を示したが、猫に変化する気配はない。


「頬にキスは、問題ないようだ」

「え、ええ」


 続いて、額に唇を寄せた。変化の兆しはない。

 今度は、首筋にキスをする。ここも、問題ないようだ。

 ヴィオレットははあ、と息をはく。安堵の溜息にしては、酷く艶めかしい。

 ハイドランジアはごくりと、生唾を呑み込む。

 最後は唇だ。

 顎に手を添え、キスする。

 ただの行為として集中したかったが、今日ばかりは魔力の流れに注目せざるをえない。

 唇が触れ合った瞬間、ハイドランジアの魔力はヴィオレットのほうへと動いていく。

 それはわずかな量ではあるが、ヴィオレットの中ですぐさま活性化されるようだ。


 ヴィオレットの前に魔法陣が浮かび上がり──姿は猫へと変わった。


「なるほど。わかったぞ」


 ハイドランジアはヴィオレットを抱き上げて喜んだ。だが、彼女の表情は、無だった。


「キスで猫化や人化するのは、魔力の行き来がなされているからだ」

『そう、でしたの』


 ヴィオレットが人の姿をしている時は、ハイドランジアから魔力を吸収する。

 一方、ヴィオレットが猫の姿をしている時は、逆にハイドランジアが魔力を吸収するのだ。

 魔力の動きが原因だったことが明らかとなる。


 ここで、ヴィオレットの異変に気づいた。

 背中の毛皮を逆立たせ、尻尾はピンと伸びている。


「どうした? 原因が判明したのに、嬉しそうじゃないな?」

『……』

「言わなければ、気持ちなど理解できない」


 正直な気持ちを伝えると、ヴィオレットはポツリポツリと話し始める。


『わたくし、キスをされて、すごくドキドキしましたの。でもあなたは、そうじゃないようで、浮かれていたのは、自分だけだって思ったら恥ずかしくなりまして』

「私も同じ気持ちだったが?」

『え? だって、キスは魔法のためだったのでしょう?』

「そうだが、そうではない」

『わかりやすいように言ってくださいまし』


 下心もあったと言えばいいのだろうが、軽蔑されそうで躊躇う。

 他に言葉がないか探したが、相応しいものが見つからない。


「私は、ヴィオレットとキスがしたかった。これでは、だめだろうか?」

『え──いえ、そう、でしたのね』


 ヴィオレットの背中の毛は元に戻り、尻尾も下に垂れる。

 シンプルな言葉で、納得してくれたようだ。


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