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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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提案エルフとびっくり嫁

 ヴィオレットの兄であるノースポール伯爵に挨拶を済ませ、ハイドランジアはローダンセ公爵邸の私室へと転移魔法で戻る。


「きゃあ!」

「む!?」


 悲鳴をあげたのは、ヴィオレットだ。

 まだ猫化から戻っていないようで、ハイドランジアの椅子に丸くなっていた。

 突然ハイドランジアが帰ってきたので、驚いたようだ。


「そこで、何をしていたのだ?」


 そう問いかけると、ヴィオレットはすぐに動揺を押し隠し、ピンと胸を張って答えた。


『旦那様のお帰りを、待っていましたの』

「……」


 猫な妻が夫の帰りを待つ。可愛い。可愛すぎる。最高だと思った。

 ふと、人の姿のヴィオレットがハイドランジアの椅子に座って待っている姿も想像してみる。

 ヴィオレットは上目遣いで、「おかえりなさいませ」と言うのだ。

 想像しただけで、悶絶するほど可愛い。


「最高だ」

『何が最高ですの?』

「は? い、いや、なんでもない」


 外套を脱いで椅子の背にかけ、ヴィオレットを抱き上げる。

 美しき毛皮を持つ妻ヴィオレットは、特に抵抗をしなかった。

 ハイドランジアはそのまま椅子に座り、ヴィオレットは膝の上に置く。


「なぜ、私を待っていた?」

『きちんと、仲直りをしていないと思いまして』

「そうだったか?」


 思い返してみたら、ヴィオレットの腹に触れようとして怒られて終わったような気がする。


『バーベナがすぐに仲直りできる方法を、教えてくださいましたの』

「なんだ? 教えてくれ」

『横を向いていただけます?』


 内緒話のように、こっそり耳打ちしてくれるのか。

 そう思い、指示された通り横を向いた。


 ヴィオレットは前足をハイドランジアの胸に置き、そっと顔を近づける。

 猫のわずかな体重が胸にかかり、ハイドランジアは密かに歓喜の震えを起こす。

 ヴィオレットの姿を間近で見たいが、正面を向いたら怒られるだろう。

 そう思っていたのに、ヴィオレットの『あら?』という言葉に反応して正面を向いてしまう。


「!!」

『!?』


 夫婦は互いに瞠目する。

 ヴィオレットの顔は、想定よりも近くにあったのだ。

 そして、正面同士で向き合う形となり、唇と唇は重なり合ってしまった。


 想定外のキスに、二人の中に流れる時が止まる。

 それも束の間のこと。

 ヴィオレットの前に白く輝く魔法陣が浮かび上がり、パチンと弾けた。

 光に包まれ、猫のシルエットは人型に変わっていく。

 そして──。


「な、なんでこうなりますの!?」


 ハイドランジアも聞きたい。

 しかし、わかったことがある。

 どうやら、猫化と人化の引き金はキスにあるようだった。

 いったいなぜ?

 そんなことを考える前に、すべきことがある。

 真っ赤になるヴィオレットに、椅子の背にかけてあった外套を貸した。

 白い肌がチラチラと視界に飛び込んできたが、なるべく見ないようにする。

 夫婦なのに、なぜ見てはいけないような空気になっているのか……。

 正直に言ったら、思う存分眺めたい。

 そんな個人的な気持ちは端のほうに押しやった。

 とりあえず、バーベナを呼ぶ。


「おやおや奥様、大変なことに。どうぞ、こちらへ」

「え、ええ……」


 扉はパタンと閉ざされる。

 ハイドランジアは天井を見上げ、ふうと息をはいた。


 ◇◇◇


 三十分後、ヴィオレットは戻ってきた。


「ごめんなさい……」

「いや、いい。私のほうこそ、すまなかった」


 横を向いておくように言われたのに、正面を向いてしまった。

 悪いのはハイドランジアだろう。


「あの時、何に反応したのだ?」

「顎の下に、ホクロがありましたので、つい反応を……」

「そうだったのか。知らなかった」


 顎の下など、鏡を使わない限り自分ではみることができない。


「それに、口髭も生えていなくて、綺麗なお肌だなと」

「どこを見ているのだ」


 口髭はあるに決まっている。毎朝、世話妖精が手入れをしてくれているだけだ。

 そんな事情を話すと、ヴィオレットは途端に目を輝かせた。


「ここは、妖精がいますの?」

「あちらこちらにいる」

「童話の世界のようですわ」


 猫に変化する妻が、もっとも童話の世界のような存在だろう。

 本日何度目か分からない溜息をつく。

 とりあえず、ヴィオレットは怒っていなかったようだ。


「それにしても驚きましたわ。どうして、あなたにキスをされると猫の姿になってしまうのでしょう」

「それは──感情のブレが原因だろう」


 魔力と感情は繋がっている。怒ったり、悲しんだり、喜んだりと、冷静ではない時に魔法を使うと、思いがけない効果を発揮するのだ。


 ヴィオレットは嫌ではないと言った。だから、拒絶ではないだろう。

 だったら、なんなのか? 嫌いの反対は、好きである。

 もしや、ヴィオレットはハイドランジアを意識している?

 思っているほど、嫌われてはいないということなのか。

 ただ、勝手にそう分析するのは、自意識過剰だろう。

 ヴィオレットが気づくのをじっくり待つしかない。


「そういえば、仲直りは何をしようとしていた?」

「頬にキスを」

「ほう?」


 それは、素晴らしい仲直りの方法だ。唇にキスには劣るが。

 ここで、名案を思い付く。


「我が妻ヴィオレット」

「な、なんですの?」

「私達は、確認をしなければならない」


 結婚パーティーを開く際、簡易的な婚礼儀式を見せる。その時に、誓いの口付けをしなければならない。


「人前でキスをするなど、はしたないですわ」

「その前に、キスをしたら猫化してしまうだろう。猫化の秘密は、露見させるわけにはいかない」

「そ、そうでしたわ」


 何もキスは唇と唇でなくてもいい。

 額や頬でも構わないのだ。


「結婚パーティーをする前に、私がどこにキスをしたら猫化するのか、確認をしなければならない」

「それは、そうですわね──」


 ヴィオレットは言いかけ、顔を真っ赤にさせる。

 そんなことなどお構いなしに、ハイドランジアは提案する。


「今、確認をしてみよう」


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