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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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驚愕エルフと父の愛

 シランの日記帳を手に取り、長椅子に腰かける。

 先ほどから、本を持つ手がビリビリと痺れていた。

 これは、呪いの類である。


「使っているのは、呪朱インクだな」


 表紙に描かれた朱色のインクの魔法陣は、術者が息絶えても効果が続く特別な魔法だ。

 技術はとうの昔に途絶え、現代には伝わっていない。

 ノースポール伯爵家に伝わる魔法書に、生成方法が書いてあったのか。

 と、今はそんなことを気にしている場合ではない。中の確認をしなければ。

 本自体にも呪朱インクを使った封印が施してあったが、第一魔法師ストイケイアであるハイドランジアは難なく解いた。

 結果、シランは二重に仕掛けを施していた。かなり用心深い男のようだ。


 革表紙を開き、パラリと紙を捲る。


「ほう……?」


 思わず、感嘆の声が出る。日記帳は古代文字で書き綴られていた。

 それだけではない。暗号文のような構成になっており、ただ古代語を知っているからといって読めるものではなかった。


 ハイドランジアは組んでいた脚を戻し、居住まいを正した状態で解読に取りかかる。

 文章の癖を見つけるのに、一時間もかかってしまった。

 途方もない数の文字と文字を組み合わせ、文章にあった並びの法則を発見したのだ。

 長椅子の背もたれに背中を預けたら、ため息が出た。

 まさか、現代の魔法使い独自の古代語の解読をすることになるとは、まったく想定していなかった。


 謎の達成感と疲れを覚えつつ、本格的に日記を読み始める。

 そこにあったのは、シランの愛娘ヴィオレットの誕生の日から始まった育児日記だった。


 シランは娘ヴィオレットの誕生を、それはそれは喜んでいた。

 しかし、最初の悲劇が訪れる。

 それは、妻の死だった。ヴィオレットを出産した翌日に、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまったようだ。

 ただ、シランは妻の死に疑問を覚えていたようだ。まるで、魔力の枯渇状態に似ていると書かれてある。

 シランの妻は、竜の転生体を腹に宿し産んだのだ。もしかしたら、母体に大きな負担がかかってしまったのかもしれない。


 ヴィオレットは乳母の乳を飲み、すくすく育ったようだ。

 天真爛漫なヴィオレットの様子に、ノースポール伯爵家の者達は心癒されていたようだ。


 そんな中である事件が起こる。

 それはヴィオレットが幼いころ、避暑旅行で行った先の湖に落ち、生死の境目をさ迷ったことがあったようだ。

 発熱は三日三晩続き、どの薬も効果はなく医者も匙を投げてしまったらしい。

 シランは絶望していたが、四日目の朝にヴィオレットは目覚めた。

 しかし、目覚めたのはヴィオレットであり、ヴィオレットでなかったのだ。

 ヴィオレットは傍についていたシランを恐れた。

 シランだけではない。医者や使用人など、ヴィオレットに近づくすべての人を怖がったのだ。

 ヴィオレットと呼びかけても、反応を示さない。

 ヒステリックな悲鳴は、幼い子どもがあげるようなものではなかった。

 ここで、シランは思う。まるで、何か・・がとり憑いているようだ、と。

 幸い、ヴィオレットの異変は時間が経ったら収まった。同時に、熱が引いていったという。

 いったいナニがヴィオレットの精神を支配していたのか。

 シランは独自に調べたものの、見つからなかったようだ。

 その後も、ヴィオレットの別の意識が出ることがあった。

 決まって、ヴィオレットが熱を出したり、怪我をしたりと弱まっている時に出てくる。シランはヴィオレットが外出中、うっかり怪我をして豹変することを恐れた。それが、外出禁止に繋がる。


 いったいどうしてこのようなことになったのか。

 シランはヴィオレットを徹底的に調べ上げる。

 そこで、驚くべき魔力量に気づいたようだ。

 周囲に知られたら、研究対象として連れ去られてしまう。それを恐れ、ヴィオレットに魔法を教えなかったようだ。

 さらに、シランは豹変したヴィオレットが叫んだ言葉を記録しており、その単語を一つ一つ拾った結果、あることに気づく。


 ヴィオレットは、竜の転生体かもしれない、と。


 だんだんと、竜の意識が出る頻度が高くなり、乗っ取りの時間も長くなっていた。

 シランが少し怒った程度で、ヴィオレットは竜に体を受け渡していたのだ。

 このままでは、ヴィオレットは完全に竜に意識を乗っ取られてしまう。

 そう恐れたシランは、大精霊ポメラニアンを召喚しヴィオレットの中に存在ある竜を封じるよう願った。


 大精霊の召喚は、体の負担となる。また、対価として捧げる魔力も、シランの命を削るようなものだった。


 日記には、もう命は長くないと書かれていた。

 呪いのこともあるので、ヴィオレットを嫁がせることができないことを深く悔やんでいるようだった。


 庇護者が現れることを、願っているとも書かれている。ヴィオレットの兄は魔法に詳しくない。もしものことがあったら大変だとも。

 父親とは、娘のために命を懸けることができるらしい。

 最後のページに挟まれてあったのは、一通の手紙だ。


「これは!」


 呪朱インクでハイドランジア・フォン・ローダンセ殿と書かれている。ハイドランジア宛の手紙だった。

 どうやら、シランが死んだら届くような魔法をしかけていたようだが、自らの封印の力に魔法が阻まれてしまったようだ。


 ハイドランジアはすぐさま手紙を開封する。


 そこに書かれてあったのは、ヴィオレットを取り巻く事情だった。

 契約で婚約していることになっているものの、よかったら本当にヴィオレットとの結婚を考えてくれないかという懇願が書かれている。


 字が、ところどころ滲んでいた。

 おそらく、シランは涙しながら書いていたのだろう。


 読み終わったあと、ハイドランジアは日記帳を手に帰宅することにした。


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