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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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突然訪問エルフと戦々恐々義兄

 ヴィオレットの前世は竜だった。

 人に殺されてしまった竜の魂は、酷く人を恐れている。

 ヴィオレットは幼いころから、事あるごとに竜の意識が見え隠れしていたらしい。ヴィオレットの父は大精霊ポメラニアンに頼み、竜の意識を封じた。


 この件を、ヴィオレットに話すべきか否か、ハイドランジアは悩む。

 十年前の記憶が戻ったばかりなのに、さらに竜の転生体であることを話したら気に病むのではないか。


 見た目は派手な美人であるが、中身はきわめて天真爛漫。

 魔法を学び、無邪気に喜んでいる。そんな娘だ。

 できるならば、苦しみの中に突き落したくない。


 しかし、これから先、何が起こるか分からない。

 隠しておくことが、良い方向に転がるとは限らないのだ。


 むしろ、きちんと伝えていたほうが、ヴィオレットのためになるだろう。

 ポメラニアンの封印だって、いつまで続くか分からないのだから。


「──クソ!」


 苛立ちを募らせ、執務机をドン! と叩く。

 手に痛みが走ったが、それ以上に心が痛む。


 ヴィオレットに隠し事はしない。結婚した時に、そう決めていた。

 迷うことなどないのだ。

 ハイドランジアにできることは、真実を伝えること。

 それから、ヴィオレットを何がなんでも守ることのみ。


 ヴィオレットの中に竜が宿っていたという話は、具体的な証拠がない。

 話をするならば、その点も説明が必要だろう。

 ヴィオレットの亡き父が何か記録を付けているのかもしれない。


 ハイドランジアはすぐさま、ノースポール伯爵邸へ転移魔法を展開させた。


 ◇◇◇


「ローダンセ閣下、本日もお日柄がよく……」


 ヴィオレットの兄、ノースポール伯爵は額に汗を浮かべながら出迎えてくれた。

 先触れなしの、突然の訪問である。無理はない。


「義兄上殿、他人行儀な呼び方などせず、ハイドランジアと呼び捨ててくれ」

「あ、まあ、そう、ですね……ハイドランジア」


 ハイドランジアは満足げに頷きつつ、本題へと移った。


「本日訪問したのは、義父上殿──故シラン殿の件について聞きたいと思い」

「父についてですか」

「さよう」


 遺品──日記や論文、研究書などあれば見せてほしいと頼んだ。


「父の書斎はそのまま残っています。その……お恥ずかしい話、資金繰りに苦しんでいましたので、価値のある書物がないか古文商に調べてもらったのですが、特に、珍しい書物はないと」

「なるほど。しかし、一度見せていただこうかと」

「はい、ご自由にどうぞ」

「感謝する」


 一人で探したいと言い、書斎の鍵を預かる。

 ずんずんと一人で向かおうとしていたら、ノースポール伯爵に呼び止められた。


「閣下──ではなくハイドランジア。ち、父の書斎をご存じで?」

「知っている……」


 ここでふと、気づく。現代では、一度も行ったことがないと。

 過去に転移したさいに、幼いヴィオレットを追った先がシランの書斎だったのだ。


「いや、知らない。案内を頼む」

「はい」


 過去で見た記憶と同じ場所に、シランの書斎があった。

 ここで一人、ヴィオレットが本を読んでいたことを思うと、胸が締め付けられる。


「妹は幼いころ、ここに閉じこもって本を読んでいたのです」

「知っている……」

「え?」

「いや、知らない」


 中に入ると、カーテンが閉ざされ、少しだけ埃っぽい臭いがする。


「すみません。週に一度掃除をして、空気の入れ替えをするだけのようで……。掃除をさせましょうか?」

「いや、いい」


 ハイドランジアが指をパチンと鳴らすと、手のひら大の妖精が二十ほど出てくる。

 ふわふわの毛玉に見えるが、れっきとした妖精である。


「ハイドランジア……こ、これは?」

「掃除妖精だ」


 掃除妖精──人が出す埃や塵を食料とする変わった妖精だ。

 あっという間に、部屋の中のゴミを食べてしまう。

 澱んだ空気も浄化してくれるので、ものぐさな魔法使いは離すことのできない妖精だ。


「わ……これは、すごいですね」

「便利だろう」

「ええ、本当に」


 もう一度、指を鳴らしたら妖精界へと戻っていく。


「では、ここを調べさせてもらう。日が暮れるまで、邪魔するぞ」

「ええ、ごゆっくり」


 使用人の手によってカーテンが広げられ、部屋は明るくなる。

 書斎は過去でみたのとまったく変わらない姿を維持していた。

 扉が閉ざされたあと、ハイドランジアは一人調査を開始する。


 まず探すのは、本棚ではない。シランの執務机だ。

 最大の目的は、ヴィオレットの竜の意識が出た時の記録である。

 以前、ノースポール伯爵に日記や記録の類はないと聞いていたが、隠してある可能性もあるのだ。


 机の抽斗には、ペンやインク、蝋燭にシーリングスタンプなど、どこにでもあるような文房具しか入っていない。

 仕掛けがある可能性も疑ったが、ただの机のようだった。

 ハイドランジアは舌打ちし、今度は本棚のほうへと挑む。


 目に魔力を集中させ、本棚を睨んだ。すると、魔力の残滓が見えるようになる。

 本棚にあるのは魔法書なので、さまざまな魔法痕が残っていた。

 その中で、現在も発動されたままの『魔法』を見つけた。


 一冊の本に、結界がかけられている。

 それは、どこにでもある魔法の基本が書かれた教書であった。

 金庫の鍵を開けるように、ハイドランジアは結界を解いていく。

 そして──魔法は解かれた。

 本を手に取って頁を開くと、探していたものだったのでハイドランジアの口元から笑みがこぼれる。


 それはシランの日記だった。

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