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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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あらすじ説明エルフと裸で目覚めた嫁

 傅く魔法使い達の先頭に立つ青年の名は、魔法師団の師団長であり、第一魔法師ストイケイアハイドランジア・フォン・ローダンセ。


エルフでありながら、王都で暮らし、国王より公爵位を賜っているという少々変わった一族の青年である。

彼の美貌は、神話時代の神獣ですら片膝を突くとも云われている。

 輝く銀の長い髪に、神秘的な紫の双眸は切れ長で、彫刻のように整った顔立ち。上背があって、引き締まった体は魔法使いには見えない。

 誰もが認める、リリフィルティア国一の美しい青年である。

 若年ながらも魔法師団の師団長を務め、一万名の団員をまとめ上げる優秀な魔法使いである。

 完璧を体現したような人物であったが、ハイドランジア青年は──いささか曲者・・であった。


 ハイドランジアは二十六歳という結婚適齢期で、結婚はいつかとしつこく問われていた。

 しかし、ハイドランジアは自身の美貌が原因で、幼少期から女難に遭い、すっかり女性嫌いになっていたのだ。

 公爵家は他の者が継げばいい。そう考えていたが、周囲は許さない。次々と、見合い話を持ってくる。

 そんな日々に嫌気が差していた彼は、十年前に知り合った魔法使いとある契約を交わしていたのだ。

 契約とは──禁書室の本を読ませる許可を出すことと引き換えに、婚約者の振りをさせること。

 これは婚姻を申し込む者達を、牽制する材料となるのだ。

 仮の婚約者の名は、ヴィオレット・フォン・ノースポール。よわい十九になる伯爵家のご令嬢だ。

 ハイドランジアは、契約を交わした日から思い出すまでの十年間、ヴィオレットとは一度も会ったことがない。

 調べたところ、ヴィオレットは社交界デビューもしていないようだった。

 いったいなぜなのか。今の今まで失念していたハイドランジアが知る由もない。

 書類を交わした婚約にも拘わらず、当人であるハイドランジアが忘れていたのは理由があった。

 ノースポール伯爵家が、何も言ってこないからである。そのため、十年間も婚約状態は継続したままだった。

 しかも、十九となってもヴィオレットは婚約者候補の一人もいないという。

 それはなぜなのか。

ヴィオレットは驚くほどの美女である。性格は多少気が強いものの、それが気にならないほどの美貌を持っていた。

金の巻き毛は絹のごとく輝き、青い双眸はサファイアのように澄んだ輝きを放っている。

だがしかし、伯爵令嬢ヴィオレットには、ある問題があった。

ヴィオレットは異性が触れると──猫の姿になるという呪いがかかっていたのだ。


普通の男性であれば、触れたら猫の姿になる妻などお断りだろう。

しかし、ハイドランジアは違った。

もともと女性嫌いであったため、結婚は望んでいない。

それに彼は、大の猫好きだった。

ハイドランジアは表面上ヴィオレットとイヤイヤ結婚したが、内心はウキウキだったのだ。


しぶしぶ、イヤイヤ結婚したが、新婚生活をするうちにハイドランジアの気持ちは予想外の方向に転がっていく。

気が強く、派手なヴィオレットであったが、共に暮らしていくうちに最初に受けたイメージとは違うことに気づいた。

彼女は案外おしとやかで、淑女の模範のような女性だった。

その上、幼い頃から魔法に憧れており、魔法使いであるハイドランジアに対し、敬意をもって接してくる。


しだいに、猫ではないヴィオレットに強く惹かれるようになった。

ハイドランジアはヴィオレットに魔法を教え、外出を禁じられた妻を外の世界へと誘う。

魔法屋から譲ってもらった幻獣、大白虎ヴィットテイールの子スノウワイトも娘として迎えた。日に日に大きくなり、現在は一メトルほどにまで成長していた。

非常に可愛らしい猫であるが、ハイドランジアにはまったく懐いていない。

そんな切ない事実は措いておいて。

いろいろあるが、家族で満たされた暮らしをしている。

そんな毎日は悪くなかった。


だがしかし、平穏は続かない。

ヴィオレットのハイドランジアを凌ぐ魔力量や、魔法を覚える速さにハイドランジアは違和感を覚える。

加えて、十年以上前からヴィオレットに執着する悪徳商人トリトマ・セシリアの動きも目立ってきた。

彼が従えるエゼール家の魔法使いは狡猾で、尻尾をなかなか掴ませない。

その問題はヴィオレットだけでなく、国王まで及んでいた。

病に伏していた国王だったが、その病は何者かに仕組まれて患ったものだった。


いったい誰が、何の目的のために暗躍しているのか。

頭を抱えていた時に、ヴィオレットの呪いについて判明する。

彼女の呪いは呪いではなく、自身を守るための変化魔法だったのだ。

それは、過去に遡ったハイドランジアが直接見て知ったものである。

トリトマ・セシリアに暴行を受けそうになった瞬間、ヴィオレットは自身を猫の姿へと変化させたのだ。

 以降、ヴィオレットは危険を感じると、猫の姿となってしまう。

 猫はヴィオレットを守る盾だったのだ。

 いったいどうして、このようなことができるのか。

 それは、大精霊ポメラニアンの口により語られた。

ヴィオレットの前世は竜で、膨大な魔力と魔法知識を無意識に引き継いだまま転生していると。

その転生はトリトマ・セシリアと協力関係にあるエゼール家の魔法使いにより、強制的になされたものであった。


ヴィオレットとトリトマ・セシリア、エゼール家の魔法使いは、前世に関係があった三名である。

トリトマ・セシリアは古の時代の国王で、エゼール家の魔法使いは死刑宣告を受けた魔法医だった。

トリトマ・セシリアは王位を取り戻すため、エゼール家の魔法使いは魔法医の地位を取り戻すため、暗躍している。

そんな野望を果たすためには、竜の転生体であるヴィオレットの魔力が必要だったのだ。


ハイドランジアはどうしてこうなったと頭を抱えることになる。


◇◇◇


 ヴィオレットは裸で目覚めた。ハイドランジアの寝台で。

 混乱状態になり、悲鳴を上げたが──その際にハイドランジアが触れても、ヴィオレットの猫化は発動されなかったのだ。

 これはいったいどういうことなのか。

 しかし、シーツを体に巻き付けたヴィオレットはそれどころではないだろう。


 手を上げ、目を閉じたハイドランジアは自分が無害であることを主張しつつ、話しかける。


「そこの椅子に、外套がかけてあるだろう。それを着るとよい」

「え、ええ」


 一発殴られることも覚悟したが、ヴィオレットは何もしてこない。

 がさごそと布が擦り合わさる音が鳴る。

 ヴィオレットは寝台から下りて、ハイドランジアの外套を身にまとっているようだ。


「あら、これは、もしかして、魔法師団の外套ですの?」

「そうだが」

「まあ、素敵」


 何が素敵なのか。ハイドランジアは目を開け、ヴィオレットのほうを見る。

 ヴィオレットは頬を紅く染め、外套をスカートのように摘まんで眺めていた。

 彼女は素肌に、ハイドランジアの外套を着こんでいるのだ。

 それに気づいたら、鼻にぬるりと生温かいものが滴る。血だ。


「きゃあ!」


 ハイドランジアの鼻血に気づいたヴィオレットが悲鳴を上げる。


「だ、大丈夫ですの!?」

「いや、平気だ」


 大丈夫だと言っているのに、ヴィオレットは駆けてきてハイドランジアに応急処置を施そうとする。

 円卓にあったナイフでシーツを裂き、丸めて鼻に詰めてくれた。

 その際、ヴィオレットは屈んでハイドランジアを覗き込む。

 外套の下から、素肌が見えそうになっていた。

 彼女の豊かな胸部が、外套の布地を押し上げている。


「しばらくしたら、止まるはずですわ」

「う、うむ」

「働きすぎるから、こういうことになるのですわ」

「そ、そうだな」


 そういうことにしておいた。


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