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魔法(物理)が使えるエルフと結界花

 大股で中庭を突っ切り、ヴィオレットとバーベナのもとへ向かった。


 ヴィオレットは結界花に興味津々のようで、先ほど見かけた場所から離れていない。

 結界花の全長は一メトルほど。一つにつき、一つの花を咲かせる。

 茎は太く、杖の材料にもなる。花は手のひらを広げたくらいの大きさだ。


『このお花も、咲きませんのね』

「みたいですね」


 ヴィオレットは肉球で、結界花にポンポンと触れている。

 結界花は葉も、茎も、花も、ガラスのように硬い。想定外の触感だったようで、ヴィオレットは青い瞳を目一杯見開いていた。


『このお花も、開花する様子を見てみたかったのですが』

「私が、咲かせてやろうか?」

『あら、旦那様』


 月光を浴びて咲くということは──すなわち魔力を与えたら咲くということになる。

 ハイドランジアは蕾の一つを手に取って、ふっと息を吹きかけた。

 すると、結界花の蕾が次第に開花する。


『まあ、なんて綺麗ですの!』


 花開いた結界花には、ダイヤモンドの粒のような結晶が浮かんでいた。


「これは、魔力の結晶体だ。魔力耐性のない者が触れると、もれなく昏倒する」

『でしたらバーベナ、少し、下がりませんと』

「いや、お前達二人は問題ないだろう」


 ヴィオレットは高い魔力を持っているので、ハイドランジアの魔力に触れたくらいで倒れることはない。

 バーベナはローダンセ公爵家特製の服を纏っているので、問題はないのだ。


『旦那様、ローダンセ公爵家特製の服とは?』

「耐魔力の魔法を、服に付加エンチャントさせている。よって、高い魔力を浴びたとしても、防いでくれるのだ」

『そんな便利なものがありますのね』


 しばらくすると、結界花に浮かんでいた結晶がキラキラと光りながら蒸発していった。


「結界花が集めた魔力は、こうして蒸発して国を守る結界に送り込まれる」


 早朝、薄暗闇の中でいっせいに結界花の結晶が蒸発する様子はこの世のものとは思えないほど幻想的だ。何度見ても、美しいとハイドランジアは思う。


 含んでいた魔力がなくなると、結界花は花を閉じた。

 ヴィオレットはがっかりした様子で、蕾となった花を覗き込んでいた。


『旦那様、先ほど結界花を咲かせたのは、吐息に魔力を含ませていたのですよね?』

「そうだ」


 意識して魔力を自在に操るのは、高等技術である。国内でも、できるものはいない。


「これができると、いろいろと役立つ」


 ハイドランジアが得意とするのは、足に魔力を含ませて繰り出す回し蹴りだ。

 相手は高濃度の魔力を浴び、一発で倒れる。


『あなた、魔法使いなのに肉弾戦もするのですね』

「現地調査をしていると、物騒な事件に巻き込まれることもあるからな」


 主に、酔っ払いや路地裏のチンピラにしつこく絡まれた時などに使う。


「不意打ちで襲われる場合は、魔法よりも魔力付与を使った物理攻撃のほうが役に立つ」


 ただ、含ませる魔力が多すぎると相手は死ぬ。調整が難しく、素人が簡単に使えるものではない。


「人は弱いから、多くの魔力を体に溜めることはできない。よって、ギリギリ行動に制限がかかるくらいの魔力を叩き込む」

『わたくしには、難しいような気がしますわ』

「そこにある結界花で練習してみればいい。この花は、いくら魔力を注ぎ込んでも、枯れることはないから」

『でしたら、一回だけ』


 まず、自身の中にある魔力を動かすことから難しい。吹き込む魔力量の心配をするのは、早いだろう。ハイドランジアはそう思っていたが──。


『ふう!』


 ヴィオレットが息を吹き込んだ結界花は、開花する。それだけではない。

 大粒のダイヤモンドのような魔力の結晶をたくさん作り出し、地面に落としていた。


『なっ、こ、これはなんですの!?』


 ハイドランジアも同じことを聞きたい。

 地面に落ちた魔力の結晶体は全部で五つ。花には、朝露のような魔力の結晶体は付着していなかった。

 その一つを、ハイドランジアは拾い上げる。

 大きさは親指と人差し指を丸めたくらいか。うっすらと薄紅色がかっている、美しい魔力の結晶体であった。


「それが、奥様の魔力ですか」

「そうだ。触れるなよ。高濃度の魔力の結晶体だ」

「わかっていますよ」


 バーベナはヴィオレットの魔力の結晶体をうっとり見入っている。


「すごく、綺麗ですねえ」

『けれど、これは失敗ですわ』


 ヴィオレットの魔力は、なかなか蒸発しない。大きな形を維持していた。

 なぜ、蒸発しないのか。答えは簡単だ。


「これは、魔力が完全に結晶化してしまったのだろう」

『なんですの? 魔力の結晶化というのは』

「魔力が高濃度すぎて、固まってしまう現象だ」


 魔力切れを起こした魔法使いが、喉から手が出るほど欲しがる希少な物でもある。


『次は、成功してみせますわ』


 そう宣言したのち、結界花に息を吹きかけたが結果は同じ。

 合計四本の花で試したが、ハイドランジアのように小さな粒の結晶を作り出すことはできなかった。


 代わりに、ヴィオレットの魔力の結晶体を二十個入手した。

 本人はいらないというので、すべてハイドランジアの物となる。


 ◇◇◇


 夕方、国王から手紙が届く。

 中に書かれてあったのは──病気の症状が快癒し、起き上がれるようになったこと。野菜中心の生活にしたら、痩せたこと。

 それから、大臣より奇妙な勧誘を受けたので、話を聞いてほしいというものだった。

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