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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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多幸エルフは初夜に挑む

 挙式で永遠の愛を誓い、披露宴ではヴィオレットが世界一きれいだと自慢することができた。

 人前に出ることは億劫だったが、不思議な達成感がある。

 一番よかったことは、猫に求婚した変態疑惑がきれいさっぱり晴れたことだろう。

 さりげなく、ハイドランジアは気にしていたのだ。


 幸せな気分で帰宅する。

 使用人達がヴィオレットを「奥様」と言って出迎えたのも、すこぶる気分がいい。


 留守番をしていたスノウワイトが、迎えに出てくる。

 小さかったスノウワイトも、すっかり成獣だ。全長二メトルほどある、巨大猫と化している。

 ヴィオレットの護衛にと考えていたが、今では昼寝大好きの引きこもり家猫と化していた。


「スノウワイト、ただいま帰りました」

『にゃー』


 ヴィオレットに大きな体をすり寄せ、甘い声で鳴いている。

 続けてハイドランジアが声をかけたが、無視された。触れようと手を伸ばすも、避けられる。

 相変わらず、ハイドランジアの猫受けは悪い。心の中でがっくりとうな垂れる。

 ヴィオレットの胸に抱かれた竜の子が気の毒に思ったのか、撫でてもいいよとお腹を見せる。

 竜の子の優しさを無駄にしてはいけないので、鱗が生えるぽっこりお腹を撫でた。ひんやりとした触感で、鱗は柔らかく、意外と触り心地は悪くなかった。


「では、ハイドランジア様、またあとで」

「ああ」


 ヴィオレットはやっとドレス姿から解放されるようだ。バーベナと共に去る。入れ替わるように、世話妖精がやってきて、ハイドランジアを風呂に誘った。


「……は?」


 風呂に薔薇の花が浮いていた。妖精曰く、花の妖精からの結婚祝いらしい。浴室は、濃い薔薇の芳香に包まれていた。

 まさか、花の妖精から祝福を受けるとは。なんとも不思議な気分になる。一度会っただけだったが、なんとも義理堅い妖精だった。

 ゆっくり薔薇風呂に浸かり、疲れを癒やす。

 浴槽の外で待つ妖精の目つきが、いつもと違っていた。


「なんだ?」


 疑問に思いながらも、風呂から出る。すると、いつもの倍の力で、ハイドランジアの体を磨き始めたのだ。


「痛っ、イタタタタタ! お、おい、なんのつもりだ!」


 妖精は答える。今夜は初夜だから、気合いを入れて洗っていると。


「し、初夜!!」


 一日、幸せの中にいたので、夜の儀式があったことをすっかり失念していた。

 先ほどヴィオレットが言っていた「またあとで」は、初夜を迎えるつもりで言ったのだ。

 酒か茶でも飲むのかと、ハイドランジアは暢気に考えていた。


 そう。本当の夫婦になったので、一歩踏み込んだ関係となるのだ。

 悶々と考えていたら、風呂で倒れてしまった。


 小さな妖精では助けることは難しかったので、花の妖精を呼んだようだ。

 ハイドランジアの体を横抱きにしに、寝室まで運んでくれた。


 幸い、風呂と寝室は続き部屋になっているので、裸を使用人に見られることはなかった。


『おい、起きろ、色ぼけエルフ』


 ポメラニアンは容赦なく、肉球をハイドランジアの頬にぐいぐい押し当てながら話しかける。


「うう……」

『起きろ、全裸エルフ』

「はっ!」


 ハイドランジアは目を覚まし、起き上がる。頭がクラクラしていた。


「私は、いったい……?」

『全裸だぞ』

「なぜ、裸なのだ!?」

『風呂で倒れたからだ。どうせ、しようもないことでも考えていたのだろう』

「初夜について考えていたら、頭に血が上っただけだ」

『まったく、お前は』 


 全裸で嫁を迎える気かと突っ込まれ、絹の寝間着を羽織る。

 どういうふうに待っていいのかわからず、布団の上で膝を抱えて座っていた。


『おい、その恰好はないだろう』

「どんな恰好がいいのだ?」

『そうだな』


 ポメラニアンが指示する。まず、薔薇の花びらを寝台に散らすようにと。


「この香りをかいでいると、花の妖精を思い出すのだが」

『お前を寝台まで運んだのは、その花の妖精ぞよ。感謝せよ』

「そう……だったのだな」


 あまり、運ばれている様子は想像したくない。


「それで、次は?」

『寝転がれ。そして、片肘を突いて枕にし、空いている手で嫁を誘え』

「なぜ、私がそのような恥ずかしい恰好をしなければならない!」

『膝を抱えて待つよりマシだろうが』


 ポメラニアンが『ううう~~!』と唸りだしたので、ハイドランジアも負けずに「ウウウ!」と唸り返す。いったい、自分達は何をしているのかと、内心突っ込みを入れていたが、始めたからにはやめられない。


「ハイドランジア様、お待たせしまし――何をなさっていますの?」


 四つん這いになり、ポメラニアンと男の尊厳にかかわる争いをしていたが、ヴィオレットが来てしまった。


「もしかして、また、喧嘩を?」

「違う!」


 すぐさまポメラニアンを抱き上げ、 よーしよしよしと頭を撫でた。


「私と大精霊ポメラニアンは、いつでも仲良し! そうだな?」

『……』


 無視するので、寝室の外に持って行き、廊下に放っておいた。

 ヴィオレットのもとへ戻ったハイドランジアは、ゴホンと咳払いする。


「薔薇の、良い香りがしますわ」

「ああ、これは、花の妖精ロゼッタからの、贈り物らしい」

「まあ、そうですのね」


 ヴィオレットは寝台に座り、散らしてあった薔薇の花びらを拾うと、香りをかいでいた。

 その姿は、どこか艶めかしい。


「ふふ」

「どうした?」

「いえ、ハイドランジア様と、こうして初めての夜を過ごすことになるとは、思ってもいなかったので、不思議で」

「そうだな」


 始めはお飾りの妻にするつもりで、イヤイヤ娶ったのだ。

 ただの契約結婚だと思っていたが、共に暮らすうちに惹かれ合い、こうして真なる夫婦となった。


「お兄様も、お父様も喜んでいて、嬉しく思います」

「私も、ヴィーを妻として迎えることができて、本当に嬉しい」

「ハイドランジア様」


 ヴィオレットの手から薔薇の花びらを引き抜き、自らの指先を絡ませる。

 愛の言葉を囁き、その言葉が永遠になるよう、ヴィオレットの唇に封じた。


 こうして、夫婦は初めての晩を明かす。

 邪魔する者は誰もいなかった。


 ◇◇◇


 二年後、夫婦に子どもが生まれる。

 一人目はヴィオレット似の男児だった。しっかり者で、ポメラニアンとも良好な関係を築く。

 二人目はヴィオレット似の女児。魔法に興味津々で、将来は父親のように魔法師団の師団長になると宣言していた。

 続いて生まれたのは男の双子で、二人ともハイドランジア似であった。どうしてこうなったのだと、ハイドランジアは頭を抱えていたものの、子ども達は全員目に入れても痛くないほど可愛がっていた。


 幸せな日々は続く。いつまでも、いつまでも。

挿絵(By みてみん)

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

本来ならば『竜の子は、邪竜に向かい』あたりのエピソードで完結するつもりでしたが、書籍が発売するまで連載を続けてみようかなと思い、カナリア姫編を始めました。

その影響で、矛盾がでてくる箇所がちらほらあり、申し訳なかったなと。書籍のほうの作業で気付いたので、ウェブ版はそのままでいきます。すみません。

また何か、番外編を更新するかもしれませんが、ひとまずここで完結となります。

お付き合いいただき、本当にありがとうございました!

そして今日、エルフ公爵の書籍が発売となります。くまの柚子先生にすてきな絵を描いていただきました。

ポメラニアンと猫化したヴィオレット、スノーワイトというもふもふ衆のイラストは必見です。

番外編も二本収録していますので、お楽しみいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハイドランジア様がとてもかわいいです。
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