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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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109/122

元嫁は、妖精姫と魔力吸収装置が完成させる

 カナリア姫が研究を行っていた、『魔力過剰病』については、すぐにハイドランジアが許可を出す。予算も出してくれるようだ。


「この妖精の涙を核として、魔力を吸収できないものかと考えているのですが」


 妖精の涙は魔力を吸収する器となりえるのだという。しかし、魔力をどうやって流すかが問題だ。


 ヴィオレットは以前ハイドランジアから聞いた、結界花の魔方式が使えるのではないかと助言する。


「結界花、ですか?」

「ええ。月夜の光を受けて開花する花で、受けた魔力を国の結界に送っているのです」

「まあ、素晴らしいです!!」


 結界花はローダンセ公爵家の初代が作った物で、資料や研究書が多く残されている。

 応用できないか、カナリア姫とヴィオレットは書物を読み込む。


 ああではない、こうではないと話し合った結果、完璧なものではないものの、試作品一号が仕上がった。


 妖精の涙と結晶花を融合させた、飴玉のような小さな球体を飲む。すると、体内で受け止めきれなかった魔力を、球体が吸収すると。


 カナリア姫はこれを、『妖精の雫フェアリ・ドロップ』と名付けた。


「大きな問題は、どうやって試すか、ということなのですが。被験者を捜さないといけないですね」


 約一名、被験者となれる者の顔が、ヴィオレットの脳裏を過った。ハイドランジアである。


 誰かが試さないと、いけないのだ。ヴィオレットは被験者に心当たりがあることを、カナリア姫に伝える。


「あ、あの、一回、こちらをローダンセ師団長へお見せしてもよろしいでしょうか?」

「はい、もちろんです」

「では、拝借して」


 ヴィオレットが研究室から出ると、ポメラニアンと竜の子、スノウワイトも続く。

 妖精の雫と魔方式が書かれた書物を持ち、ハイドランジアのもとへと向かった。

 執務室には、仕事を終えて一息つくハイドランジアの姿があった。副官のクインスは、会議に出かけていて不在だという。


「ヴィー、どうかしたのか?」

「あの、魔力過剰病の患者用の、魔力吸収装置が完成しまして」

「ほう?」


 ヴィオレットは胸に抱いていた書物と妖精の雫の実物を、そのままハイドランジアへと手渡した。


「ふむ、これは――すごいな。たった一ヶ月で仕上げるとは」


 基礎をカナリア姫が作っていたから、組み立ては簡単だったのだ。

 あとは、豊富な予算をハイドランジアが用意してくれたおかげだろう。


「ただ、気になる点がある。この、吸収した魔力を管理する魔方式だが」


 基本、妖精の雫の中に、ずっと溜めておくのではない。ある程度溜まったら、外に排出されるようになっている。


「排出した魔力は、どこにいく?」

「害にならない程度に、外に出すと伺っていたのですが」

「この魔方式を解くと、ある一定の場所に向かうようになっているぞ?」


 その辺はカナリア姫が担当した部分である。ヴィオレットは、ただ害にならないように排出されるとしか聞いていなかった。


 ハイドランジアが書類の裏に、カナリア姫の魔方式を解いたものを書いていく。

 それを見て、ヴィオレットはハッとなった。


 排出した魔力はハイドランジアの言う通り、一定の場所に転送されるようになっていた。


「まあ、本当ですわ」


 ヴィオレットは言葉を失う。毎日何度も見ているつもりだったのに、隠された魔法に気付いていなかったのだ。


 カナリア姫の魔方式は、独自の暗号を用いた省略術が使われていたようだ。

 ただ読み込んだだけでは、気付かないように細工もされているという。


「よく、お気づきになられましたね」

「似たような暗号が、過去に使われていたからな。偶然、その辺の研究書を読み込んでいたから、気付いただけだ」

「さすが、ハイドランジア様です」


 珍しくヴィオレットが褒めたので、ハイドランジアは満更でもない様子でいる。

 長いエルフの耳の先が、ほんのり赤く染まっていた。


「しかし、魔力過剰病の患者の排出した魔力を、どこに向かわせるようにしていたのでしょう?」

「少し待て。それも、解析してみよう」


 ハイドランジアは目にも止まらぬ速さで、カナリア姫の魔方式を解体していく。

 書類にびっしりと文字を書き込み、別の紙に地図のようなものを描いていく。

 完成したのは――カナリア姫が住まう離宮への道のりだった。


「ヴィー、カナリア姫は、自らの住処に魔力を集めようとしている」

「みたいですわね」


 魔力を集めて、いったい何を企んでいるのか。


「カナリア姫は、研究室にいるのか?」

「ええ」

「だったら、今から離宮に行って、調べにゆくぞ」


 ハイドランジアはヴィオレットへ手を伸ばす。

 指先が触れた瞬間、転移魔法が発動した。


挿絵(By みてみん)

『エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る』、書籍化します!

くまの柚子先生に、ステキなイラストを描いていただきました。

一迅社アイリスNEOより、9月3日発売となります。

どうぞよろしくお願いいたします。

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