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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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106/122

元嫁は自身の魔力対策を聞き驚愕する

 話はこれで終わりと思いきや、ハイドランジアに引き留められる。


「ヴィー、まだだ」

「何か、ございまして?」

「ヴィーの魔力の安定についてだ」


 理由は謎だが、ヴィオレットの魔力はハイドランジアと一緒にいると安定する。

 離れたら、猫化魔法を制御することができなくなるのだ。


「カナリア姫の侍女をしていたら、ヴィーの魔力は安定しないだろう」

「そうですわね」

「だから、こうして夜に、共に過ごせばいいと思っていてな。具体的に言うと、寝所を共にしたらいいと思っている」

「なっ!」


 結婚もしていないのに、寝所を共に過ごせるわけがない。ヴィオレットは抗議したが、ハイドランジアに真面目な表情で諭される。


「カナリア姫とともに、公式行事に参加し、突然猫化する。それは、ヴィーだけでなく、カナリア姫の評判も落ちてしまうのではないか?」

「そ、それは、そうですが」

「私と隣り合って眠るのがイヤであれば、スノウワイトを真ん中に寝せておけばよい」

「それは、ハイドランジア様が一緒にスノウワイトと眠りたいだけなのでは?」

「気のせいだ」


 ハイドランジアは明後日の方向を向きながら、ヴィオレットの質問に答える。


「わかりましたわ」

「本当か?」

「ええ。ハイドランジア様の言う通り、猫化魔法の暴走は困りますもの。でも、わたくしに近づいたり、触れたりするのは禁止ですので」

「もちろんだ。ヴィオレットをもふもふするのは、許可制であると重々理解しておる」


 こうして、ハイドランジアとヴィオレットは夜、寝所を共にすることとなった。


 湯を浴び、すっきりしたヴィオレットは、寝間着へ袖を通す前にふと我に返る。

 このような薄着でハイドランジアと一晩過ごすなど、ありえないことだ。

 かといって、厚着だと眠れない。

 考えた結果――ヴィオレットは猫化した状態で、ハイドランジアと共に眠ることとなった。

 スノウワイトは、ハイドランジアとは一緒に眠りたくないと主張する。ヴィオレットの部屋で眠るようだ。竜の子は、スノウワイトが一人だと可哀想だから、一緒に眠ると言っている。

 仕方がないので、ポメラニアンを連れて眠ることにした。


 まだ、ハイドランジアは寝室にきていないようだった。

 ヴィオレットは寝台に飛び乗り、丸くなる。


『元嫁よ』

『なんですの?』

『迷惑をかける』

『迷惑?』

『国の問題に、巻き込んでしまったことぞよ』


 カナリア姫絡みのことだと、思い至る。


『あの娘がおかしなことをしでかしたら、問答無用で殺す』

『そこまで、警戒なさっているの?』

『もちろんだ。妖精を味方に付けているゆえ、彼女が破滅を望めば、妖精が推量してとんでもないことを起こす可能性だってあるからな』

『でも、殺してしまったら、報復されるのでは?』

『妖精はあの娘の魂の輝きにかれている。魂が散ったら、興味は別へ移るだろう』

『なかなか、厳しいのですね』

『妖精の精神は、人とは違うからな』


 そんなことを話していると、ハイドランジアが寝室へとやってくる。


「――ッ、ヴィー、その姿は、どうして!?」


 ハイドランジアは寝台にたどり着く前に、その場に蹲る。


『寝間着姿を、ハイドランジア様にお見せするのが恥ずかしいので』

「そ、そうか……!」


 チラリと、横目でハイドランジアを見る。バスローブに、寝間着を着た姿は初めて見たような気がした。普段は頭から下はほとんど露出させていないので、首筋が覗くだけで無防備なように思えた。


「では、お邪魔する」

『ハイドランジア様の寝台ですけれど』

「そうだったな」


 ハイドランジアはすぐ隣に横たわろうとしたが、ポメラニアンが真ん中にやってきて寝転がった。


「くっ、ポメラニアン、お前!」

『仲良く、並んで寝ようではないか』

「ポメラニアンの毛量が多すぎて、寝転がったらヴィーの姿が見えぬではないか!」

『別に、見なくてもいいだろうが。さっさと寝るぞよ』


 ハイドランジアとポメラニアンがああではない、こうではないと言い合っている間に、ヴィオレットは眠りに就いた。疲れていたのだろう。騒がしい中であったが、入眠できた。


 朝――ヴィオレットは夜明けとともに目覚める。カーテンから、うっすらと太陽の光が差し込んでいた。


 起き上がる前に、自らの状態を調べる。猫の手が見えたので、ホッとした。以前のように、勝手に猫化が解けることはないようだ。

 起き上がり、ぐっと背伸びをする。

 くわ~っと欠伸を一回したのちに、ふと隣で眠るハイドランジアの様子を見た。

 ポメラニアンを胸に抱き、ぐっすり眠っていた。

 普段は仲が悪い二人であるが、こうして見ると仲良しに思える。

 くすりと微笑み、ハイドランジアのほうへと近づいた。

 さすが、美貌のエルフである。寝顔も芸術品のように美しい。

 けれど、ポメラニアンを抱いている姿は、どこか親しみがあった。

 普段も、ポメラニアンと仲良くしていたら、親しみを覚えるかもしれない。無理な話だろうが。


 ヴィオレットの新しい朝が始まる。

 カナリア姫の侍女として、王宮へと出仕した。

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