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エルフ公爵は呪われ令嬢をイヤイヤ娶る  作者: 江本マシメサ


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元嫁は、初めて夜会に参加する

 ヴィオレットは、ハイドランジアと共に王宮の大広間にいた。

 本日は、国王生誕祭の夜会が開催されている。

 ヴィオレットは国王より招待を受けていたので、参加したのだ。

 ヴィオレットの名前と同じ、すみれ色のドレスが用意されていた。前身頃には精緻せいちなレースが縫い付けられ、胸にはサテンのリボンが飾られている。袖はギャザーをたっぷり寄せていて、カボチャのような可愛らしい形をしていた。脇と背中にはボーンが入っていて、自然と姿勢がよくなる。腰部分にリボンが結ばれたスカートは、プリーツが入っていて、動くたびに美しくひらめく。

 ヴィオレットのために仕立てた一着で、使用人一同似合っていると大絶賛だった。

 ハイドランジアも、珍しく「きれいだ」と言って褒めてくれた。

 夜会は今日が初めてである。異性に触れても猫化することはないので、人混みの中に行っても問題ない。

 未知の世界へ、一歩踏み出す。

 豪華絢爛ごうかけんらんな大広間は、一面赤い絨毯が敷かれていて、着飾った男女が身を寄せ合ってすました顔でいる。そんな者達を照らすのは、巨大なシャンデリア。クリスタル製の魔石が、会場を明るく照らしていた。

 ハイドランジアとヴィオレットが会場へたどり着くと、注目を浴びてしまった。


「ハイドランジア様、いつも、このように人目が集まりますの?」

「まあ、私はあまりこのような場に来ないからな。それに今日はヴィーがいる。余計に見られている状態だ」

「そう、ですのね」


 背筋をピンと伸ばして、決してうつむいてはいけない。初めての社交場で緊張するだろうが、堂々としていたら問題ない。

 バーベナより習っていたことを実践する。さすれば、自然とこの豪奢ごうしゃな場に受け入れられたような気がした。


 最初にハイドランジアに声をかけてきたのは、マグノリア王子だった。


「ハイドランジア、久しぶりですね」

「ああ。しばらくぶりだったな。息災であったか?」

「おかげさまで」


 トリトマ・セシリアが起こした国王陛下拘束事件は、国の仕組みを見直すほどの大事件だった。王太子であるマグノリア王子は、毎日国のため奔走している。以前のように、ふらりとハイドランジアのもとを訪れる暇もなかったようだ。


「しかし、驚きました。あなた方は、別れたと聞いていたものですから。まさか、連れ合って夜会に参加するなんて」

「まあ、いろいろと事情があるのだ」

「今日は、揃ってどうかしたのですか?」

「ヴィーに、夜会を見せてやりたくて」


 そうなのだ。ハイドランジアはヴィオレットのために、嫌いな華やかな場所にやってきたのだ。一人では、とても来ることができなかっただろう。心から感謝している。


「今日は、ヴィオレット嬢の伴侶探しでもするのですか?」

「そんなこと、するわけないだろうが!」

「お眼鏡にかなう相手は、参加していないと?」

「そういう意味でもない」

「なるほど。では、伴侶捜しは、兄君であるノースポール伯爵が行うのですね」

「ノースポール卿も、ヴィーの結婚相手は探さない」

「なんですか、ハイドランジア。あなたはヴィオレット嬢の、頑固な父親なんですか?」


 娘はやらん。ハイドランジアの物言いは、そのように聞こえた。

 ハイドランジアは、いったいヴィオレットのことをどう思っているのか。気になるところである。 


「ハイドランジア、あなたはどうなのです?」

「どう、とは?」

「結婚ですよ。まさか、ヴィオレット嬢を虫除けにしているのではありませんよね?」

「そんなわけないだろう。ヴィーは正式なパートナーだ」


 マグノリア王子はかぶりを振り、深いため息をついた。呆れたように、言葉をかける。


「あなた達は、なぜ離婚したのですか。意味がわかりません」

「いろいろ事情があると言っただろうが」

「だったら、その事情がなくなれば、また結婚でもするのですか?」

「私は、そうだったらいいと思っている」


 ハイドランジアの言葉に、ヴィオレットの胸は高鳴った。魔力の問題が解決したら、今度こそ本当の夫婦になれるかもしれないのだ。

 ヴィオレットが聞けなかったことを聞いてくれたマグノリア王子に、心の中で深く感謝する。


「だったら、困りましたね」

「何が困るというのだ?」

「いえ、ハイドランジアを紹介してほしいという女性がいまして」

「そういうものは、断ってもらわなければ困ると言っていただろうが」

「ええ、分かっていましたが、断ることができる相手ではないのですよ」

「いったい、誰だというのだ?」

「失礼いたします」


 会話の途中であったが、間から割って入る者が現れた。

 それは、妖精のように愛らしい少女だった。

 年頃は十五、六くらいだろうか。

 薄紅の長い髪に、ルビーのような深紅色クリムゾンの瞳、透けるような白い肌に、ほっそりとした手足。まるで、妖精のような美少女だった。

 身に纏うのはリボンもレースもフリルもない、シンプルな白いドレス。それが却って、彼女の清楚せいそさを引き立てている。


「誰だ?」


 ハイドランジアがいぶかしげな視線を向けつつ声をかけると、少女は愛らしい笑みを浮かべて答えた。


「ローダンセ卿、初めまして。私は、ニグラ・バニララン王国の第三王女、カナリア・ビガカロ・カナリエンシスと申します」


 ニグラ・バニララン王国──それは隣の大陸にある大国だ。カナリアと名乗った少女は、王族だったようだ。

 カナリアは華やかな笑みをハイドランジアへ向け、鈴が鳴るような可愛らしい声で言った。


「ずっと、お目にかかりたくて、国を超えて逢いにきてしまいました」

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