山田太郎、モブキャラになる
俺の名前は山田太郎。どこにでもいる普通の男子高校生だ。
先生「えー、今日から2学期が始まるわけだが、このクラスに転校生が来ることになった」
そう、頭脳明晰でもなければスポーツ万能でもない。イケメンでもなければ群を抜いてブサイクというわけでもない。勇者の血を引いた一族の末裔というわけでもなく、ひょんなことから特殊な力に目覚めたどっかのアニメの主人公というわけでもない。
先生「というわけで、自己紹介をよろしく頼むよ」
俺は主人公なんかじゃない。そんなことはとっくに気付いていた。でももしかしたら自分はこの世界の主人公かもしれない…そういった希望は微かに持っていた。だがこの瞬間から俺は自分がこの世界の主人公なんかではなく、モブにすぎないということをはっきりと、明確に自覚した。なぜなら…
転校生「帝月龍星です。よろしくお願いします」
出たよ!なんだよそのカッコいい名前!帝月龍星!?ミカヅキリュウセイだと!?なんのアニメの主人公だよ!俺の名前に謝れ!山田太郎だぞ!
女子「あーーーーーっ!!!」
なんだ!?急に女子が転校生を見て驚いてるぞ!?
帝月「あっ!君はさっきの!」
女子「テメェ!アタシの食パン弁償しやがれ!」
帝月「だからそれは謝ったじゃないか!そもそもパンを加えて交差点に走ってくる君が悪いんだよ!」
女子「うるさいうるさい!テメェに交差点でぶつかったせいでアタシの食パンが地面に落ちたんだぞ!朝飯がなくなったじゃねーか!」
なんだコイツら!まさか最近のアニメでもベタすぎてやらなくなったパン加えたまま交差点激突イベントをやってのけたのか!?
帝月「だからそれは君が交差点で止まらなかったからで…」
女子「うるさいうるさい!ていうか君って言うな!アタシの名前は火柳夏蓮だ!ちゃんと名前で呼べ!」
この女子は火柳夏蓮さん。お察しの通り、少し乱暴で元気な女子生徒だ。その素直すぎる性格がゆえに思ったことをすぐに言ってしまうため、あまり友達はいないらしい。ていうかこれ普通に考えて謎の転校生帝月君と火柳夏蓮さんのラブコメがスタートする流れですよね…つまりこの世界の主人公は帝月龍星君ということか…そして俺はそれを遠くから眺めている同じクラスのモブ…
女子「火柳さん!今はホームルーム中ですよ!静かにしてください!」
そう言い出したのはこのクラスの委員長の水蜂雫さん。火柳さんとは対照的に、真面目な優等生だ。この子もアニメとかによく出てきそうな委員長キャラ属性を有している。そしてこの学校には他にもアニメに出てきそうな模範的なキャラ達がちらほらといる。しかしこの学校には肝心の主人公キャラがいなかった。だから俺は自分がこの世界の主人公になれるのではないか、そう考えていたのだ。
火柳「へいへい、分かったよ委員長」
水蜂「帝月君もです!人のパンを落としたのならしっかり謝ってください!」
帝月「ええっ!?謝ったよ!?」
水蜂「火柳さんが納得してないのなら意味がありません!お互い納得がいくまで謝ってください!」
帝月「ええーーーーっ!?!?」
しかし今日、帝月というどこからどう見ても主人公キャラな奴が現れてしまった。現にアニメの主人公に必要なイベントを少なくとも1つはこなしている。そして現在もこの学校でかなり可愛い方の部類に入る女子生徒2人と着実に知り合い度を高めている。この展開の早さと巻き込まれ体質はまさに主人公と言えるのではないだろうか。
先生「あの~君たち?ホームルーム終わっちゃうよ?」
水蜂「あっ!すみません先生!ほら早く!2人も席に着きなさい!」
帝月(転校初日から変な女と交差点でぶつかるわ、委員長みたいな女に説教されるわ散々だな…僕はただ普通の高校生活が送りたかっただけなのに…)
ほらもうなんか帝月君のモノローグ聞こえてきたし!ていうか何で聞こえてるの!?これって皆も聞こえてるの!?どういうこと!?この世界はもう帝月君のものになっちゃったってこと!?俺の高校生活はいったいこれから…
帝月(はぁ…僕の高校生活はいったいこれから…)
山田&帝月「どうなっちゃうの~~~???」
よくある物語をこういう視点から書きたくなったので書いてみました。






