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黄泉鳥

作者: 杜宇 奈都子

 黄泉鳥


 その男の肩には時折、金色の鳥が飛来してひと時を過ごしていく。類稀なる守護、幸運の証と言われる黄金の鳥、どこでどのようにしてその鳥と出会ったのか、と問われると、その男はいつも困ったように笑うのだ。

「いつしか、現れるようになったのだ」

 国の英雄、王の騎士と称えられる彼は、肩に止まった鳥の羽をそっと撫でる。鷹の体に孔雀のような尾羽を持つその鳥は、鈍い黄金の嘴で、男の輝く赤銅色の髪を遊ぶように啄んでは離し、また頭を寄せて親愛の情を一頻り見せると、一声、ラァンと鳴いて飛び立ち、尾羽を半ば広げ見せつけるように去っていく。

 男は目を細めてその姿を追う。青い空に太陽の光を受けたその姿は、真昼に間違って現れた星のように見えた。

「なんとも幸運なことで」

 英雄を取り巻いていた者たちは、自らも鳥を拝むことができた行幸に膝を落とし、ひれ伏さんばかりで鳥が去っていた方角に手を合わせる。

 いつ鳥が現れたのか、男が覚えていないのは本当だった。先の戦の半ば、先陣を切って敵の矢を身に受けたのは覚えている。そして気付けば傍らに鳥が寄り添い、その金茶の瞳で男を見下ろしていた。その目に懐かしい誰かを思い出し、だが首を振った。金色の鳥、天の御使い、幸運の使いと聞いたことはあったが戦場の先兵にとってその姿は死の使いとしか思えなかった。

 だがその時、鳥がやはり、ラァンと一言鳴いたのだ。

 我に返り、そこが戦場だと気づいた。気を失って半刻もたっているだろうか。主戦場は敵陣の方に移っていたが周りはうめき声をあげ、助けを待つ傷ついた戦士たちで埋め尽くされている。

 様子を確認しようと半身を起こしてふと気が付く、矢を受けてついたはずの傷が体のどこにもなく、痛みすらない。どういうことかと腹を抑えるがなんともない。

 ラァン、少し悲し気に鳥が鳴く。その声に見遣れば、鳥はそっと体を男に寄せしばし寄り添い、それからすっと離れたかと思うとまるで重さを感じさせない動きで飛び立った。つられて立ち上がった男を中心として大きく螺旋を描きながらゆっくりと空へと昇り始める。黄金の翼を広げ、見事な尾羽をなびかせて、それはまるで、ここに男が居ると知らしめるもののようだった。黄金の光がこぼれ、兵士たちの傷が大なり小なり癒されていく。だがそれよりも、金の鳥が戦場に降り立ったという奇跡にあたりは静まり返っていた。

 選ばれし英雄、そう呟いたのはどの兵だったのか。一介の兵士に過ぎなかった男の英雄譚、それが始まりだった。

 それから男が立つ戦場では勝ちと決まっていた。男が居る、そう知るだけで敵が怯むものだから、上からは面白いように使われた。極秘裏に移動し奇襲をかけ、そしてさらにさすがは英雄と称えられた。

 何をしたわけでもないのだがな、男は傷一つない頬を撫でながら考える。だが、自分の存在が祖国を守るというのなら精一杯やるだけだった。嫌な事もそれはそれはあったが、傷心を抱えて俯くと、いつしか鳥が飛んできてそっと慰めていくのだからいつまでも落ち込むこともなかった。

 まるで…のようだ。表情のよくわからない鳥の瞳を見るたびに想う。

 金茶の美しい瞳、言ってしまえばありきたりの薄い茶色でしかないのだが。

 鳥を見送って、男はそっと微笑む。総じて幸運の使いであることに異論はなかった。





 薄い茶色の瞳をした若者が目指したのは東だった。東の果てに、幸運の鳥が住む森があると古い文献で読んだのだった。伝説に過ぎない、そう学者たちは断定したが、戦争の初期、早々に片足を負傷し、壊死した左足を切り落とし何とか命を繋いだ若者にとって、それは藁にも縋る思いで掴んだ蜘蛛の糸だった。

 自分の国を守るための志願兵だった。隣の国の国境近くの村に家族と細々と暮らしていた。隣国の急襲で村は壊滅、主な身内は死んだ。無事だったのは町に嫁いでいる妹だけだ。だがその町すらも戦場となり、逃げるように軍と合流、そのまま兵となったのだ。

 村の恨みと先陣を買って出たのはいいが、狩ったことがあるのは獣だけという自分がただ無力だと思い知る結果に終わった。片足は強引にくくりつける木の棒となり、その傷が元で癒えることのない感染症にかかりあとは緩やかに死んでいくだけという現実が若者の目の前に広がっていた。

 絶望したのはわずかの間だった。どんな手を使っても戦を止めたい、そんな気持ちだけが若者の中に膨らんで、子供の頃に寝しなに聞かされたおとぎ話まで本気にする始末だった。幸運の金色の鳥をとらえればなんとかなるのではないか、その思いは古い文献で東の森の記述を読んだ時に実行に移された。

 治療のため、辺境の村から国中央の首都に移動されていたのが幸いした。若者を止めるものは誰もなく、笑うでもなく、ただ旅立つ彼をみな、どこか痛ましそうな目で見送った。幸運を、そう祈りはしたが信じてはいなかったのだ。

 若者は西の戦地から遠ざかろうと移動する人々の中に混じり、東へと旅をした。足が不自由なため、多くは荷馬車の隅に間借りさせてもらい、子供たちの面倒を見ながらの移動となった。若者は朗らかだった。荷馬車の主たちの何人かは、若者にこのまま一緒に来てはどうかと尋ねてくれた。だが、若者は首を縦には振らなかった。目的は話さなかった、ただ東へ行かねばならぬのだ、と。

 そうした旅を一月も、二月もしただろうか。季節は春から夏に移り変わっていた。細々と伝わる戦況に良い知らせは少なく、若者ははやる心を抑えて旅をした。そんなある日、これ以上東へ行く者はないよ、そう馬車の主が降ろしてくれた村でのことだ。

 村は若者が生まれ育ったところに似ていたが、若者たちが良く狩りをしたような黒々とした森へは決まった日に限られた者が入るのみで、基本的には閉ざされていた。森の恵みよりも、村人たちの暮らしを成立させているのは西の平原の開墾と農作であった。

 なぜ森へは入らないのか、そう尋ねた若者に、部屋を貸していた村長がうっそりと笑って言った。

「あそこは魔の森さ、黄泉鳥のいる森、あれは人を食うのさ」

「よみどり?幸運の金色の鳥のことか?」

「幸運の鳥かは、わからないねぇ」

 村長は若者の顔を窺うように見てから繰り返した。

「あれは人を食うのよ」

 村長からはそれ以上、聞きだすことはできなかった。

 若者は何か秘密があるらしいと、こっそりとそれとなく村人に聞いて回ったが、黄泉鳥という鳥がいる、ということしかわからなかった。若者は村の広場で首都にいる間に聞き知った歌を歌い聞かせる中で、古い幸運の鳥の歌を混ぜて歌った。うっとりと聞き入っていた少女がぽつりと言った。

「見たことがあるのよ、黄金色の翼を広げた幸運の鳥が森に舞い降りるのを」

 それを聞き取ったのは若者だけだっただろう。聞かなかったふりをして、若者は次の歌を歌った。その日は農作業が一段落ついた日だったのだろう、気付けば村人たち全員が広場に集まり、若者の歌に聞き入った。数度の休憩を挟み、広場の真ん中に焚かれた火を背に若者は歌い、村人は談笑し、また各々楽器を持ち寄っては音楽を奏でつつ踊ったりもした。広場の火が消されたのは夏の短い夜が白々と明け始めようとした頃だった。眠い目をこすりつつ、一人、また一人と家へ帰っていく。明日は休みなのだろう。

 若者も痛む喉を抑えつつ、部屋を借りている村長の家へ向かった。だが、ふと魔が差した。村のはずれの小高い丘に登って、朝日でも拝んでやろう、そんな気持ちになって足を引きずりながら細い道を上っていったのだ。

 果たして、夜明けはやってきた。若者が考えていたよりも、それはずっと素晴らしかった。

 夜はまだその闇を残し、遠く東の空にはこれから流れて来ようとでもいうのか、雲が数辺、微かな朝日に照らされ始めていた。

 ほんのり白っぽく見える雲は、これから現れ出でる太陽の翼のように見えた。夜の闇が引き、空が明るさを取り戻すにつれ、東の空を埋め尽くすように広がった雲の翼は、やがて黄色から赤、むしろ金色を帯び、若者はそれに包み込まれるような錯覚すら覚えた。

 美しい、というよりも、ただただ圧倒され、立ち尽くすその曙は、唐突に終わった。太陽が地平よりその白い顔を出し、あっという間に色彩を奪ったのだ。だがその金色はすっと森へ吸い込まれたように見えた。太陽の光を浴びてなお、黒々とした森へ。

 若者は確信した。人を食らうという黄泉鳥が、金色の鳥、追い求めてきた幸運の鳥だろうということを。


 その日から姿を消した若者を、村人たちは黄泉鳥に食われたと噂し合ったのだった。



 若者は森へ続く隘路を辿って行った。草の影に隠れ、注意して歩かなければ見失ってしまいそうな細い道だ。それでも辿ることができたのは、通る回数は少なくとも村にとって重要な道ではあるからだろう。ところどころに敷かれた石の連なりが若者を森へと確実に導いた。

 道は辛うじて森の中へ続いている。若者は杖を持っていて良かったと、それに縋るように、しかし休むことなく前へ進んだ。暗い森の中、必死に歩いているうちに時間の感覚は無くなり、もう数時間歩いたという疲労が身体に溜まっていたが、まだ半刻も歩いていないのではという焦りが若者を進ませた。もう休んでもいいのでは、そう思った時だった。

 ぽきり、と杖が折れた。深く一つ溜息をつく。森の中だ、杖代わりになりそうな木は探せばあるだろうが、探しに行くのは難しい。

「どちらにしろ」

 若者はようやく腰を下ろした。休まねばならない、そして歩いていたからといって探し物が見つかるわけでもない。歌ってる最中に村人からもらった水の入った容器を持っていたのは幸運だった。ぬるくなった水で喉を潤していると、ぱしりぱしりと下生えを踏む音が聞こえた。

 どんな獣か、大きいものでは困ったな、そう思って振り返る。

「あなたは」

 潤したはずの口から乾いた声が漏れる。そこに居たのは一人の女だった。金と茶のまざった髪を無造作に流し、黒い服を纏って森の中に立っていた。鬼か悪魔か、それとも。

「森の見張りです」

 女は涼しい声で言った。美しい女だった。村の美女というよりは、首都で見た神殿の巫女のような静謐さと、冷たい光をその黒っぽい目に宿している。

「私は、ライアンです」

 生唾を飲み込んで若者は続ける。

「幸運の黄金の鳥を探しにやってきました」

「…この森にいるのは、人を食らう黄泉鳥ですよ」

「知っています、でも…読みました。黄泉鳥は成鳥になるにあたり、何かが必要だと。それが人の命でも私は驚きません」

 女は値踏みするように若者、ライアンを眺めると口をへの字に曲げた。

「とりあえず、休憩が必要なようですね。すぐそこに私の小屋があります、歩けますか?」

 そう言って差し出されたのは、杖に手頃な枝。折れたものよりもずっと良さそうだ。

 ライアンは頷くとふらつきながら立ち上がった。女は手を貸すでもなく眺めていたが、ライアンの準備が整うと先導するように道を歩き出した。女の金と茶の髪を見失わないように必死についていくと、小屋はすぐに現れた。木組みのこじんまりとした家で、暖炉と煙突だけがレンガでできている。女は木の扉を開いて、ライアンを振り返った。

「どうぞ、お茶でも差し上げましょう」

 ぐぅ、とライアンの空腹の虫が騒ぎ、女は目を見開いた。考えてみれば夕飯に軽食を摘まんだきり、もう何時間も食べていないのだ。恥ずかしさに顔を伏せたライアンに女は笑いを含んだ声をかけた。

「粥ならあります、どうぞ」

 ライアンは大人しく扉をくぐった。


 小屋の中はこざっぱりとしていて、女が本当にここに住んでいるのか疑いたくなるほどだった。一部屋きりの小屋で、暖炉の前に椅子が二客と小さなテーブルが一台、調理スペースが少々、箪笥が一棹、あの衝立の後ろは寝台だろう。

 女はライアンに暖炉の前の椅子を指し示すと、火にかかっていた鍋から粥を掬って渡した。

「熱いので、気を付けて」

「ありがとう」

 部屋にはしばしライアンが粥をすする音だけが響く。女は向かいの椅子に座って、しばらくその様子を見守っていたが、ふと立ち上がり出て行った。戻ってくるとその手には水の入ったコップが二つ、どうやら取りに行ってくれたらしい。有難く飲み干すと、ようやく一息ついてライアンは女と向き合った。

「…あなたは?」

 散々迷って出たのはその問いだった。我ながらへぼな質問だと思ったが、女は驚いた様子だった。

「私?」

「そう、あなたは…森の見張りといったけれど」

「森の見張りですよ。あなたのように迷い込んでくる人が時たまいますので」

「そうではなく…私はライアンです、あなたの名前は?」

 女は再度驚いたようで目を丸くした。

「名前はありません!」

 小さな声だったが、それは悲鳴のようにも聞こえた。ライアンは追求せず、ただ困惑の顔を浮かべた。

「でも、呼び名がないと不便ではありませんか」

「あなたを森の外へお送りします、それでいいではありませんか」

「いいえ」

 ライアンは首を振った。

「私は、黄金の鳥に、あなたのいう黄泉鳥でいい、会いたいのです。そのために首都からここまで旅をしてきました。そして、大変申し訳ないのですが、鳥に会うまでここに居座る決心をしました、今」

 女は驚愕の表情を浮かべ、ライアンを見返した。言葉もなく、ただ茫然とライアンの薄茶の目を見つめる。女の目は黒ではなく、濃い茶色のようだった。暖炉の炎を受け、きらきらと輝いている。

「私はライアンです、よろしくお願いします」

 ライアンが差し出した手を、女は取るでもなくただ見つめた。

「…私に名はありません…好きにお呼びください」

 しばらくして女は細い声で言った。ライアンは微笑んだ。そして決めた。

「ありがとうございます、エオス」

 直前に見た朝焼けにちなんで、故郷の暁の女神の名を彼女に捧げたのだ。


 女、エオスは、押しかけたライアンが申し訳なく思うほど甲斐甲斐しく世話を焼いた。居心地の良いようクッションを取り出して椅子に載せ、毎食森の恵みと思われる木の実やベリーを添えた趣の違う粥を提供した。

「寝台はこちらをお使いください」

 衝立の裏にあるこじんまりしたベッドに案内され、さすがにそうはいかないと思ったもののライアンは押し負けた。

「私には、屋根裏がありますので」

 片足が不自由なライアンでは屋根裏に上がることができない。それを知ってのことだろう、エオスは微笑んでいた。

 そうして奇妙な共同生活が始まった。

 朝、ライアンが起きるとそれを聞きつけたかのようにエオスが家へ入ってくる。大抵は手に何某かの森の恵みを持って。それを昨晩の残りの粥と共に食べ、そして二人で泉にでかける。泉のほとりに大きな岩がいくつかあって、木陰の涼しいものを選んで座り時を過ごす。話をすることはあまりないが、ライアンが都市で見聞きした話や子供の頃聞いたおとぎ話を口にするとエオスは静かに耳を傾けた。昼時にはエオスはライアンに硬いパンとチーズを差し出したが、いくら勧めても彼女自身は食べなかった。ただ泉の水を飲み、夏にも関わらず日に当たってれば十分なのだと三度も説明されれば、さすがにライアンも大人しく受け取るだけになった。それからライアンは家に戻り、エオスは森の巡回に出かける。夕刻にはやはり森の恵みを手に戻り、夕飯をこしらえ食べる。夏とはいえ森の中は冷える、二人はしばし暖炉の火を見つめ、そして寝るのだった。

 まるで隠者のようだ、そうライアンが呟くと、エオスは笑ってその通りだと頷いた。あなたは神殿の巫女なのかと問えば、エオスは首を傾げて、一言さあ、と言った切り。エオスは会話をすることに慣れていないのか、積極的に言葉を紡ぐことはなかった。だが時折、ライアンが面白い話をすると口角があがり、目が煌めいた。何度も繰り返すうちにライアンはその表情がすっかり好きになっていた。

 そんな日々を十日も過ごしただろうか、すっかり定位置となった暖炉前の椅子で寛ぎながら、ライアンはふと尋ねた。

「エオスは、黄泉鳥を見たことがあるの?」

 古びた本を膝に置いて眺めていたエオスは珍しく顔を上げてライアンを見た。

「ありますよ」

「どこで?こうしてここに居たら、俺も会えると思う?」

「…ここでは、無理でしょう。私がお連れできればいいのですが」

「険しい道なの?」

「その前に、お聞きしなくてはならないことがあるのです」

 本をテーブルに置いて、居住まいを正してエオスはライアンに向き直った。左の頬に暖炉のきらめきを受けてライアンを見る彼女は、まるで神殿の女神の像のようだった。さて何を詰問されるのか、と身構えるライアンに問われたのは、当たり前のことだった。

「黄泉鳥に会ってどうされるの」

 ずっと一緒にいたのに、それを話していなかったのか、とライアンは自分に驚いた。だが、彼女の方はずっとそれを気にして、観察していたのかもしれなかった。これからの答えが本心からのものと見分けようとでもいうのだろうか。

 ライアンはエオスの顔から視線を逸らして、暖炉に踊る火を見つめた。小さな炎が時折ゆらりと舞い上がり、消える。火の粉と煙はすうっと煙突に吸い込まれていく。

「幸運を」

 しばらくしてライアンはようやく言った。

「幸運が欲しいんだ、この国に」

「国?」

「戦争が西の方で始まったことは話したよね。俺の村は壊滅、町に嫁いでいた妹は無事だったけれど、男は全員徴集されて戦場行きだ。彼女の旦那もね。俺もその戦で片足を失った。戦争が終わるよう、なんとかしたくて、おとぎ話を信じてここまで来たんだよ」

 幸運をもたらす黄金の鳥、戦においては戦士を守り、勝利を導く金の使者。

「黄泉鳥は…」

「そう、だから驚いたんだ、ここでその金色の鳥が黄泉鳥と呼ばれていることに。幸運の鳥が人を食うなんて」

「ありえない?」

「いや、むしろ…当然だと思ったよ。そんな幸運が代償なしに手に入るはずがない」

 ライアンは息をついて、椅子に背を預けた。

「問題は、それが俺の命であがなえるものであるかだ」

 パチリ、と暖炉の薪が爆ぜ、二人の間に沈黙が漂った。

「僕は足の傷、正確にはそれに起因する感染症でね、長くはない、と言われている。こんな半端な命で、国を救うような幸運を手にすることができるだろうか」

 エオスは何も言わず、ライアンは目を閉じた。

「叶うのならば、それ以上の幸運はない…」


 ライアンが目を開けたのは、エオスが立った気配があったからだった。彼女は衣擦れの音をさせて、小屋の扉に向かい一度外に出て、そしてすぐに戻ってきた。エオスはライアンを見て言った。

「明日、黄泉鳥に会える場所まで行ってみますか?」

 突然の展開にライアンが目を瞬くと、エオスは首を傾げて応えを催促した。

「明日は満月、黄泉鳥が巣に帰り、森に出ない日なのです」

 外の月を確認しに行ったのだと思い至り、ライアンは慌てて頷いた。

「ぜひ、頼む」

「朝一で出ます、今日はもう休んで下さい」

 そう言うとエオスは暖炉の火を種火に落とし、ランプの火を細く灯した。

「おやすみなさい、ライアン」

 薄暗い小屋の中、その表情をわからない。だが、初めて名を呼ばれたのだと気づいたライアンは咄嗟にエオスを抱きしめたい衝動に駆られ立ち上がった。だが、杖がからりと椅子から転げ落ちたばかりで、エオスは傍らをすり抜けていく。

 辛うじて言う。込められる限りの思いを込めて。

「ありがとう」

 薄闇の中、微笑んだ気配がした。

「エオス、おやすみ」

 梯子を登っていく音がして、やがて静かになった。暖炉の火にかすかに照らされた杖を拾い、ライアンも衝立を回り寝台へ移動した。思いの外、すんなり寝付けたのは幸運だと思った。



 翌日、小鳥たちの声で目を覚ましたライアンは咄嗟にあたりを見回して、エオスの気配を探した。かちゃりとドアの開く音がして、エオスが入ってくる。

「おはよう、エオス」

 慌てて寝台から降りて、顔を洗いに外に出る。

「おはようございます、ライアン」

 また名を呼ばれたことに驚いて振り向くと、エオスは既に朝食の準備に取り掛かりそっけない。今まで通りなのだが、そっけないと思う自分に苦笑してしまう。

 ライアンが小屋に戻る頃には朝食の準備は整い、温かい粥に今日は小さなリンゴが添えられていた。季節は少しずつ秋へ移り変わっているのだ。

「今日はこれから出て、日暮れの前に戻ってくる予定です。黄泉鳥が巣に籠る今日、村の人たちに森は解放されますので、獣と間違われて狩られないよう気を付けてください」

 ライアンは神妙な顔で頷くが、どう気を付ければいいのかまるで分らなかった。村人同士なら合図もあろうし、行動の打ち合わせもあるだろう。居るはずのない人間は矢を射かけられても文句を言えないのが狩りである。

「金色のものには射掛けてはならないのですが…」

 改めて金と茶の混じるエオスの髪を見て納得するが、ライアンの髪の色は土の茶色、こればかりはどうしようもない。

「エオスの傍にいるよう、気を付けるよ」

 ほっとしたように、エオスは頷いた。

「それでは粥を食べたら出発しましょう」


 道中は穏やかだった。道は複雑に入り組んで、どこをどう辿れば小屋に戻れるのかまるで分らなかったが、エオスは足場を選び、ライアンを導いた。もう、昼時だろうか、数回の休憩を挟み腹時計がそう告げた頃、エオスは立ち止まった。

「もうすぐです、先にお昼を済ませますか?」

 腹が減っては戦はできぬとばかりに、ライアンは勢いよく頷いた。その様子に、エオスは苦笑を浮かべていつもの硬いパンとチーズを差し出した。

 ライアンがそれを水筒の水と交互に飲み下していくのを眺めながら、エオスが問いかけた。

「ライアン、あなたは怖くはない?願いが叶うなら死ぬかもしれませんよ」

「本望です、と言いたいのですけれど」

 水の残りが少ないことを残念に思いつつ、ライアンは答えた。

「俺の大切な人はもう、ほとんど死に、妹は生きていましたが今はどうでしょうか…俺がもはや失うものはほとんどないのです、でも」

「でも?」

「あなたを、あなたとの時間は失いたくない…」

 エオスの頬にさっと朱が差したの見て、ライアンは満足した。

「だから、お願いです。もし願いが叶わず、俺の命があれば、もう少しあなたの小屋に俺を置いてくれませんか?」

 広げた腕にそっとエオスが身を滑り込ませてきたので、ライアンはそっと彼女を抱き締める。愛おしい気持ちで身が震えるほどだった。

「ライアン」

 エオスが囁く。

「あなたの願いが叶わなければよい、そう思ってしまう私を許してください…」

 それは初めて聞いた、エオスの気持ちだった。金茶の滑らかな髪に指を滑り込ませて撫でながら、ライアンは自分の心が驚くほど凪いで行くのを感じた。

「エオス、ありがとう。でも俺は、自分が決めた博打を打たないといけないから」

「あなたは笑うかもしれません、でも、私は人とこれ程長く、一緒にいたことは無かったのです。ずっと人は怖いものだと思って生きてきました。でも、ライアン、あなたのお喋りを聞くことはとても楽しかった、外にも世界があり、悲しんだり喜んだりしながら生きていると知ることができました。あなたが家にいる、そう思うだけで自分でも驚くほど帰りの足取りが軽くなったものです。黄泉鳥は……」

 突然言葉を止めたエオスを覗き込む。その目は遠くを見ていた、それは言ってはならないことを口にする前兆だった。止めようとして、だがエオスは早口で言いきった。

「黄泉鳥は、あなたの病を治せるかもしれません」

 ライアンは凪いでいたはずの心がぐらりと揺らいだのを感じて、エオスを抱く腕に力を込めた。あっという間に口が乾いて言葉が出てこない。その隙にエオスが憑かれたように言葉を紡ぐ。

「黄泉鳥は成鳥になるあたり人の命を必要とし、その後、力ある存在となるのです、だからもし、例えば今日ならば」

 それ以上の言葉をライアンは許すわけにはいかなった。ライアンの病を治すのに他人の命を貰うつもりはなかった。たとえそれが、エオスの命ではなく、今日、森に入っているであろう村人の命であっても。

 ライアンは腕の中に閉じ込めていたエオスに口付ける。ハッと息を呑むエオスの口元に丹念に唇を重ね、味わう。柔らかく、温かい。たとえ今日が人生最後の日だとしても惜しくない、そう思える時間だった。

 そっと唇を離し、エオスと見つめ合う。そして、先ほどの自分の言葉を繰り返す。

「俺は、自分が決めた博打を打たないといけないから」

 エオスの茶色の目から涙がぽろぽろとこぼれた、ライアンは胸を締め付けられる思いを味わった。

 だがそれもしばし、ふと、エオスが空を見上げ、冷酷に告げる。

「時間よ、行きましょう」

 二人は手をつないで歩き出した。


 黄泉鳥の巣は巨木の洞をくぐった先に広がる、小さな広場のような空間だった。藁のような黄金の草が敷き詰められ、良い匂いがあたりに充満していた。その中ほどに、ライアンとそう変わらない大きさの鳥が居て、金色の目で入ってきた二人を見ていた。

「ようこそ、客人」

 その声にライアンは一歩踏み出し、エオスは留まった。

「来客は久しぶりだよ」

 鳥が話しているのだ、と気付く。気圧されたか、震える唇でライアンは辛うじて言葉を紡いだ。

「初めまして、幸運の黄金の主。ライアンと、申します」

 鷹揚に、表情の読めない金だけの目を向けて鳥が頷く。

「知っている。もはや墓の下を掘り返さねば見つからぬほど古い我のことを訪ねてくるなど、どんな年寄りかと思えば酔狂な若者であったとはな。しかし」

 ちらりと鳥の目がエオスに向く。

「珍しく気に入られたものだ」

 咄嗟に振り向いたライアンが、エオスの口が一瞬開き、すぐさま閉じるのを見た。何か言いかけたのか、息を呑んだのかは分からなかったが、その直後に浮かんだ微かな微笑みに勇気づけられる思いで鳥に向き直った。鳥はライアンを見て言った。

「願いを言ってみるが良い、ここに辿り着いた者にはその資格がある。叶えてやれるとは限らないが」

 ライアンは唇を噛みしめ、ぐっと頭を上げた。

「今、私の国が滅びようとしています。なんとしても、この国を、私の故郷を守りたいのです」

 鳥は笑ったようだった。

「はて、国がそれ程に重要かね。この森はお主の国に属していたこともあるし、隣のものになっていたこともある、私にはどちらでも変わりのないことであったが」

「大切な人たちがいます。隣の国は片端から人を殺し、奪っています。これ以上はいけません」

「お主の大切な人たちは、既に死んだように思われるのだがね」

「…残っているはずです、私の妹や、またその旦那、その家族や友人たち。私が知らない人たちの幸せも奪われているのです」

「王に仕える騎士や、王その人でもなかなか言えぬ台詞よの」

 鳥は首を伸ばし、ライアンに囁くように言った。

「お主の病を治し、そこの女と長く暮らせるようになら、簡単にできるがどうかね」

「それは……」

 ライアンは自分の心臓が激しく脈打ち、口から飛び出してしまうのではないかと思った。国など捨てて、エオスと共に暮らす、その願いなら叶うのか。だが、ライアンは尋ねた。

「国へ幸運を授けることは、できないのですか」

 自分でもなぜそこまで国を助けたいのか、わからなかった。決して清廉潔白な人間ではない、どこまでも人並みの男だと自覚している。ただ、隣国の兵士たちの蹂躙の跡を見たときに思ったのだ、これはいけない、止めなければ、と。

 ライアンがここまできたのは、その一念だった。

 鳥は、首を引っ込めると軽く翼を広げて見せた。

「できないとは言わないがな、それ程の願いを叶えるには幼子を一人、成人させるしかない。我が幼子に気に入られ、その子が魂を喰ってもよいと思うのなら、その子が叶えてやれるのだがな」

 鳥はライアンの足に目をやった。

「お主の魂は既に欠けておるのでな、成人させるには足りぬのよ」

「あぁ……」

 予想していたとはいえ、落胆の声を抑えることはできなかった。

「半端に命を食らった者には、ちょうどよいのだがな」

 鳥のその呟きにライアンは顔を上げた。そんな者がいるのだろうか、まだ希望は残されているのであろうか。

 だが、鳥は首を振り、ただエオスと出口を差し示した。

「今日は帰るがよい、もし魂をくれる者でも見つけたらまた道を開けでやろう。或いはその女と長く暮らしたいと思うなら、それでも良い。病の進行を止めてやろう。だが、叶えられる願いは一つだ、良く考えておいで」

 ライアンは何とか謝辞を口にし、黄泉鳥の巣を後にしたのだった。


 エオスとの帰り道、二人は無言だった。

 ライアンと志を同じくして魂を鳥に捧げられる者を見つける、そんなことができるだろうか。これから王都に戻り、そしてライアンの話を信じてついてきてくれる者などいるだろうか。ライアンが王子や王女ならいざ知らず、末端の兵士ですらない。灰色の諦めが喉元に詰まるようだった。

 ちらりと前を歩くエオスを見る。病をとめ、彼女と暮らす。それは夢のように美しい未来に思えた。そっと微笑む彼女を眺めながら暮らすことができれば、それは満足のいくものになる気がした。彼女も、それを望んでいてくれるのだろうか。

「エオス」

 そっとライアンは名を呼んだ。太陽が傾きだし、赤みを帯びた光の中、彼女の髪は先ほどの鳥と同じ色に輝いて見えた。鳥と同じ色の髪を持つ、森に一人で棲む女……。

 ライアンの思い付きを遮るように、エオスが応えた。

「ごめんなさい、歩くのが早かったわ、足元が暗くなってきたので、気を付けて」

 慌ててライアンは足元に目をやる。確かに薄暗がりが忍び寄り、地面に飛び出た凹凸はかなり見難くなっていた。

 しばらく足を運ぶのに注力していたライアンだが、気付けばいつもの道に合流していることに気付いて、再度エオスの背を見た。ほの暗い森の中、光を纏う金色の髪。

 耳元でよみがえるのは、鳥の呟き。

『半端に命を食らった者には、ちょうどよいのだがな』

 半端に命を食らった幼い鳥を見つけ出せば、ライアンの命でも願いが叶うということではないだろうか。…だが、そもそもそのような鳥がいるのだろうか、居たとしてどこを探せばいいのか。

「ライアン」

 優しい声に名を呼ばれ、ライアンは顔を挙げた。夕闇が迫る中、微かにエオスは微笑んでいるようだった。

「一つ話をしましょうか。黄泉鳥の小さな幼い娘の話を」

 ライアンの心臓が一つ大きく鳴った。遮らなければならない、そう思ったが口はいつの間にか乾いて声が出なかった。

 エオスはライアンの隣に並び、そっと手を取った。その手は優しく柔らかく温かかった。

「この森は、満月の日だけ、人が森に入ることを許されているのよ。それは他の日は幼い鳥たちがこの中で遊んでいるからなの。満月の時は巣に帰り親から餌をもらうけれど、他は森の命の溶け込んだ水と太陽の光を餌として育つのよ。

 ある日、森に迷い込んだ男の子がいたわ。病気のお母さんに薬を探しているうちに迷い込んでしまったのね。その男の子は森の中で女の子と出会って、たいそう仲良くなった。一緒に薬草を探し、時に遊んだりして。でもある時、男の子は知った。この森に棲んで人語を話すのは、魂を食べて願いを叶える黄泉鳥だけだということを。

 もちろん、男の子が友達だと思っていた女の子は黄泉鳥の幼子だった。男の子は要求せずにはいられなかった、自分の魂を食べて、お母さんを助けて欲しい、と。

 黄泉鳥の幼子は断ったわ。そんなことお母さんが望んでいるわけがない、と。魂を食べられる意味が分かっているのかと。そもそも、成人していない男の子の魂では願いは叶えられない…。

 男の子は駆けだした。他の黄泉鳥の幼子を探しに行ったのか、ただ無我夢中で駆けなければならない心持ちだったのかは分からない。そして、崖から落ちた。頭から。

 駆けつけた黄泉鳥の幼子に、その男の子は涙を流して頼んだわ。魂をあげるから、お母さんを見守って、と。

 止む無く幼い魂を食らった黄泉鳥の女の子は、成鳥にはならなかったけれど、森の外に出られるようになった。男の子に代わってお母さんに薬を届けたりはしたものの、それ以上の力はなく。お母さんが息を引き取ってからは、また魂を食べさせられることを恐れ、一人で森で暮らすようになった、ということです」

 それは、エオス自身の話に違いなかった。爪先から凍るような気持ちで、だが辛うじて唾を飲み下してライアンは名を呼んだ。

「エオス……あなたは」

「私は……」

 手をつないでいるのに、表情は既にぼんやりとしかわからない。しばらくそうして二人で見つめ合っていたが、どちらともなく帰途に戻る。歩き慣れた道は苦も無く二人を小屋に導き、ドアを閉めて暖炉の炎を掻き立てた時、ようやく息を付いた気持ちだった。

 いつも通りに粥を煮て、二人で啜る。言葉を交わすこともなく、お互いに物思いに沈んでいた。食事が終わっても、二人は動くことなく暖炉の火を見つめ続けた。

 先に沈黙を破ったのはライアンだった。

「今日は満月だと言ったね、少し見てきてもいいかな」

 のろのろと顔を挙げたエオスは、微かに頷き、言った。

「夜の狩もしているはずだから、あまり家から離れては駄目よ」

 ライアンは頷き、手を差し伸べた。

「エオスも一緒に行こう」

 一瞬驚いた顔をし、それから微笑んでエオスはライアンの手を取った。

 二人はそろりとドアを通り抜けると、夜の森へと滑り出た。辺りは月光に照らされて仄明るく、優しい濃淡に包まれていた。

「エオス」

 ライアンはそっと囁いた。

「愛しているよ」

 二人で見上げた夜空に、満月がぽっかりと浮かんでいる。まるで暗い闇に空いた白い穴のよう……。

「あなたに、僕の魂を食べる辛さを味わわせたくない……」

「私も愛しています……ライアン。でも……」

 想いは言葉にならなかった。月からお互いに視線を移した二人は見つめ合う。そして寄り添う。倒木に腰を下ろして、体温を感じ合った。

 月が真上から、森の木の端にかかる頃、ガサガサっと音がしてウサギが二人の前に飛び出してきた。おや、とライアンが手を差し伸べようとしたとき、ヒュっと矢が放たれた。

「ライアン!」

 悲鳴のような声が上がった。どうしたの、エオス、そう言おうとしてライアンは自分の胸が燃えるように熱いのに気付いた。矢が刺さっているのだ。木陰の向こうで息を呑む音が聞こえた。狩人だ、ウサギを狙ったのか。

「ライアン!」

 取り乱した声を挙げるエオスに、ライアンは微笑んだ。体に力が入らない。痛い…この痛みは戦場で足を打たれた時と同じ、だが今度は体だった。痛みに気を失わなかったのは僥倖か。

「エオス、ごめんね」

 戦場でもないのに、うっかり矢で射られて死んでしまうなんて、なんてついてない人生なんだろう。しかも心から愛している女の前で。

「エオス、このまま僕の命が幾何もないのなら、どうか魂を食らって、どうか、成鳥となってこの国を」

 守って。

 ライアンはエオスが泣いて縋るのを感じていた。彼女の目からあふれる温かいものが彼の体に降り注ぎ、一時でも命をつなぎとめているように感じた。

「ライアン」

 エオスは名を呼ぶと、そっと唇を寄せてきた。

「あなたの願い通りに」

 もう、視界は霞んで見えなかった。ただ、彼女の口付けと共に、視界が金色に染まり、それは夜の闇に広がる光の翼………



 目の瞑れた狩人が森の外へ彷徨い出たのは明け方だった。男のうわごとから、黄泉鳥が成鳥となるのを見てしまったのだと噂された。

「そういうこともあるだろうよ」

 そう言ったのは先代の村長だった。胸騒ぎに早起きをした彼は、黄泉鳥の森から西にめがけて一直線に飛んでいく光の影を見たのだ。

 それから暫くしてからだ、東の辺境の村に西の戦況が好転したと伝わってきたのは。なんでも幸運の金の鳥がある村に現れて、それから戦場に飛び立ったという。金の鳥が舞い降りた英雄の話が伝わるのは少し先のこと、また最初に立ち寄った村には、金の鳥と同じ目をした娘、英雄の妻がいたことも伝わってくる。

 だが、その妻が、この村で消息を絶った余所者の妹だと知る者は誰一人としていなかった。



 おしまい。

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