第六十七話 過去との再開
前回までのあらすじ
突然の襲撃でヒナが狂いました。
殺されかけてサナも狂いました。
シルバが寄生の経路を使ってサナと色々お話しました。
サナが正気に戻りました
シルバの意識がゆっくりと浮上していく。
サナが正気に戻った。そこまではまだいい。
だが、それまでに経過した時間が問題だ。
たとえ意識が精神の奥に潜り込んだとしても、その間時間が止まっているとは限らない。
一応、かなりの力を使って結界を幾重にも張っていたが、それでもシルバのサポート無しで、暴走した状態のサナが殺されていない保証はなかった。
それでも、どの道行動を起こさなければ殺されていた。
だから、覚悟は出来ている。
「はっ」
サナの声だ。
素通りしていた視覚情報を拾い始める。
砕けた結界の破片が舞っている。最後の一枚が砕けたところらしい。
きらきらと発光するそれらの隙間から横薙ぎに振るわれた剣を、サナが短刀で流すようにして弾いたのが見えた。
反撃の短刀が振るわれるが、そこにあるかと思われたクラモリの姿は既にどこにもなく、一瞬硬直したサナが背後から切りつけられる。
「後ろっ……!」
サナが短刀を逆手に持って、背後目掛けて突き刺す。
前を向いたまま後ろを攻撃してくるとは思わなかったのか、クラモリは反応できずに太腿を刺された。
少ない魔力を消費して、サナの背中の傷を癒す。
クラモリは回復の手段を持っていないようで、太腿の傷を押さえている。
「おはよう、眠り姫サマ。お目覚めのチューはしてもらった?」
「これから死ぬ人間に話す事はない。感触からして、大腿筋をいくつか断ったと思う。あなたはもう走れない」
「みたいだね」
『気をつけろ。こいつ、魔法無効化と瞬間移動が出来る。さっき背後に回ったのもそれだ』
「あ、バラさないでくれよ~」
クラモリの姿がぱちんと消える。
同時に、シルバは心眼を発動した。
『右斜め後ろだ』
サナはすぐに反応して、短刀を右斜め後ろに薙いだ。
もう一度テレポートしたクラモリが、元の位置に戻って片足で立つ。
直後、クラモリの足元が爆発した。
爆心地から散らばった種の一つが、サナの足元まで転がってくる。
植物魔法で、予めクラモリが立つ場所に果実が爆発する種を仕込んでおいたのだ。
全方位視野と読心を併用する事で未来予知の真似事が出来ることに気が付いたのは、ほんの二ヶ月前の事である。
しかし、心眼による未来予知は、全方位視野よりさらに眼を酷使する。
短期決戦向けの力なだけに、サナのサポートがある状態で、最後の手段として使いたかった。
クラモリのアビリティによる瞬間移動は魔力を伴わないので、視認して察知するほかない。
心眼を連続で使えるのは、最大で十分。それまでに決着をつけなければならない。
サナがクラモリとの間合いをつめる。
放たれた刺突を、クラモリは剣の腹で受け止め、弾いた。
サナが一瞬バランスを崩した隙を突いて、クラモリは袈裟懸けに剣を振る。
シルバはクラモリの肘を結界で固定し、動きを阻害する。
硬直したクラモリの胸に、サナは迷わずに短刀を突き刺した。
刀身を通して、黒と銀の混じった魔力を送り込む。
クラモリは風船のように膨らんで、弾けた。
クラモリの手を離れた剣が浮いて、ゆらゆらと揺れる。
『まだだ! 剣をぶっ壊せ!』
「わかった」
あの不気味な剣を破壊しない限り、いつまでも敵が湧いてくる。
サナは駆けて、剣を短刀で切りつけた。
鋭い、しかしやや小さな金属音。宙に浮いた剣にはたいした威力が伝わらず、まるで宙を舞う紙切れのように衝撃を殺した。
サナは支配の魔眼を使って土を盛り上げて、剣を掴んで固定。もう一度短刀を突き出す。
しかし短刀は、盛り上げられた土の後ろから伸びてきた手によって掴まれた。
その人物が、ゆっくりと姿を現す。
壮年の男性が、オレンジの双眸をこちらに向けていた。
まず目に付いたのは、サナと同じ亜麻色の髪。黒い帽子から、くせ毛がぴょこりとはみ出している。
纏う服は全体的に品質が優れており、見る者にどことなく小奇麗な印象を与えた。
刃を掴んで傷ついた手からは、真っ青な血がにじんでいる。
シルバは、実際にあったわけでもなくこの人物を知っていた。
サナの記憶の中に何度も登場した人物。
「父上……」
「はーい、父上でぇーす」
記憶の中で優しく笑っていたサナの父は、端正な顔を醜くゆがめて嗤った。
同時に、サナの真上と右後方の空気が瞬時に圧縮される。
念話でそれを伝えると、サナは斜め左に転がった。
背後で爆発音がすると同時に、立ち上がったサナは、片手で剣を握った父親に向かって駆け、短刀を振り上げる。
身をかわしたサナの父が、剣を横に薙いだ。
シルバが剣の握る手の軌道上に結界を仕込んで、動きを阻害する。
自分の体が予想通りに動かず、硬直した隙を突いて、シルバは解析した。
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サウロ・グランハート 41才
種族 人間
魔力 9021
アビリティ
魔法
魔眼(爆裂)
纏聖
称号
魔王の血脈
エステル領主
状態:衰弱、被支配
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『神聖力……!?』
そこで、サウロに動きがあった。
片手で持った剣がサナに振り下ろされ、短刀がそれを受け止める。
「俺を殺す気か、サナちゃん。父上の顔を忘れたわけじゃないっしょ?」
「父上はそんな喋り方はしない」
「おっと~? じゃあ俺は偽者って? この顔を見ても?」
「私が父上の顔を忘れるわけない。父上に、エステリカの町に何をした」
「襲いましたぁカッコワラ。この身体は戦利品ね。ほらほら、もっと丁重に扱って」
「シルバなら、殺してしまっても治してくれる」
『絶対じゃねえからな?』
リザレクションは、もともと死者蘇生の魔法だ。死後一時間以内、なおかつ死体の損傷が少ない場合のみ、死者すら蘇らせる事が出来る。
会話は十分だと判断したのか、それともただ飽きたのか、サウロは拮抗を崩して剣を引いた。
同時に、剣を持っていない左手に未知の力が集まっていくのを感じる。
本来、剣とは両手で持つべきものだ。何せ金属の塊であるから、身体強化でもしない限りは片手で持つことができないためである。
無理矢理に片手で持つなら、それは片手が使えない場合か、もう一つ武器を使う場合に限る。
「いくぜ飛び出す厨二台詞っ!? “神よっ! 我が力を糧とし、大いなる奇跡を与え給え!”」
仰々しい詠唱が終わると、左手から光球が生み出された。
掌底が突き出されると共に、光球が分離し、散弾のように降りそそぐ。
心眼で反射神経を補ったシルバが前方に結界を展開した。
豪雨が屋根を叩くよりさらに激しい音がして、結界の向こう側が光に染まる。
シルバはこの現象を分析していた。
魔力を感じられないので、これはおそらく纏聖の力。
光魔法に似ているが、光魔法よりも攻撃力が高く、即効性に優れる。
そして――
結界を叩く轟音の中、シルバは心眼を意識する。光を見ないようにして、その向こう側にいるサウロを見るイメージ。
サウロは、両手両足を光のオーラで覆っていた。
オーラに包まれた足が地を蹴ると、凄まじい加速度を発揮してこちらへと突っ込んで来る。
魔法無効化の剣で結界が破壊され、サウロがまた光の弾丸を放つ。
サナは横っ飛びでかわすと、支柱のように成形した結界を使って方向を転換。サウロに蹴りを入れた。
光の膜がそれを防ぐ。
「あー、便利便利。使ったことがない能力が使えるとか、ユニークスキルってすごい!」
「その能力は何? そんな力、父上は持っていなかった」
「えー、知らん知らん。持ってたんだから仕方ない」
サウロを操る誰かが、サウロをケタケタと嗤わせた。
「この身体のすごいとこは、エンチャントを受け付けない魔法無効化の剣を強化できること。ほらこんな風にっ」
光を纏った剣を片手に、サウロが疾駆する。超高速の太刀筋は、心眼で予知したシルバが見切り、妖術の結界で防いだ。
防ぐと言っても、纏聖で強化された魔法無効化の剣を正面から受け止めるには、妖術では少し荷が重い。
斜に構えた結界で、太刀筋をそらしているのである。
剣が振り切られてバランスが崩れたところで、小さな結界で足を引っ掛けてやる。
そこで生まれた隙を狙ったサナの一撃が、サウロの胸元を切り裂いた。
後退したサウロが光の弾丸を放ってきたので、命中する弾だけ結界で弾きながら、サナが接近して攻撃を仕掛ける。
途中で足元を爆破されそうになったが、結界で封じ込めた。勢いを殺しきれず、発生した爆風でサナはよろめいた。
サナはサウロの速度に反応できないので、シルバが心眼で見切って隙を作り、サナが仕留めにかかる。
残る魔力全てを使って大規模な魔法を放ってもいいが、それでは気絶しているヒナを巻き込む危険がある。
ワンパターンだが確実な手で、戦うしかない。
心眼を使い始めてから、五分が経とうとしていた。
色々悩んでたら間に合いませんでした。申し訳ありません。
作者はもう寝ます。




