第六十六話 支配者の産声
実家に帰省しています。
「だいろくじゅうろくわ」が「第六十六羽」に変換されるあたり、ほんと実家です。
前回のあらすじ
ヒナが狂った。
謎の異世界人が出てきてサナを瀕死に追い込んだ。
サナも狂った。
サナが睥睨すると、なんの変哲もない針葉樹が怯えすくんだように震え、その根を宙に浮いている、おそらくヒナが狂った元凶であろう剣に巻き付ける。
意志を持たない植物が、サナに従っている。
植物限定ならシルバにも同じようなことができるが、サナの場合、首のない自分の体を動かしたことといい、先ほどまで剣を握っていた少年の頭を爆散させたことといい、どうにもその対象に制限はないらしい。
アビリティ「魔眼(支配)」。
サナが後天的に獲得した魔眼だ。いや、覚醒したといった方が正しいかもしれない。
細かいところまでは見られなかったが、サナの右眼に寄生した時に記憶を覗き見たとき、サナは代々魔眼を受け継ぐ家系に生まれたことを知った。
今まで目覚めていなかった魔眼が、膨大な魔力と生命の危機に反応して発現したのだろう。
それは良い。むしろ喜ぶべきことだ。
問題はサナが、はっちゃけた言い方をするなら、あっぱらぱーになってしまっていることである。
ヒナといいサナといい、揃いも揃って、なんなのだろう。恥ずかしくはないのだろうか。
誰が正気に戻すというのか。
「イユ杜Rカz・?ク;ォュ)比藝・ュH)@ャx3コ」
『ああくそ、頭トんで覚醒とか、痛々しいんだよっ』
それで本当に強くなってしまっているから、たちが悪い。
根が剣を締め付ける力はだんだんと強くなっていく。
刃で根を切られることがないように、剣の腹に重点的に圧力をかけているようだ。
このまま折れるかと思った時である。
≪うっとうしいなあ≫
剣が、先ほど頭を吹き飛ばした少年とは別の黒髪を生み出した。
今度は十八歳ほどで、平たい顔つきをしている。
先ほどの少年もそうだが、どことなく師匠を連想させた。
解析。
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ソウマ・クラモリ 20才
種族 人間
魔力 0
アビリティ
SS
称号
異世界人
転移者
繁華街の英雄
帝国軍第二部隊副隊長
状態:被支配
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この青年を支配している人物はいまだ、姿を見せない。
遠隔操作されていると思われる剣から、異世界人を排出し続けるだけだ。
青年――クラモリは締め上げられている剣を掴むと、力任せに引き抜いた。そのまま剣を高速で振るい、根を細かくカットする。
サナがクラモリを見据えるが、何も起こらない。
「はは、無駄無駄。あんたの魔眼、見たかんじ魔力で作用するタイプのやつっしょ? この体、「防御」が高いから、魔力に対する耐性も高いんだわ」
「Zケ姑」
蝙蝠の羽が広げられ、大きく空を打つ。
直後、クラモリにいくつもの風の刃が飛来した。
クラモリが見えざる空気の刃を切り裂く。
それは魔法によって起こされた空気の流れによって発生する、かまいたちのようなものだ。剣ごときでどうにかなる代物ではないのだが、剣に触れた瞬間、風の刃は霧散して消えてしまった。
『魔法無効か!?』
「正解♪」
それ自体は別に目新しいものではない。転生する前にも、ほんの数回であるが戦った経験がある。
対処法は、魔法以外で戦うか、無効化の許容量を超える魔力をぶつけるか。
単純で、故に対処が難しい。以前は苦労させられたものだ。
しかし、今は違う。
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シルバ 0才
種族 ダンジョンズアイ
魔力 73328
妖気 696
アビリティ
転生(転生数3)
魔法
妖術
進化
通知
魔眼(吸収)
寄生
魔眼(傀儡)
不眠
魔眼(増殖)
迷宮
心眼
称号
転生者
義眼
臆病者
声優
ダンジョンマスター
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シルバには、魔法以外の攻撃手段がある。
シルバは魔法でテニスボール大の火球を大量に作り、その中にいくつか、妖術で作った狐火を混ぜ込んだ。変化を駆使して、両者の外見は全く同じにしてある。
一斉に打ち出すと、それに反応したクラモリが剣を構えなおし、魔法の火を片っ端からたたき落としていく。だが、魔法無効化の剣は妖術を無効化することができず、狐火だけがガードをすり抜け、クラモリの顔面に着弾した。
「うわっ」
衝撃で体が吹っ飛ばされ、仰向けに倒れる。
『やったか!?』
余計なフラグを立てたせいか、クラモリはゆっくりと起き上がった。顔は少し焦げ付いており、鼻が曲がっている。
「何今の? 魔法じゃない? もしかして、あんたも異世界人? 目玉のくせに? なら、余計に悪いやつだね、あんた」
やはり威力が低い狐火では倒しきることができない。が、効いていないわけでもないようだ。
あとは、物量で押していけばいい。
「C駑智i%!範Jvワ鑪E{陥タョ ワウ酷」
喉を掻き毟るサナに回復魔法をかけながら、また同じように大量の火球を作り出し、狐火を混ぜて飛ばす。
シルバは妖術の練度が低いので、魔法で弾数を水増ししているのだ。
「残念! テレポーテ~ショォーン!」
電源を切られたブラウン管のテレビ画面のように、ちゅんと音を立ててクラモリの姿が失せる。
「ばいば~い」
『ッ!?』
背後からの声。
サナが驚異的な反応速度で後方に蹴りを放つと同時に、シルバが妖術の結界を張る。
攻と防。意思疎通の術なく行われたそれらの結果は、サナが自分を守る結界を破壊することによって表れる。
結界を破壊した事により蹴りの威力は完全に殺され、スニーカーがクラモトの腹を弱く押す。
振り下ろされる剣。シルバがとっさに短距離転移をすると、サナは足場の違和感に体制を崩した。
連携ができていない。
今までの連携が、寄生のネットワークと念話に支えられていたことを痛感する。
クラモリが突撃をしてくる。
今の状態では勝てない。サナを正気に戻さなければ。
「にがさんよォ~! とう!」
クラモリが消えたと思うと、サナの胸から血が噴き出した。
シルバがリザレクションを使って、破壊された心臓を修復する。
サナの反撃は届かず、またアナログテレビが切れる音がして、背後から背中を刺される。
致命傷には至らない。魔力消費の小さい回復魔法で治す。
シルバの魔力はずいぶんと増えたが、無限ではない。
傷を治せるのはあと十回といったところ。致命傷なら、さらにその半分になる。
サナが暴走して連携が取れない以上、このままでは確実に殺される。
サナを正気に戻す方法は一つだけある。寄生の経路を再びつなげ、話をすればいいのだ。
しかし、狂気は伝染する。それをしてしまうとシルバの精神まで汚染される恐れがある。
シルバは転生という強力な能力を得たが、転生でリセットされるのは肉体と、周りの環境のみだ。心的外傷を追ってしまった場合、元に戻るのは難しいだろう。
だが、このままではサナが、ヒナが、殺されてしまう。
シルバは覚悟を決めて、サナとの経路を繋ぎ直した。
良い機会かもしれない。隠し事は、もう終わりだ。
暗く深い闇が、そこにあった。
上も下もわからない、ただ真っ黒な空間に、膝を抱えたサナが漂っている。
シルバは闇を掻いて、サナの傍へと泳いで行った。
「サナ」
「……誰? あなたは」
サナがこちらに眼も向けずに聞いてくる。
そこで、シルバは自分が人間の姿になっていることに気づく。
自分がまだ精神が人間であることに、いくばくかの安堵を覚えた。
シルバは警戒させないように、慣れない笑みを浮かべる。
「シルバだよ。魔眼の」
「ようこそシルバ、死後の世界に。あなたも死んだ?」
サナは少し勘違いをしているようだ。
まずはそれを正さなければ。
「死んでねえよ。二人とも生きてる。でもな、いつまでもこんなとこに閉じこもってたら、今度こそ殺される」
「そう、この際本当かどうかはどうでもいい。私はとても悲しいから、一人でいたい。向こうに行って」
「そんなこと言うなよ。なんでそんなに悲しいんだ?」
「あなたには関係ない」
「あるさ。俺はお前の眼であり、相棒なんだから」
言っていて少し恥ずかしくなってきた。
シルバは目をそらす。
「私は一人でいたいと言った」
「居させねえよ、一人でなんか」
「うるさい。聞き分けのないひとは嫌い」
「嫌い、か。サナには嫌われたくねえな」
「だったら」
「でも、嫌われてもしょうがねえとも思ってる。俺はサナに、重大な嘘を吐いてるんだよ」
「……」
緩慢に、サナがこちらに顔を向けた。
銀でも紅でもない、鳶色の双眸。魔眼ではない本来の目は、亜麻色の髪によく映える。
言わなければならない。隠し事をしている相手に命を預けることは出来ないのだから。
「俺はお前の魔眼じゃない。潰れた眼に寄生した、ただのモンスターだ」
シルバは話した。転生に関すること以外の、魔眼になってからサナに寄生するまでの経緯を。
サナは黙って聞いていたが、最後にこう尋ねた。
「どうして私に寄生した?」
「移動手段が欲しかったからだ。あのままじゃあ、とてもダンジョンを抜けられなかった。だから、利用したんだ」
「じゃあ、どうしてダンジョンを抜けてからも一緒にいる?」
「……お前が好きになったからだ」
ダンジョンの生活を通して、シルバの中でサナはかけがえのない仲間となっていた。
そして同時に、娘のようにも思っていたのだ。情が湧いたと言ってもいい。
愛しい娘のためなら、精神汚染のリスクなど、喜んで負える。
「そ、そう」
サナがまたそっぽを向いた。
まあ、それはそうだ。そんなに都合よく許してもらえるはずがない。
耳がちょっと赤くなったサナが再び口を開く。
「……私も、シルバに言っていない事がある」
「なんだって?」
少し、意外だった。
最初に寄生したとき、サナの人生の一部が流れ込んできた。強く印象付けられたような出来事は大抵知っているが、代々魔眼を受け継いでいるだけの、普通の貴族の半生だったと思う。
「父上が昔一度だけ、母上の葬式の後で話していたのを思い出した。私は魔王の子孫。私の魔眼は、魔王の能力」
「魔王? 迷宮で戦った?」
「そのさらに後の世代。十三代目の魔王、アイズ。それが、私の曾御爺様。父上は何かと理由をつけて、絶対に私を教会に連れて行こうとしなかった。魔族を検地する魔導具に引っかかる可能性があったのだと思う」
どうしてそんな大事な事を忘れていたんだと聞こうとして、やめた。
幼いサナは、死んでしまった母親の事で手一杯だったのだろう。
そして、継母が来てから、サナの父は容易に魔王の話題を出すことが出来なくなった。
それでも話す機会はあったが、当の本人はそのことを忘れていて、家中には他にも真実を知らない貴族の娘である継母と、その従者達がいる。教会にだけは行かせないようにして、黙っていたのだろう。
「私は、人間じゃない。物語の主人公にも、ヒロインにもなれない。私に許された役割は、主人公の剣に貫かれる、邪悪な魔王だけ」
「何もせずにひっそり暮らすのも手だと思うぞ?」
「それは出来ない。私の中の魔王は既に目覚めてしまった。今も、もう一人の私が、殺せ、殺せと囁きかけてくる」
サナは抱えた膝に顔を埋めた。
シルバは彼女の頭を、そっと撫でた。
「いいんじゃねえか? 邪悪な魔王でも。顔も知らない人間に嫌われるかも知れねえけど、それ以上に仲間から好かれれば、それでいいだろ」
「そんな簡単に――」
「いくさ。少なくともここに一人、魔王サナに忠誠を誓った仲間がいる。役職はそうだな、魔王補佐でどうだ?」
サナが顔を上げた。僅かに眼が見開かれていた。
「どうしてそこまでする?」
「言ったろ? お前が好きになったからだ」
前述の理由で、ここでサナに死なれては寝覚めが悪すぎる。
彼女には生きて欲しい。
「まあ、まずは目先の事から片付けようぜ。……協力してくれるか?」
「……うん」
サナが頷いて、闇が晴れていく。
意識が引き戻される感覚。
その日、一人の魔王が生まれた。
ストックが尽きたよ!?
とりあえず明日、もう一羽仕上げます。
今月中には三章を完結させ、新しい章に入りたいです(願望)。
それではまた明日。




