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転生の軌跡~Regrowth for you~  作者: 進化する愚物
第三章 魔眼転生
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第五十二話 初代

「さーてサナちゃん準備はいいかな? 転移陣が起動するよ~?」



 道化は満面の笑みを浮かべて、サナを見ている。

 サナが勝ち上がるたびにだんだんとテンションが高くなっていく道化に、シルバは不可解なものを感じた。


 普通、ダンジョンというものにはダンジョンコアがあり、そのコアを破壊されてしまえばダンジョンは崩壊、ダンジョンマスターは塵となって消えるはずだ。歴史上で、このエステリカの迷宮並みに大規模なダンジョンが破壊された事例は一つだが、その時はそうだった。

 普通の神経なら、サナがボスを一体撃破するたびに焦り、忍び寄ってくる死の足音に恐怖してしかるべきなのだ。

 だというのに、道化にはそんな気配は微塵も感じられない。

 むしろ、サナがダンジョンを攻略していくのが楽しくて仕方がないといった様子だ。


 転移陣が起動し、シルバとサナは次の階層へ飛ばされる。

 闘技場の中央に立っている魔王は、これまでとは何かが決定的に違った。

 彼から感じるのは、圧倒的なオーラ。

 生気とも呼べるものが、体中からにじみ出ていた。



「彼は初代魔王、タルテ。この闘技場エリアで唯一、僕が生き返らせていない魔王だよ」


「どういうこと?」


「簡単さ。彼はずっと生きていたんだよ。老いに打ち勝ち、強敵を退け、時には逃げて、ずっと、ずうっと生きていたんだ。今ここにいるのは、ただのボランティアだよ」


「ふうん」


「興味なさそうだね。でも、なめていると痛い目を見るよ。僕の蘇生は完全とはいかなくてね。蘇った生物は元の半分くらいの力まで衰えてしまうんだけど、彼はそもそも死んでないから、今までの魔王のような衰えもないし、それを抜いてもタルテは歴代最強の魔王と恐れられていたんだ」


「どうでもいい。早く戦おう」


「いいの? このダンジョンここで最後だから、彼、ラスボスってことになるんだけど。説明いらない?」


「いらない。細かいことはシルバが全部何とかしてくれる」


「そう、じゃあ、……タルテくーん」



 初代魔王タルテは一歩前に進み、その身を身体強化魔法で覆った。魔力の色はサナと同じ黒だが、彼のそれは少し紫がかっていた。

 膨大な魔力が、サナを押しつぶすように広がっていく。

 魔力の奔流のせいで認識しにくいが、タルテはその中心で、以外にも人懐っこい笑みを浮かべていた。



「俺はタルテという者ッス。よろしくお願いするッスよ」


「ふざけたしゃべり方」


「よく言われるっス」


「ぶち殺してやる」


『ん? こいつどっかで見たような……』


「シルバ、魔力譲渡して」


『おっと、はいよ!』



 サナを黒銀の魔力が覆い、タルテの黒紫と拮抗した。

 空間に、三次元的なテリトリーが展開される。

 陣取りゲームは、若干サナが不利だった。



「良いッスねえ、こういう、力と力のぶつかり合い、みたいなの。餓鬼の頃からの夢だったんスよ」



 タルテは走りもせず、飛びもせず、ただ悠然と歩いてくる。

 ふざけた口調でたわいないことをしゃべりながら、圧倒的な存在感を押し出してくる。


 タルテが一歩、二歩、と進むたびに、サナの魔力が押し出され、領域が小さくなっていく。


 近くで見る彼は、十八、十九くらいの見た目をしていた。

 魔力の奔流の中で、タルテは一言二言、詠唱をする。


 今まで会った魔王たちは、一人を除いて魔法の達人であった。

 だからこそ、その全員が魔法を無詠唱で発動していたし、その威力は実に強力なものだった。

 ならばなぜ、タルトはわざわざ、ほんの少しとはいえ詠唱を行ったのだろうか。

 その結果は、すぐにわかることだろう。


 タルテはゆっくりと腕を持ち上げ、掌をサナに向ける。



Barn off(やきはらえ)



 タルテが唱え、小さな、かわいらしい火球が撃ち出された。

 サナでもぎりぎり躱せないほどの速度で。

 陽炎で空間が湾曲するほどの凶悪な熱量を持って。



「っく!」



 火球がサナの腕を掠める。

 たったそれだけで肘から下が炭化して、ボロボロと崩れた。

 地面に突き刺さった火球がジュウと音をたて、闘技場の土を気化させる。


 サナは眉一つ動かさずに短剣を逆手に持ち、腕を炭化していない根元から切り落とした。

 炭が残ったままでは再生に支障が出る。



「シルバッ!」



 シルバはすぐさま名称魔法、リザレクションを発動し、サナの腕を癒す。

 傷一つない、まっさらな腕がずるりと生えた。


 魔王タルテは間髪入れずに人差し指を立て、天に向けると、再び詠唱を行う。



Crawl up(はいあがれ)



 突然、サナの足を何者かが掴んだ。確実に跡が残るであろうほどの力で掴みかかってくる。

 見やると、石でできた腕が地面から伸び、サナの足を握りしめている。

 土がぼこぼことせり上がり、もう一本の腕がのびて反対側の足をつかんだ。


 サナの半径二メートルほどの領域で、次々と石の手が突き出され、一斉にサナに伸びていく。

 その長さはどれも人体のパーツの規格を逸脱しており、まるで蛇か何かに見えた。


 振りほどこうと足に力を入れるサナだが、その信じられないほどの脚力をもってしても、拘束を解く事が出来ない。


 仕方なく(・・・・)サナは石の手に固定された両足を切断して、地面に手を叩き付けた反動で血をまき散らしながら飛び上がる。

 つい先ほどまでいた位置に、石の手が殺到した。


 シルバのリザレクションによって生え変わった二本の足で着地したサナは、自らの黒い魔力を全力で練り上げ、魔王タルテに向かって魔力砲撃を放つ。



Protect(ほごせよ)



 タルテは一言詠唱し、それ以外は何もしない。

 砲撃が、タルテの目と鼻の先で、着弾した。


 閃光。

 轟音。

 衝撃。

 粉塵。


 舞い上がった粉塵はある面を境にせき止められ、結果として半球を形成している。



Hold down(おさえつけよ)



 舞い上がっていた塵が、何かに押さえつけられるように地面に叩き付けられた。

 遅れてサナにも重圧が降り注いだが、すかさずシルバが解呪(ディスペル)

 傷一つないタルテが姿を現す。



「うぇ。化け物じみてるっスねえ。そんな魔法を使える魔眼も、痛みにまるで反応しないアンタも」


「どうして魔眼がわかるの?」


「あー、説明すると長くなるんスけどねえ。俺は魔力が見えるッス。放出されてる奴だけじゃなく、物や人が内包してる魔力も。アンタ、目に凄まじい魔力がこもってるんスよ」


「そう」


「しかも、アンタ()が使ってるのって、古代魔法ッスよね? 技術が衰退して最近見かけなくなったアレ。地上でもせいぜい年寄りエルフが使ってるくらいッスよ」


「そうなの?」



 ここで初めて、会話がシルバに振られた。

 混ざっていいものかと一瞬考えたが、すぐさまその考えを振り払った。



『確かに、この魔法はだいぶ前のものかもしれねえが、まさか古代魔法なんて分類になってるとはな』


「あ、やっぱりしゃべるんスね。ダンマスの言ってた通りッス。……結構最近の話っすよ? ほんの五十年位前っすかね?」


『っていうかサナ、気づかなかったのかよ。曲がりなりにもお嬢様だろ?』


「歴史の授業で、最近のことは一番最後に習うって決まってる」


「へえ、奇遇っスね。我が家でもそんな感じだったッスよ。昔を思い出すッス。今の世間は魔族に冷たくって冷たくって……」



 本当に何なのだろうか。この、のほほんとしたお喋りタイムは。

 殺し合いの相手と世間話なんて、馬鹿げている。



「そういえば、あなたの魔法は何? 古代魔法とも、現代魔法とも違う」



 サナの問いに、タルテは少しだけ、ほんの少しだけ眉をひそめた。



「ああ、あれは、俺の名称魔法ッス。コードって言うんスよ」


「古代魔法と、なにが違うの?」



 タルテは露骨に顔を(しか)めた。

 不快さを前面に押し出す。



「あんなのと一緒にしないでほしいッス……ッ!」



 一気にあふれだした魔力が地を揺るがし、サナの頬を叩く。

 彼は憤っているようだったが、何かにおびえているようにも見えた。



「大丈夫……大丈夫……奴はもう居ないっス……俺は強くなったんス……もう負けない……!

 ──Fly(とべ)!!」



 浮浪者のうわごとのように、或いは子供がおまじないをするようにぶつぶつと何かを呟いたタルテは、ふわりと宙に浮かび上がる。

 はるか上空で、タルテは手を振り上げ、魔力を開放した。



swords(つるぎたちよ),」



 魔力が異常な圧縮を経て固形化し、大量の剣がタルテの後ろで静止する。

 魔王の剣だからなのか、そのすべてが禍々(まがまが)しいデザインをしていた。



fall down(ふりそそげ)!」



 タルテが手を振り下ろすと同時、剣は一斉に流星となり、闘技場に降り注ぐ。

 三秒を数えながら願いを口にするにはあまりに鋭い流星が、シルバが咄嗟に展開した結界を突き破り、サナに牙を剝いた。

 しかしながら、剣はすべてサナに触れる数センチ手前で弾かれ、砕けて消える。

 サナの短刀が、数多(あまた)の剣を正確にとらえ、逸らし、叩き落としたのである。

 大量にある分、剣は脆かったらしいが……。


 サナはちらりと、短刀を見やる。

 魔力で強化していたにも関わらず、ひびが入っていた。

 土魔法で応急処置を施すと、ひびは消える。

 

 サナの防護は必要ないと判断したシルバは、読心の魔眼を発動しながら弾速の早い魔力弾を一発放つ。

 魔力弾に反応し、回避行動をとるタルテ。シルバは魔眼で回避先を予測し、魔力を練り上げた。


 アイスガーデン。


 若干指向性を持たせたおかげで、範囲は狭く直線状に、その分急速に冷気が伝わっていく。

 タルテが少し驚きながらも、冷静に回避しようとした時だった。


 融点を下回って固形になった空気が、互いに絡まり合うスイセンの花を象ったのだ。

 それはシルバの意図したことではない。

 魔法は普通、放った時点で術者の制御下から離れる。だというのに、自然と幻想的な花が造形されたのである。


 シルバはこれに驚いたが、それ以上の反応を見せたのがタルテだ。

 彼は目をめいっぱいに見開いて驚愕をあらわにすると、信じられない速度で急上昇した。

 タルテの足のはるか下の空間が、ビキビキと凍っていく。



「俺の前でっ……! 花の魔法を使うなあああ!」



 絶叫するタルテ。口癖はとうに消えていた。

 魔力を全て振り絞る。声帯に魔力を込め、詠唱を行った。



disappear(きえされ)!」



 ごっそりと闘技場全体の空間がくり抜かれ、そのまま消滅した。

 凍った空気も、タルテも、サナも、一切合切どこかに消えた。

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