第四十八話 同調
「勝者~! サナ・グランハート~!」
道化の宣言を聞き、サナは短刀を故魔王オルテウルから引き抜くと、スケアリーのほうを向いた。
道化が転移陣の準備をしている。
「スケアリー」
『ん?』
「行こう」
『おう』
サナはいつものように歩き出す。スケアリーが追いつくまでゆっくり歩き、スケアリーとともに転移陣に乗った。
今度もまた、角の生えた魔族がいた。
しかし、ここには魔王が二人いる。
今まで一人ずつだった魔王が、二人いるのだ。
「彼らは五代目魔王カル&コル。紹介は……彼らが自分でしたいみたいだね。任せよう」
二人の魔王が前に進み出て、互いに腕を組む。
その年齢は両方十五才くらい。
二人の顔は似通っており、一見しただけでは区別がつかない。
唯一違うのは、二人の性別。解析してみたところ、片方が男子で、もう片方が女子だ。
二人ともアビリティは魔法のみである。
「ワタシはカルなの。魔王よ。コルも魔王なの。二人で魔王やってたの」
「ボクはコル。魔王さ。ボクたちよく似てるでしょ? 実は血もつながってない赤の他人なのさ。それどころか性別も違うんだよ? これは運命に違いないのさ」
魔王二人は顔を見合わせて、笑う。
「「魔王カル&コル! 推して参る!」」
二人で左右対称になるようなポーズを決め、魔王カル&コルは駆け出した。
その速度は龍をスピードで翻弄したサナと同程度で、瞬く間に距離を詰められる。
魔王カルはスケアリーを、魔王コルはサナを狙って攻撃を繰り出した。
魔王カルの攻撃は掌底。
繰り出された掌底からは魔力によって生まれた衝撃波が放たれ、スケアリーを吹き飛ばす。
魔王コルの攻撃は物理フィールド。
手から結界とは異なる力場が発生、展開し、サナを強かに叩いた。
二人が使った魔法は、そのどちらも名称魔法である。
魔王カルは攻撃、魔王コルは防御。どちらも強力ではあるが、種がわかってしまえばなんてことはない。
『サナ。魔王カルを叩くぞ。集中的に攻撃して、あとでじっくり魔王コルを料理してやればいい』
「わかった」
シルバの立案に賛同したサナが、スケアリーの元に駆ける。
当然魔王コルが邪魔をしてくるが、シルバの読心の魔眼により行動を読まれ、足元に設置された小型結界に足をとられてしまう。
これで二対一。魔王カルはわからないが、魔王コルの名称魔法は遠距離攻撃ができるタイプではない。
魔王コルが転んで遅れた分の時間で、魔王カルを削る。
そういう作戦だ。
「これは不味いの」
「まさにその通りなのさ」
「だから、協力するの」
「遊びの時間は終わりさ」
二人の魔王の間で交わされる高速のやり取り。
魔王カル&コルの魔力が増大し、指向性を持っていく。
「「名称魔法、ピンチヒッター」」
魔王カルの両手から物理フィールドが展開し、サナとスケアリーの攻撃を防いだ。
魔王コルの両手から衝撃波が撃ち出され、サナとスケアリーを打ち据えた。
「驚いたの? この魔法は互いの場所を入れ替える魔法なの」
「転移には劣るさ。でも、コストパフォーマンスと発動速度なら負けないさ」
魔王カルが立っていた位置に魔王コルがいて、しゃべっている。
魔王コルが立っていた位置に魔王カルがいて、しゃべっている。
二人は何の前触れもなく、動き出した。
スケアリーに攻撃しようとした魔王コルに、スケアリーを後ろに飛ばせることで対処する。
しかし手から放たれたのは衝撃波で、後ろに飛んだスケアリーを追撃する。
魔王カルがスケアリーに衝撃波を打った隙を狙って短剣を振り下ろしたサナ。
いつの間にか魔王コルに入れ替わっていて、物理フィールドで防がれる。
スケアリーの後ろに回り込んだのは魔王カル。遠距離から衝撃波を発射し、サナの注意がカルに向いた瞬間に背後のコルと入れ替わって、また衝撃波を放つ。
サナが剣を振り下ろすころには魔王コルに入れ替わっており、物理フィールドで防がれた。
攻撃しては入れ替わりで防がれ、攻撃されては入れ替わられの攻防が続く。
「はあっ、はあっ」
『クソッ』
不休のアビリティを持っているスケアリーはともかく、サナに疲労が見え始めた。
シルバ本体の魔力も減っている。
今は休憩として結界を張っているが攻撃が続いているため、破られるのは時間の問題だろう。
『サナ、提案がある』
「提案?」
『魔王カル&コルの強さは連携にある。あの高度な連携に対応しようと思ったら、こちらも連携をとらなきゃいけない。だから、少し魔法の力を借りないか?」
「魔法って?」
『これだよ。今俺がしゃべってるやつだ』
厳密には魔法とも違う。妖術である。
「わかった。どうやるの?」
『ちょっと待て、今送る』
念話は一人が持っていたら相互通話が可能だ。
そのやり方を念話でイメージとして送る。
『こう?』
『そうだ。じゃあ、反撃開始と行こうか』
念話の利点は二つある。
相手に会話の内容を知られないことと、情報伝達を一瞬で行えるということだ。
つまり、今まで滞っていた情報交換を円滑に行うことによって、高度な連携を行えるようになっていた。
『右後方から敵』
『右前方とで挟み撃ちする気か。じゃあ俺は後方をやる』
『私は前方』
サナはスケアリーと背中合わせに戦っており、警戒範囲を三百六十度から百八十度に減らしていた。
サナの向いている位置を中央前方とし、方位を八方向に分けることで対処している。
戦闘センスが壊滅的に足りないシルバだが、読心の魔眼によって辛うじてサナの動きに合わせることができた。
『お、後方の奴コルだ。防御しやがった』
『じゃあ前方がカル』
『たぶん同時攻撃なら片方防げないぞ』
『タイミングを合わせる』
『おうよ』
リアルタイムで情報を共有したシルバとサナは、入れ替わりを行う魔王カル&コルに冷静に対処していく。
『一人そっちに行ったぞ』
『大丈夫。結界で防げる』
『……』
『……』
次第に念話がなくとも己の役割がこなせるようになり、余裕ができたらサポートも加え始める。
息の合った攻撃は魔王二人に、特に防御ができない魔王カルに傷を負わせていく。
「やりにくくなったの」
「カル、大丈夫なのさ?」
「まだまだいけるの」
「無理するのは良くないさ」
「大丈夫なの」
魔王カル&コルの連携が、シルバたちに通用しなくなっていく。
それに比例して防御が出来ない魔王カルの傷だけが増えていき、魔王コルの顔が悲痛になっていく。
シルバたちの息は合い、連携の完成度が上がっていく。二人の魔王は寄り添い、魔王コルがカルを物理フィールドで護る。
均衡がついに崩れ、飛ぶ斬撃が物理フィールドを突き破り、魔王カルを切り裂いた。
「カルッ!!」
「コル……前を向くの……」
ばっと振り返った魔王コル。
スケアリーが空中に多数の球体を放り投げ、地を蹴って飛び上がる。
球体を足場に、スケアリーが不規則な軌道で飛びかかってくる。
「くううっ!!」
魔王コルは物理フィールドで防ごうとするが、サナが斬撃の第二派を飛ばし、ガス欠気味の魔王コルが形成した物理フィールドを破る。
スケアリーはどういう原理か手袋から人の丈ほどもある刃を突出させると、魔王コルを薙ぎ払った。
「がはっ!」
「コル……ッ!」
スケアリーは刃を完全に手袋から出すと、その柄を握る。
「カル……」
「何なの……? コル」
「今までありがとうさ……」
「……こちらこそなの」
二人の魔王は寄り添い、ぎゅっと目をつむる。
スケアリーが振り下ろした刃が、紅く染まった。
<魔王カル&コルを殺害>
「勝者~! サナ・グランハート~!」
「ねえ、道化」
ぱちぱちと拍手をする道化に、サナは問いかける。
「ここで死んだ魔王はどうなるの?」
「それはつまり、もう一度生き返らせないのか、ということかい?」
サナは頷く。
道化はにこりと笑ったマスクをこちらに向けて、言った。
「生き返らせないよ。僕はエコなんて言葉が大嫌いだからね。リサイクルは受け付けないんだ」
「ふうん」
サナは興味を無くし、短剣をケースにしまう。
血だまりの中で沈む魔王は、手を繋いでいた。
お読みいただきありがとうございます。
カル&コル。書いてて何度もごっちゃになったキャラ。
スラムで必死に食いつなぐ女顔の少年、コル。彼はパンを盗んで逃げる途中、自分と瓜二つの少女、カルにぶつかってしまう! 超いい所のお嬢様で、自由に憧れる彼女に目を付けられたコルは、今日一日入れ替わって生活しようと提案されて!? かくして、カルとコルの入れ替わり生活が始まったのだった――!!
↑こんな感じで出会って、そのまま間違って誘拐されたコルをカルが助けたりしてるうちに、魔王までなりあがっていたとかいなかったとか。




