第四十五話 闘技場
スケアリーが進化した夜。
サナが眠りに落ちた後、シルバは黙々と進化の準備をしていた。
神経の接続を断ち、魔法の麻酔をかけ、と前回とほとんど同じ手順を踏んだら、いよいよ進化を始める時間だ。
<ステータスを確認>
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シルバ 0才
種族 マインドアイ
魔力 48125
妖気 386
アビリティ
転生(転生数3)
魔法
妖術
進化
魔眼(精霊視)
通知
魔眼(吸収)
寄生
魔眼(傀儡)
不眠
魔眼(読心)
称号
転生者
ダンジョンモンスター
義眼
臆病者
声優
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鳥の大量虐殺とドラゴンの討伐により、インフレが激しくなっている。
五万というと、常人の頂点である賢者と同レベルということだ。
保有アビリティも含めると、シルバは既に賢者を凌駕していることになる。
賢者は五人集まれば魔王を数日足止めできると言われているため、賢者を擁している国は発言権が総じて高い。魔王は総じて角の生えた魔族であるため、発見時にはすぐに賢者が集められるのだそうだ。その賢者を凌駕できるなら、魔王でも出てこない限り敵はないだろう。
それをさらに進化で強化する。
<進化を開始>
進化光が収まったので、シルバはサナと神経をつなぎ、ステータスを確認する。
<ステータスを確認>
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シルバ 0才
種族 インクリースアイ
魔力 2059
妖気 386
アビリティ
転生(転生数3)
魔法
妖術
進化
魔眼(精霊視)
通知
魔眼(吸収)
寄生
魔眼(傀儡)
不眠
魔眼(読心)
魔眼(増殖)
称号
転生者
ダンジョンモンスター
義眼
臆病者
声優
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魔力は消えてしまったが、かまわない。
増殖の魔眼を理解し、シルバは瞑想を始める。
魔物は放っておいても魔力が増えるから、強力なアビリティが追加されたからといって、瞑想を怠るわけにはいかない。
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不眠であるシルバとスケアリーはサナが起床するのを待ち、満を持して次の階層へと進む。
この青空エリアでは島一つで一階層扱いであったらしく、次は四十一階層だ。
二人は転移陣に入っていく。
四十一階層は闘技場のような場所だった。
広いスペースを円形に囲い込む観客席には誰もおらず、ぽっかりと空いた天井からは暗闇だけが覗いている。
それでも闘技場が明るいのは、あちこちに浮かぶ光魔法で作られた球の影響だろう。
シルバたちが転移したのは円の隅。観客席の真下だ。
反対側にも誰かがいるらしく、光の届かない暗がりの中で人型のシルエットが見えた。
『サナ』
「わかってる。油断しない」
シルバが注意を促し、サナが応えた直後。
「 レ デ ィ - ス & ジ ェ ン ト ル メ ン ! 」
大音量で聞き覚えのある声が流れてきた。
道化である。
「まあ、君たちしかいないわけだけどね。──さて、ここは闘技場エリアだよ。各階層ごとにボスがいるんだ。青空エリアの報酬を用意できなかった分、闘技場エリア踏破の報酬は大きいよ~」
ペラペラとしゃべる道化。サナはそれに待ったをかけた。
「あなた……誰?」
「ん、あれー? 魔眼くんから聞いてないのかい?」
「……?」
「まあいいや。では自己紹介。僕はこのダンジョン、エステリカの迷宮のダンジョンマスターだよ。ダンちゃんって呼んでね!」
「……」
「でわでわ! 一回戦、スタート!」
ぼがああん! と、意味もなく道化の後ろの地面が爆発したのを合図に、戦闘が始まる。
相手は信じられないほどの濃密な魔力を展開すると、それを身に纏い始める。
ゆっくりと歩いて暗がりから出てきたのは、角のある魔族の男だった。
そう、角だ。
魔王の証である。
「驚いてるようだねー。この人、実は九代目魔王、エクレルその人なんだ。わざわざ生き返らせたんだよ。少し力は落ちているけど、魔王軍四天王クラスの魔力はあるよ?」
横から親切にも説明を入れる道化だが、シルバとサナは聞いてなどいなかった。
魔王エクレルがその身に纏う魔力を結界に変え、勢いよく射出したからである。
固形化された魔力はサナを掠め、闘技場の壁に突き刺さった。
さらに魔王エクレルは結界を操作し、広く展開。闘技場をエクレル側とサナ側に二分した。
当然サナは結界を破壊しようと攻撃を加えるが、結界にはわずかな波紋が広がるだけである。
魔王エクレルはそればかりでなく、結界の一部分だけを勢いよく突出させ、サナを貫こうとする。
回避したサナが結界から距離をとり、仮面を一部開いて、覗いた口から取り出した長剣で結界を斬りつけているスケアリーに任せる。
読心の魔眼で魔王エクレルの動向を観察し、結界を結界で相殺していたシルバは、サナの立ち位置移動に合わせ、吸収の魔眼に切り替える。
練度が上がったおかげか、吸収の魔眼は遠距離でも使用できるようになっていた。
シルバは魔力を結界から吸収し、自らの糧としていく。
しかし、結界が衰えることはなかった。
サナは変形しながら襲い掛かってくる結界の追撃をかわし、さらに後方に移動した。
結界はじわじわとサナたちのスペースを奪いながら進行してくる。
───新しい身体の性能確認はこの辺でいいか。
シルバはそう結論を出すと、使用する魔眼を切り替える。
増殖の魔眼。
シルバの瞳が黄緑に染まり、じっと魔王エクレルを見つめる。
唐突に、エクレルの腕に細い筋が生まれた。
唐突に表れた不自然な線は徐々に開いていき、その内容物を外気に晒す。
「眼」だった。
確かに彼の腕にはシルバにそっくりな、銀の眼がついていたのだ。
眼はぎょろぎょろと視線を彷徨わせている。
ぎょっとする魔王エクレルに、今度は腕だけではなく、全身に同じような筋が入る。
眼が、エクレルを埋め尽くした。
そして眼は一斉に白目を剥く。
エクレルの内側を見る。
すべての眼から、火が、水が、風が、土が、あらゆる魔法が放たれた。
外から見たのなら、全身に目を付けた男が突然爆発したように見えたろう。
実際、本体はそれを見ていた。
虚ろな目で。意識を朦朧とさせながら。
増殖の魔眼は少しピーキーだ。
その能力は視線の先に眼を作り出すというものだが、いくつか弱点がある。
一つ目はかなりの体力を消耗すること。
二つ目は増殖した眼は十秒ほどで消えてしまうというもの。
三つ目は増殖した視界に注意力が著しく奪われることだ。
消耗が激しいため多用はできず、奥の手になるだろう。
ここで使ったのは性能テストのためだ。
『うお、すげえな。……俺に向けんじゃねえぞ?』
「知らない。魔眼次第」
シルバは白々しくスケアリーとしての反応をサナに示した後、スケアリーに命じて魔王から魔石をはぎ取らせる。
獣人の幻獣種である、いわば紛い物の魔族とは違い、本物の魔族は魔物を先祖としているため、体内に魔石がある。
それを壊せば当然、内包された魔力はシルバとスケアリーのものだ。
力が満ちるのを感じたシルバは、ステータスの魔力部分を確認する。
<ステータスを確認>
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シルバ 0才
魔力 13634
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魔力が一万近く跳ねあがっていた。
これが魔王。一部の吸収ですら一万の魔力。
これが一度目に出てくるのは不安を感じざるを得なかった。
切り札である増殖の魔眼は、燃費が悪い。
「勝者~! サナ・グランハート~!」
ぱちぱちと拍手を送ってくる道化に、サナは視線を向けた。
「さ~てサナちゃん。君は選ばなきゃならない。今日はここで休むか、次に行くかをね」
「次に行く」
自身は全く消耗していないため、次に行くことを選択したサナ。
シルバは増殖の魔眼を使用したせいで消耗しているため、休ませてほしいのだが。
シルバがスケアリーと共有したのは不眠だけで、不休は手に入れられていない。
疲労は蓄積しているのだ。
シルバの内心とは関係なく、サナとスケアリーの足元に転移陣が出現する。
次の闘技場に転移すると、また角の生えた魔族が待っていた。
「今度は八代目魔王、ベルジーだよ。頑張れ!」
サナはなぜか涙目になった右目を、手で強く拭った。
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