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転生の軌跡~Regrowth for you~  作者: 進化する愚物
第三章 魔眼転生
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第四十一話 青空

 スケアリーに魔力を持っていかれた。

 幸い大した量ではないし、進化に必要な分も残っている。おまけにアビリティも増えた。

 だがそれで”いくらでも持っていきなさい”とはならない。


 今知っておくべきことは一つ。


スケアリーが無尽蔵にシルバから魔力を得られるのか。


 ということである。

 そういうわけでさっそく検証を行う。


 検証一。

 魔力を目の前に出してみる。


 魔力を魔法に変換せず、ただ空気中に放出する。

 魔力がスケアリーに触れても、特に変化は見られなかった。ステータスも変わっていない。

 シルバの魔力に影響されてどうこうしたわけではないらしい。

 それではシルバの魔力が減少した理由に説明がつかないし、外れだろう。


 検証二。

 魔力を消費させる。


 師匠の受け売りだが、生物は魔力を作り出す器のようなものを持っており、魔力を消費すると少しずつ魔力の器が大きくなるらしい。それがステータスの表示される魔力の正体である。

 そして、器を大きくするためにはどこかから材料を持ってくる必要がある。

 師匠ならもう少し詳しく説明できるだろうが、特に理解もできなかったシルバではこの説明が限界だ。


 器を大きくするために必要な材料をシルバから入手しているかを調べたいわけだが、そのためにはスケアリーの魔力を消費させねばならない。

 そこで登場するのが解呪(ディスペル)である。


 解呪(ディスペル)は本来魔法から魔力を発散させることで魔法解除する魔法である。

 これを応用すると、生物(死者?)から魔力を発散させることもできるのだ。


 スケアリーに解呪(ディスペル)をかけると、魔法成功時特有の手ごたえがあった。成功したらしい。

 シルバはすぐさまステータスを見る。


<ステータスを確認>


 変化はなかった。


 検証二までがシルバにできる検証となる。

 残る検証三は経過観察であり、現時点では結果が判らないからだ。


 したがって、シルバはスケアリーを監視するくらいしか対策がなくなってしまう。

 いっそ倒してしまうのもありだが、ここで墓地エリアは終わりだ。この先スケアリーほど自我が薄く、都合のよいモンスターなどなかなかいないだろう。


 もういいか。

 思考放棄したシルバは、興味を進化のほうへ移す。

 シルバは既に進化できるのだ。


<進化を開始。条件「モンスターを従える」を達成したことで進化先が変化>


<ステータスを確認>



------------------------------

シルバ 0才

種族 マインドアイ


魔力 2059

妖気 282


アビリティ

 転生(転生数3)

 魔法

 妖術

 進化

 魔眼(精霊視)

 通知

 魔眼(吸収)

 寄生

 魔眼(傀儡)

 不眠

 魔眼(読心)


称号

 転生者

 ダンジョンモンスター

 義眼

 臆病者

------------------------------


 アビリティの詳細が頭に入ってくる。

 

 魔眼(読心)は、目を合わせた生物の考えを読むアビリティ。成功率は相手の警戒度と実力差で決まる。

 これで従えたモンスターと意思疎通しなさいということだろう。


 しめた、と思った。

 これなら少なくともスケアリーが魔力を強奪する際の意志の有無や自我のレベルを測れる。


 さっそく、スケアリーと目を合わせよう。

 シルバはそう思い、スケアリーをじっと見つめる。


 …………。


 スケアリーに目はなかった。

 何を考えているのやら、さっぱりわからない。


 シルバは使えない能力を心中で口汚く罵って、ふと思い出す。

 いつもボス撃破後には自称ダンジョンマスターの道化が乱入してくるはずなのだが、それがないのだ。


 ついにめんどくさくなったか。

 そう思った瞬間であった。



「じゃじゃぁ~~ん! ダンちゃん参上!」



 いつにもましてハイテンションで現れた道化が、無駄にアクロバティックにジャンプし、寝ているサナの前に着地する。


 道化の黒い瞳が、シルバの青い瞳(・・・)を覗き込んだ。


<魔眼(読心)の抵抗(レジスト)を確認>



「っははは、魔眼くん、僕は君の魔眼の実験台じゃないからね。あ、それはそうと、久しぶり」



 心を読まれかけたことをさも何でもないかのように話す道化。マスクのせいで表情を読み取ることはできないが、唯一見える眼には余裕の色が浮かんでいた。。

 


「そういえばいつもサナちゃん寝てるよね。疲れやすいのかな?」



 道化はシルバの放つ火球をひらりと躱し、サナの顔を覗き込む。

 サナはその人形のような顔を少しも動かさず、眠り続けている。


 道化はまあいいやと言って顔を上げると、サナの目であるシルバを見下ろした。



「僕は今とても機嫌がいいんだ。その理由に君も深く関わっているし、サナちゃんだけじゃなく君の分も報酬を用意しよう」



 はて、とシルバは首を傾げる。こんな道化に喜ばれるようなことをした覚えはないが……。



「シルバ君の報酬は、こちらでーす」



 道化がぱちんと指を鳴らすと、キラキラと輝く煙が湧いて出た。

 煙はシルバの体に吸い込まれていく。



「それが何かは、自分の目で確かめてね。……あ、君の場合目しかないね!」



 シルバが怒って、面倒で使おうとしなかった念話で言い返そうとした時には、道化は消え失せていた。

 ちなみに、シルバはなぜか音を拾えるし匂いも判別できる。本当にモンスターとは不思議な生き物である。


 道化が去った後には、眠りこける少女、少し疲れた眼球、佇む骨、そして小さな箱のみが残った。


 ステータスを確認しても、変わったところはなかった。 



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 サナが目を覚ますと、まず目に飛び込んでくるのは大腿骨だ。視線を少し上に向けると大腿骨と接続する骨盤、肋骨、頚椎と続き、最後に形の整った頭蓋、その空虚な眼孔と目が合う。



「おはよう」



 相手がただのアンデッドではなく、意思疎通のできる個体、しかも友好的である以上、最低限の礼儀を尽くす。それが伯爵家令嬢として唯一、現在もサナが実行しているものだった。


 スケルトンはカタカタと顎の骨を鳴らして返事をする。

 そして、スッとその体を右にずらした。

 先ほどまでスケルトンがいた場所には骨が散らばっている。サナはそれがスケルトンの書いた文字であることを理解した。



「わたしの、なまえは……すけありー?」



 読み上げたサナが、確認をとるようにスケアリー?を見上げた。

 スケアリーは頷く。



「よろしく、スケアリー」



 それだけ言うと、サナは小さな箱を見つけて、そちらに歩いて行った。

 箱を開けると、中から指輪が顔を出した。

 魔眼が解析結果を教えてくれる。


------------------------------

防護の指輪

装飾種 指輪


強度 H

魔力 S


アビリティ

 防護


作成者

 ダンちゃんでーす♪

------------------------------


 防護。

 いったい何から守ろうというのか。


 考えてもわからないものはわからないので、サナは指輪を右手の中指にはめ、出現していた転移陣に踏み込んだ。

 スケアリーもそれに続く。


 視界が切り替わり、瞳に映し出されたのは、見渡す限りの青空だった。


 上も下も、青空だった。



「ゲゲゲゲゲゲゲゲッ」



 背後の不快音に振り向くと、醜い、鶏の顔をした怪鳥が、バタバタと無様に羽ばたきながら向かってきていた。怪鳥の背には鞍のようなシートが設置されている。


 近くにいたスケアリーが怪鳥を斬りつけた。

 怪鳥は器用にも鶏の顔で解せぬ、とでもいうような表情を浮かべ、遥か下方に加速しながら落ちていく。


 途中で怪鳥から鞍が分離し、別々になって落ちていった。

 誰を乗せることもなく落ちていった。


 サナは自分とともに落下するスケアリーに向かってこぶしを突き出し──


 ──グッと親指を立てた。


 サナはもう一度周辺を見やる。

 上や横は相変わらずの青空だが、サナたちの落下予想ルート上には小さな点が見えた。


 点はサナたちが落下するに従い少しずつ大きくなっていき、ついにはサナの視界いっぱいを点の正体、地面が覆った。

 地面への激突時に予想されていた衝撃は一切なく、サナたちは地面に到達する数センチ前で静止し、何の問題もなく着地する。サナの魔眼が魔法を使い、衝撃を緩和したのだ。


 魔眼はサナたちを守ったが、同時に魔力を消費してしまい、サナにかける身体強化が大分弱くなってしまった。

 少し惜しいが、サナ自身の魔力を身体強化に回すことにする。


 サナとスケアリーが降り立ったのは森の中。十一~二十階層ほどではないが、熱帯樹が鬱蒼と生い茂っている。


 刹那、木々の間から高速で何かが飛び出してくる。

 サナによって切り裂かれ、地に落ちたそれは、(くちばし)が異様に尖った鳥型のモンスターだった。


 嘴鳥を皮切りに、サナたちを無数の鳥が襲う。

 サナは鳥を捌き、スケアリーは叩き斬る。

 鳥以外のモンスターは見かけなかった。


 ある程度の区切りがつくと、鳥たちは散発的に襲ってくるようになった。

 たびたび現れる鳥を倒しながら、サナたちは森の探索を進める。


 やっと森を抜けたサナが見たものは、唐突な崖と、青空。そして周囲に浮かぶ無数の浮島だった。


 崖と森までには小さな平地があり、その中央に、怪しげな石板が置かれている。

 石板は半分ほど地面に埋まっており、表面には「押す」と書いてあった。

 上に飛び乗ることで体重をかけて押してやると、石板が沈み込む。


 直後、ズズズズズズ、と大地が揺れる。浮島全体が揺れているようだった。


 揺れが収まると、先ほどまで崖だった場所に、宙を貫く階段が現れている。

 階段はサナたちのいる島から一番近い、斜め下の浮島につながっているようで、そこに行くためには数えきれない数の段を降りる必要があった。


 サナは階段を、一歩づつ降りていく。

 どこまでも広がる青い空には、雲一つ、太陽一つ浮かんでいない。

 

お読みいただきありがとうございます。

本文の通り、シルバの魔力についての見解は少し間違っています。

シルバの師匠がわかりやすさを優先した結果が、魔力の器、というありがちなものになったわけです。


本当は魔力素粒子とかそんな感じのありがちな設定その二が作者の頭に眠っているわけですが、それを描いちゃうと無駄に冗長になってしまいますので、上記の文を言い訳とさせていただきます。

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