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転生の軌跡~Regrowth for you~  作者: 進化する愚物
第三章 魔眼転生
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第三十六話 ストライク

「いって~、ちくしょ~」


「自業自得じゃん。バーさんのトラップに自分から突っ込んで行っちゃ世話ないんだから」


「バーさん言うな! 私はバニエタよ!」


 サナと焚き火を囲み、酒をあおっているのは男女混合の三人組だ。


 サナが出会った三人組は冒険者らしく、グレイブ・ディガーというチームを組んでいるらしい。

 二年前にダンジョンに潜り、結界のせいで帰れなくなったようだ。

 ダンジョンが成長する前にここまで来たらしく、成長後は苦戦していた。


「いや~。まさか僕たち以外にもこのダンジョンに冒険者がいるなんてねえ。いつから潜ってたの?」


 魔法使い――ヘックの問いに、サナは指を三本立てて応える。


「三年!? よくここまで来れたっていうか、よく生きてたわね」


「結界張るまで気づけなかったんだ。隠密が得意なんだろう」


 彼らは勘違いしているようだが、実際のサナの滞在時間は三十日。圧倒的な速度である。

 盗賊の女――バニエタは少しの間考え込むと、パッと顔を上げた。


「ねえ、サナちゃん、私達と一緒に来ない? 私達なら外に連れて行ってあげられるわ」


「ああ、それがいい。ちょうど回復役が欲しかったところだし、回復アイテムで援護して欲しい」


 サナの脳内で、きわめて客観的についていくか否かが天秤にかけられる。

 ついていくメリットは情報に加えて囮、肉壁の確保。デメリットは裏切りの可能性。

 しかし、彼らから感じる魔力は大したものではないし、裏切られても返り討ちにする自信がある。


「わかった。ついて行く」


 くべられた薪が、ぱちんと爆ぜた。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「右前方から敵! エルド!」


「おう!」


 エルドの斧がゾンビの脳天をかち割り、股まで切り裂く。

 さらに切り上げる事で、続く二体目を先ほどの右半身ごと、魚のようにぱっくりと切り開いた。


 後方ではヘックが呪文を唱え、随時固まった敵を削っていた。

 二人の間に立って敵の位置を把握するのはバニエタの仕事である。


 では、サナは何をしているのかというと。


「ぐおっ!? 痛え……」


 傷を負ったエルドの腕に、回復薬の入ったビンがクルクルと回転しながら飛来する。

 ビンはガシャンと割れて、ガラスの破片と回復薬をぶちまけた。

 破片で傷が抉られるが、その傷ごと回復薬で癒す。

 サナの仕事は、傷を負った盾役(タンク)に回復薬を投げつける事である。


 与えられた仕事はそれだけだ。

 明らかに子供であるサナに危険は犯させたくないと言う事だろう。

 もちろんこれだけでサナがやめるはずもなく。


「がっはっは! 今日は調子がいいぜぇ!」


 エルドの無駄口をBGMに、サナは魔法の練習にいそしんでいた。

 一応、まだ公爵家令嬢だったころに魔法を習ってはいるのだが、魔眼の魔法に比べたら、

それは実にちゃちでちっぽけなものだった。

 だから、見よう見まねで魔法を学び直しているのである。


 魔眼を参考にした無詠唱での発動。

 遠隔での魔力による強化。

 そして。


「くらええええい!」


 エルドの振るった剣が、一瞬赤熱した。

 じゅうっと、肉の焼ける音がする。

 魔法による攻撃は有効であるらしく、ゾンビは体を粉々に破壊されたわけでもなく仰向けに倒れた。


 サナが今試しているのは、属性の付与である。

 弱点の属性で戦えば有利であるし、物理攻撃以外の攻撃手段が手に入るのだ。

 エルド(バカ)は気づいていないらしく、実に都合がよい。


「がははははは! どうよ? 俺の華麗な剣捌き!」


「ん~、はいはい。すごいね~」


「あっ、ヘック手前(てめえ)! 馬鹿にしてんだろ!?」


「いや、君元からバカでしょ。それ剣じゃなくて斧だし」


「あっ。……次ぃ!!」


 二人は軽口を叩きながらも、次々とバニエタの指示通りに敵を屠っていく。

 その裏ではサナによる遠隔属性付与がなされているのだが、衰退した魔法知識では無詠唱の魔法を見破ることはできない。


「それにしてもおかしいわね。今までこんなにアンデッドが沸いたことなんてなかったのに」


「そういう日もあんだろ」


 二人の会話を聞き、サナは内心で首を傾げた。

 サナはこのくらいの集団を毎日相手にしていたからだ。


「この数は多いの……?」


「ん? ああ、サナちゃんは今まで戦ったことなかったんだよね。……ええと、普段は一日に二十匹くらいなんだけど。今日は百匹はいると思うよ」


 サナの疑問に、少し驚きながらヘックが答える。サナは近寄りづらい雰囲気を全身で発しており、話しかけてくることもなかったからだ。

 ヘックはでも、と付け足した。


「魔物の数が多くなる日は一か月に一回くらいだけどあるんだ。僕の計算だと二週間後のはずだったんだけど、今日だったみたいだね」


「まあ、なんかこいつら弱くなってるし、余裕だろ」


「? 僕はそうは感じないけど」


 ビクッと小さく揺れたサナに、誰も気づかなかった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 それから一週間が経過した。

 グレイブ・ディガーはかなり慎重で、結界を張りながらということもあって踏破速度はかなり遅い。

 彼らはいまだに二十五階層に留まっていた。


「左後方に敵! サナちゃん、お願い!」


 一週間の間でサナは少しだけ戦闘能力を発揮することを決めた。

 グレイブ・ディガーいわく数が増えたらしいアンデッドのせいで、踏破がかなり遅れていることがサナの腰を挙げさせた理由である。


 偶然拾ったと偽った鬼の短刀を振るい、カタカタと揺れる骸骨を切り砕く。


「でえりゃあああああああああああああ!」


 サナの後方で野太い声が上がる。

 足元に転がった頭蓋を踏み砕きながら振り向くと、エルドが斧をハンマー投げの選手のように回転させていた。

 アンデッドたちが次々と両断されていく。


「エルド! そんなことしたらすっぽ抜け……ああ! 言わんこっちゃない!」


「もう! 私がフォローにまわるわ。サナちゃん、ヘック。頼んだわよ」


 バニエタが馬鹿なことをしたエルドのフォローにまわるのも、もはや日常茶飯事である。


 だが、今日だけは少し違った。


「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」


 濁った雄叫びをあげたのは、巨躯の怪物。

 その頭にはエルドの物と思われる斧が刺さっていた。


 そこにいたのは、ダンジョンで稀に発生する中ボスと呼ばれる存在である。

 腐りかけた筋肉質の体からは、もとは血であったであろう黒い液体が滴り落ちている。

 


「ストライク!」


 エルドがやけくそ気味に叫ぶ。

 あ、こっち向いた。


「言ってる場合じゃないでしょ! 戦うわよ! エルドは正面から引き付けて! ヘックは背後から魔法! サナちゃんは雑魚掃除をお願い!」


「え!? 俺斧ないんだけど!?」


「その辺の骨でも拾いなさい!」


 それを実行してしまうのがエルドである。

 半ばから折れた肋骨を拾い上げたエルドが、でりゃああああ! と突進する。

 エルドは巨躯の割に素早く、振り下ろされた腕を大きく飛んで躱し、突き刺した肋骨を足掛かりに斧をつかみ、引き抜いた。中ボスが一瞬だけ怯む。

 

 ヘックはすでに魔法の詠唱を始めていた。

 魔力を込めた声帯を通して構成された、力ある言葉が具現化し、光る文字列となって彼の周りを旋回し始める。


 サナは言われた通り雑魚を一掃しようと、鬼の短刀に魔力を込めた。

 足を身体強化し、高速ですれ違いざまに頭を飛ばしていく。

 魔力を使った分三人の身体強化等がおろそかになるが、そんなものサナの知ったことではない。

 三人全員の視線をかわしながらでも、すべての首を飛ばすのに一分とかからなかった。


 確実に息の根を止めるため、サナはしゃがみ込んで転がった(こうべ)に狙いを定め、短刀を振り下ろした。


「サナちゃん、危ねぇ!!」


 後ろから聞こえた声にはじかれたように振り向くと、いつの間にか接近していた中ボスが、サナに向けて腕を振り下ろしていた。

 視線を少し横にずらすと、血を流して動かないヘックと、そのそばで泣きながら回復薬を取り出すバニエタ、満身創痍で走り寄るエルドが見える。叫んだのはエルドだろう。

 とっさに防御しようと腕を交差させるが、身体強化は足に集中している。魔眼の効果で基礎能力が上がっているとはいえ、骨の一本は覚悟しなければならないだろう。


 しかし、サナの体には傷一つつかなかった。


 火事場の馬鹿力ともいえる走りで突っ込んできたエルドが、サナを庇ったからである。


「だい……じょうぶ、か?」


 信じられないものを見たような顔をしたサナに、エルドは不敵な笑みを浮かべる。──だが、そのままゆっくりと倒れた。


 サナは素早く短刀を一閃し、再び腕を振り上げた中ボスの首を刈り取る。

 あまりにもあっけない最期に、腐りかけた首はきょとん、とした表情で固まっていた。


「っ……エルドぉおおおおお!!」


 意識を取り戻したヘックが、悲痛な声を上げる。

 倒れ伏したエルドの背中は大きく抉られ、白い肋骨が見えていた。


「バニエタ! 回復薬を! 早くっ!!」


「もうないわ! さっき使った分で最後よ」


「調合は!?」


「できる前にエルドが死んじゃう!」


 切羽詰まった二人の会話を聞きながら、サナはもはや虫の息となったエルドのそばにしゃがみ込む。


 サナを命がけで守るような人間が、裏切る可能性は低いだろう。

 問題はない。


「サナちゃん? 何を――」


「魔眼。治療を」


 問題はないのだ。


 半ば言い聞かせるように心中でつぶやくと、サナは魔眼が使っていた回復魔法を、見よう見まねで発動する。魔眼に命令はしない。これはサナがやるべきことだ。

 魔力というエネルギーがごっそり抜き取られることによる疑似的な寒さを感じながらも、サナはエルドの傷が快癒していくのを見届けた。


「そんな……これは……」


 治療法を思案するのを止めたヘックが、意図せず呟いた。


「「エルドぉ!」法だ……」


 駆け寄ってきたバニエタの声によって、ヘックの言葉はかき消される。


「あじがどお! ざなぢゃんん!」


 濁点の入り混じった声を上げながら抱き着いてきたバニエタは、どうやら礼を言っているらしかった。

 少し苦しいが、不快には感じない。


 エルドが目を覚ますと、三人から改めて感謝の言葉をかけられる。

 魔眼の事や、力を隠していたことは気にしないようだ。


 少しだけ、サナの雰囲気が和らいだ気がした。

お読みいただきありがとうございます。


サナの人間らしい部分が取り戻されていきます。


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