第三十五話 墓地の邂逅
断っておきましょう。三章はダークです。
シルバは進化の準備をする。
十階層ボスに勝利したサナは、ボス部屋の壁に寄りかかり、睡眠をとっていた。
もともと少ない魔力量を魔法や身体強化に当ててしまったため、魔力の枯渇で当分は起きない。
例に漏れず魔力が高まったシルバには好都合だった。
<ステータスを確認>
------------------------------
シルバ 0才
種族 チャームアイ(進化可能)
魔力 8342
妖気 162
アビリティ
転生(転生数3)
魔法
妖術
進化
魔眼(精霊視)
通知
魔眼(吸収)
寄生
魔眼(魅了)
称号
転生者
ダンジョンモンスター
義眼
------------------------------
<進化を開始>
進化光を放ちながら、シルバは魔眼(魅了)について考える。
対人には有効だと思うが、迷宮では何の意味もなかった。
次に期待しよう。
<取得アビリティが魔眼(魅了)と融合。>
<下位互換である魔眼(魅了)が常時発動に変化>
<ステータスを確認>
------------------------------
シルバ 0才
種族 ワイヤープラー
魔力 1342
妖気 162
アビリティ
転生(転生数3)
魔法
妖術
進化
魔眼(精霊視)
通知
魔眼(吸収)
寄生
魔眼(傀儡)
称号
転生者
ダンジョンモンスター
義眼
------------------------------
シルバは唖然とした。
アビリティは融合する。
これがスライム時代に起こっていればもう少し使えるものが増えたものを。
魔眼(傀儡)の能力も恐ろしい。
「こ~んにっちわ~」
部屋の中央に転移陣が現れ、いつぞやのように道化が現れた。
道化はステッキを振り回しながら、スキップで近づいてくる。
「あれ? また寝てるよ。タイミング悪いなあ」
刹那、サナの右目が見開き、その銀の虹彩が紫に染まった。
<魔眼(傀儡)の抵抗を確認>
「あ。魔眼くんじゃん。久しぶり」
魔眼が効いていない。
道化はシルバが展開した結界にちょんちょんと触れた後、数歩後ろに下がってパントマイムを始めた。
あたかもそこに見えない壁があるように、すすす、と手を這わせていく。
「バリアー! ……なんちて」
道化はクスリと笑った後。
「一定時間だけ相手を操る魔眼かぁ。……面白いね」
あっさりシルバの魔眼の正体を見破った。
「基本的に精神操作系の能力は圧倒的格上には効かない。仮に効いても、一瞬の硬直が限界だ。しかも君の魔眼だと、三時間のクールタイム付きだ」
「なんで知ってるのかって? ……秘密さ」
道化は、ぞっとするような邪悪な笑みを浮かべる。
「またね、シルバ。二十階層突破おめでとう」
きれいな瞳だね、と言い残して、道化はPONと音を立て、消えた。
やはり宝箱が出現する。
あの道化は一体何者なのだろう。
ダンジョンのボスと見るのが自然だが、シルバの名前を知っている説明がつかない。
解析に近い魔法や能力を持っているのだろうか。
どちらにせよ、何かをするにはダンジョンを攻略しなくてはならない。
シルバはゆっくりと、深い眠りに落ちていった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
八時間後。
サナはまぶたを開け、周囲を見渡す。
ボス部屋に、眠る前はなかった宝箱がある。
サナは宝箱に近寄り、蓋を開いた。
ふしゅうううう、と煙が噴き出し、お宝を演出する。
「服……?」
中に入っていたのは一着の服。
サナが見たこともないデザインのその服は、実は異世界のとある学び舎の制服であったりする。
なお、それがなぜここにあるかというと、設置した者の趣味であるところが大きい。
サナは自らの服を見る。
一流の職人に仕立てられた「服だったもの」は、魔物の攻撃で裂け、返り血で汚れていた。
魔眼の効果で、服の情報がポップアップする。
------------------------------
異世界の制服
防具種 制服
強度 C
防御 S
魔力 A
アビリティ
清掃
再生
結界
作成者
???
------------------------------
強度Cが不安なところだが、今来ているぼろぼろの服よりはマシだろう。
着替えている間は、なぜか右のまぶたが重かった。
着替え終わったら、転移陣に乗って二十一階層に入る。
視界が切り替わり、サナの視界に頭蓋骨がどアップで出現する。
サナは冷静に、気持ち悪いくらい冷静に頭蓋骨をグーで割り砕いた。
カシャカシャと崩れる頭部の破片たち。
襲い掛かってきた肉無しの胴体を鬼の短刀で八等分して、カタカタと鳴る顎の骨を踏み砕く。
見渡すと、あたり一体がどろどろとした空気に包まれていた。
一面に広がる十字架。
何処からか響く呻き声。
徘徊する亡者達。
謎の黒い霧。
二十一階層からは墓地エリアらしい。
ふいに、サナの足もとの地面が盛り上がる。
ヴアアアアアア、と呻きながら、ゾンビが這い上がってきた。
サナはゾンビが地面から抜けきる前に短刀をその頭に突き刺し、ぐりぐりと抉る。
彼女はヒーローの変身シーンを待たないタイプの人間である。
いや、そうなったというべきか。
ぐったりとしたゾンビの頭を制服に付属していたスニーカーで押さえ、突き刺さった短刀を勢いよく抜き取る。
まだ生きているようだが、魔眼に吸収されれば不死者も糞もないだろう。
サナは、ふよふよと漂っている人魂に目を向けた。
人魂は一瞬の硬直の後、何かに操られるようにサナのほうに近寄ってくる。
人魂は一切の抵抗を見せず、魔眼に吸収された。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
魔眼(傀儡)はやはり有用である。
シルバは内心でほくそ笑んだ。
一定時間目を合わせた相手を操る魔眼だが、自我の殆ど無い生物なら長時間操れるらしい。
相手を一瞬硬直させられるだけでも有用なのだが。
一度使った相手には十分間再使用できないのが難点である。
現在シルバがいるのは二十五階層。墓地エリアは教会跡に階段があった。
もちろんそこまでの道のりには様々な嫌がらせが仕掛けられてあったのだが、当然サナにはそんなもの通用しない。飛来する人魂はすべて魔眼の糧にされ、アンデッドはことごとく斬って割られ、魔石を砕かれた。
シルバとしては魔力が手に入ってウハウハである。
こうしている間にも、サナは墓地を進んで行く。
地中から出てこようとするアンデッドの頭蓋を踏みつけながら。
何かを見つけたサナが、墓石の影に隠れる。
何人かの人影が、火を囲んで酒を飲んでいた。
「グレイブ・ディガーに乾杯!」
「「乾杯!」」
彼らはダンジョンのど真ん中で、結界も張らずに酒をあおっていた。
装備から見るに、構成は戦士の男、盗賊の女、魔法使いの男と言うところだろうか。
罠の可能性があると見たのか、サナはもう少し様子を伺う。
「長かったわね。どれくらい経ったのかしら?」
「ちょっと待て。……今日は十月十日。ここに入ったのが二年前の八月十三日だから、二年と二ヶ月くらいだ」
「じゃあ計算上、あと二年でここを出られるってわけか」
ここで魔法使いの男が、はっと息を呑む。
「あ、やばっ。結界張ってない」
「も~、しっかりしてよ~」
「ほんとだぞ。モンスターが来たらどうするんだ」
魔法使いの男はすまんすまんと言いながら、杖を手に取り呪文を唱える。
長ったらしい呪文を聞きながら、どうにも現代の魔法は衰退しているらしいな、とシルバは思った。
呪文が完成し、男を中心に半球の膜が広がる。
「ん?」
「何だ? 小便でも催したか?」
「まったく。食事中にそういう話は――」
「何かいる」
二人の目つきが一気に鋭くなり、各々の武器を構える。
魔法使いの男が指し示した方向に戦士が進んでいき、盗賊の女が手早くトラップを設置していく。
獲物を誘い出し、トラップでしとめようという心積もりだろう。
だがその思惑は、良い意味で外れる事になる。
「……子供?」
サナを見た戦士の男が、虚を突かれて固まる。
サナは一見無防備に見えるが、何処から攻撃されてもいいように短剣の柄に手を添えていた。
「なにしてんのエルド。早くやっちゃってよ」
「これを見てもか?」
小声でせかしてきた盗賊の女に、エルドと呼ばれた戦士は体を半歩横にずらす。
「綺麗な瞳だ……」
魔法使いの男が呟いた、
「お嬢ちゃん。少しおじさんと話をしないかい?」
「いいよ」
無愛想に答えるサナ。
「よし、お前ら武器下ろせ。酒の続きだ」
エルドはサナに背を向け、すたすたと仲間の下へ向かう。
「あ、バカ! そこは――」
「え?」
足元に仕掛けられたワイヤーがぴんと張り、トラップが作動する。
「しまっ――」
ドガン、という音と共に魔力が炸裂し、吹っ飛んだエルドがべしゃっと地面に落下した。
お読みいただきありがとうございます。




