第三十四話 駆除
道化が残していった宝箱を開けると、一振りの短刀が入っていた。
木でできた柄には「鬼の短刀」とだけ彫られており、説明などは一切なしだ。
そう思ったとき、魔眼が反応した。
短刀の手前に半透明のボードが出現する。
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鬼の短刀
武器種 短刀
強度 A
攻撃 B
魔力 S
アビリティ
吸血
作成者
ダンちゃんでーす♪
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魔眼の能力のようだ。
事実、鬼の短刀は魔力をよく通すので魔力を纏わせ易いし、単体としての切れ味も悪くない。
サナは鬼の短刀を主要武器にすることを決めた。
さて、サナがいるのは十階層のボス部屋だ。主のいないこの部屋で、散々試し切りを行っていた。
そして今、遂に十一階層へと足を踏み入れようとしている。
靴底が魔法陣に触れたと同時に、サナの視界が切り替わった。
石レンガの壁は消失し、変わりに鬱蒼とした密林が広がっている。
頭上からは擬似太陽の陽光がさんさんと降りそそぎ、暗闇に慣れた目を細めさせた。
当然道などは無い。
サナは頼りになる魔眼に、こう命じた。
焼き払え。
擬似太陽の光が届かなくなり、遮蔽物も無いのに日陰が生まれる。
光の軌道を無理やり歪めることで集められ、溜められた太陽光が、魔眼を起点として開放される。
知識のある人間なら「目からビィーム!」と叫びそうな魔法が、熱帯樹の壁に穴を開けた。
魔法は属性魔法と名称魔法の二つに区分される。
属性魔法は火や水など、おもに六つの属性からなる魔法で、属性に関する事柄を生み出し、操る魔法だ。生物である限り必ず何らかの属性を持っているため、誰にでも扱える。
一方、名称魔法に属性は無い。その代わりに、それぞれに独自の名称が与えられる。型に当てはまらないだけに強力なものが多く、消費する魔力は殆どが高い。
サナの魔眼であるシルバが放ったのはソーラー・レイという魔法。
名称魔法である。
サナが焼け焦げたトンネルに足を踏み入れようとすると、炭化した樹木がピクリと動いた。
熱帯樹たちの亡骸の隙間から芽吹いた緑は瞬く間に広がり、魔眼が焼いて出来た隙間を覆い隠していく。
ずるは出来ない。
サナは何の感慨も無くそう呟くと、短刀片手に手近な樹木へと歩み寄っていく。
サナが手を振るうと、根元から切断された樹木が、めりめりと音を立てながら倒れた。
少し待ってみても、新しく樹が生えてくる気配は無い。
焼いたりしない限りは問題ないようだ。
伐採しながら進めと言う事らしい。
巨人の胴回りほどはありそうな切り株に乗り、次の樹を切断する。
樹の陰にいた何かが、弾丸のようにサナの顔目掛けて飛んできた。
「蜂……?」
全く動揺することなく受け止めたサナが、確認した後で握りつぶす。
透明な体液が、手の隙間からにじみ出た。
魔眼がそれを残さず吸収していく。
飛んできた蜂は、赤子ほどの体長を持っていた。
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魔力を纏った刃が、直径二メートルはありそうなGの頭部を刈る。
Gはしばらく触覚をうぞうぞと上下させていたが、やがて動かなくなった。
シルバはその死体を吸収する。
十一階層から続く密林エリアは、巨大昆虫が潜むエリアだった。
バッタやムカデ、蜘蛛などの蟲が、キチキチいいながら這い回るのは怖気が走るものである。
密林の中でもひときわ大きい樹の下にある階段を下りていくたびに、発生する蟲は巨大化している。
十三階層に下りた時点で、遂にその全長はサナのそれを超えた。
普通の乙女なら悲鳴を上げるような巨大Gを無感動に狩るサナのほうが、シルバにとっては恐ろしい。
だが同時に、少し悲しくもあった。
サナの義眼となってからもうすぐ二週間が経過するが、いまだに彼女は泣きも笑いもしないのだ。
そんなものはエネルギーの無駄だとばかりに無表情を貫いている。
もとが可愛いのだから、もっと笑えばいいのに、とシルバは思う。
Gが守っていた階段から、サナは九階層に下りていく。
十四階層の蟲は、トラックのように大きかった。
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十四階層の階段前。
蟲の体液を全身に浴びながらたどり着いたサナは、休憩も挟まずにボス戦に突入しようとしていた。
蟲の魔力で強化された身体強化によって、既にサナの体は疲れ知らずなものとなっているため、休憩など必要ないのだ。
こつん、こつんと石造りの階段を下りていくと、重厚な鉄の扉が姿を現した。
五階層で見たものと全く同じそれは、来る者を拒絶するかのような威圧感を放っている。
サナはその扉を、思いきり殴りつけた。
床と平行に吹き飛んだ鉄塊が、奥にいたボス、大蜂の女王と衝突する。
従来の蜂と比べて若干大きい腹部が、ぐちゃりと潰れた。
激怒した女王が、無礼者に自らの子をけしかける。
人間を恐怖に陥れる羽音が、部屋いっぱいに響いた。
みれば、蜂達は奥にある巣から出てきているようだ。
大蜂がサナに群がる。
サナは針による刺突を回避し、一気に三匹ほど切り裂いた。
剣が届かない位置にいる個体は魔法で牽制する。
こちらに向かってくる蜂はとにかく大きい。刺されたら即死だろう。
だが、サナの身長ほどの大きさということは、一度に襲い掛かってくる数は限られている。
一匹一匹対処していけばいい。
虫の構造に詳しくないサナは、全生物共通の弱点、頭をピンポイントで突き刺し、切り裂き、叩き潰していく。そこには恐怖も悦楽も存在しない。まるでくるみ割り人形のように淡淡と頭を破壊するのだ。
斬っても刺しても、蜂は襲い掛かってくる。
ぶうううううううううん、という羽音がサナの鼓膜を揺らし、不快感を与えた。
斬る、斬る、斬る……。
不意に、絶えず送り込まれていた蜂が途絶える。
見渡すと、これまで攻撃していた大蜂はもう一匹も居らず、代わりに黒く、小さな蜂が十匹ほど、奥の巣から出てきた。
そのうちの一匹が先行して突撃してくる。
サナが放った突きを、蜂はサナの腕を中心としたバレルロールで回避した。
腕に沿うようにして接近した蜂を、サナは上体を傾けて回避する。
サナの目と鼻の先を通過した黒蜂が、大きく旋回した。
それを合図に、蜂が一斉にサナに群がる。
前後左右上下から迫る針を、最小限の動きで避ける。
反撃は回避され、また突撃してくる。
体表が堅いのか吸収は出来ず、魔眼が無力化された。
蜂の針が、ぼろぼろの服を切り裂いた。
このままでは敗北する。
そう直感したサナは、魔眼とは別に、腕に身体強化を施す。
刃の強化との同時使用は、サナの魔法技術、魔力量では負担が大きい。
意識を遠のかせながらも、サナは腕を振るう。
サナの腕が、ぶれて消えた。
黒蜂が次々と二つに分かれていく。
再び腕が視認出来るようになる頃には、黒蜂はすべて地に落ちていた。
全個体が頭部と胸部を切り離され、命令系統を失った体がヒクヒクと動いている。
腕の強化はやったことが無かったので、ぶっつけ本番だったのだが、どうやら成功したようだ。
魔力が枯渇し、より一層冷たくなった目で、サナは女王蜂と巣を見つめた。
足に魔力が集まっていく。
いつの間にか女王の後ろにいたサナが、巨大な頭部に短刀を突き刺した。
ギイッと、短い断末魔が上がる。
サナは引き抜いたその勢いのまま、魔力で長い刀身を作り、蜂の巣を細切れにした。
中の蜂は既に居らず、幼虫だけがぼとりと落ちる。
運よく細切れになるのを免れた小さな幼虫が、その蛆にも似た体を収縮させた。
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