第二十四話 レッツ無双
「では、我々はこれで! 護衛を強化いたしますので、安心してお寛ぎください!」
翌日。
結局侵入者は見つからず、目撃者であるラインへの事情聴取が終わると兵士は速やかに退室していった。
昨日ひょっこり戻ってきたアレックスが、ポチとおやつを賭けた死闘を繰り広げている。
ラインは嘆息した。
彼以外にいないという理由でシルバに容疑がかかってしまった。助けてもらったと言うのに。
今度会った時に誤らないといけない。
ラインの思考を遮るように、ドアがノックされる。
「はい?」
「失礼します」
「大臣か。僕に何の用?」
「少しご協力をしていただきたく思いまして」
ラインが大臣の方を向くと、彼女が木でできた小さな檻を持っているのがわかる。
檻の中には黒っぽい、コウモリを連想させる何かが入っており、怯えた様子で震えていた。
「なるほど。テイムを広める準備はできたんだね?」
「ええ。後は殿下に実践していただくだけです」
エルフを率いるにあたって、ラインは特に何もする必要はない。旗印になって戦場に出るだけで十分なのだそうだ。
しかし、別に何もしてはいけないと言うわけではなく、指令を下す事もできる。
ラインが下した指令は一つ。「テイムを広めよ」だ。
大臣に渡したテイムの術式に関する資料を基に、研究者たちにテイム使用者の量産方法を確立させた。
後は光魔法の記録でテイムの場面を録画し、その映像でモンスターマスター志願者を募ると言う寸法だ。
「では。……レコード!」
大臣の突き出した手に光が集まり、目のようなものを象る。正常に作動したようだ。
大臣がその手をラインに向けたのを合図に、テイムを発動する。
コウモリを囲うように魔方陣が展開した。
ラインにとってこれが初のテイムだったりするのだが、難なく成功し、一匹の従順な魔物が生まれる。
「はい、結構です。ありがとうございます」
レコードを解除した大臣が、コウモリをおいてさっさと出て行った。
ラインは少し考えるようなそぶりを見せると、言った。
「よし、君の名前はエンターだ」
ミルなど気にも留めずに争っていたシルバとポチは、結局おやつを仲良く分ける事にした。
『なぜ初めからこうしなかったのだろうな』
『知らねえよ。自分の欲望に聞いてくれ』
『仲がよろしいですね~』
ホットケーキをむしゃむしゃと咀嚼しながら聞いてくるポチに、シルバは適当な返事を返す。テラリアは食事を必要としないため、この醜い争いには加わっていない。
スライムでも味覚はある。
ON・OFFが切り替えられる便利仕様なそれに感謝してしまうほど、ホットケーキは美味しかった。
「よし、君の名前はエンターだ」
ホットケーキを堪能していたシルバの耳?に、ラインの声が入ってきた。
ラインのほうに意識を傾けるとコウモリのような何かがいる。
『……ポチ、あれ』
『何だ? ……!』
コウモリとはかすかにつながりを感じる。ラインの新しい従魔だろう。
こういう時どうすればいいのか。
先輩としての威厳を見せつけるのか、フレンドリーに接するか。
『お~い、新入り! 私はポチだ。よろしくな』
『ひっ……』
いきなり突貫した馬鹿がいる。
シルバは少し様子を見ることにした。
『お前はなんという種族なんだ?』
『は、はい……僕はヴァンパイアバットです』
従魔同士は経路が通っているため、テレパシーや念話無しでも会話する事ができる。
『あっちにいるのが相棒のシルバだ。変な奴だがよろしくしてやってくれ』
『ポチ君。後で少しお話があるんだが』
『シルバさん、ポチさんは本当のことを言っているだけですよ』
『黙れテラリア。話に入ってくるな』
『まあまあ。エンターさんには私の姿が見えていませんから、今のあなたは宙に向かって話しかけるまさしく変な奴ですよ』
テラリアに指摘され、バッとエンターのほうを振り返る。
『わかったか新入り。シルバはあのように奇行を繰り返す変な奴なのだ』
『は、はい……。わかりました』
『ポチィィィィィ!!』
叫んだところでもう遅い。シルバのイメージは変な奴で定着してしまった。
『ところでエンター。ヴァンパイアバットとはどのような種族なのだ?』
『……簡単に言うと、吸血鬼のコウモリ版です。…………ヴァンパイアほどではないんですけど、昼は弱体化するんです』
かなり間をおいて話すため、どうにも説明が要領を得ない。
そこで、シルバは解析を使うことにした。
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エンター 二十八才
種族 ヴァンパイアバット
魔力 287
アビリティ
繰血
祝福(夜)
進化
称号
レアモンスター
夜の民
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結局よくわからない。解析はあくまでデータベースにアクセスして情報を引き出し、該当するものがなければ登録するという魔法なので、使い手が知らない事を何でも教えてくれるわけではない。使用者でもないのにアビリティの詳細を知る事は不可能なのだ。
「うん、うん。仲良くやっているようで何よりだよ」
ラインが声をかけてくる。
「エンターの役目はもう決まってるんだ。偵察と補助をしてもらうよ。空を飛べるのを活かして欲しい」
『ほっ。戦うんじゃないのか。よかったぁ~』
偵察は撃ち落とされるかもしれないし、補助は攻撃優先度としてはかなり高い。
それを分かって言っているのだろうか。
「さて、もうやることもなくなったし、訓練でもしようか」
ラインがそういった時だった。
「こ、国王陛下! ステビアの森から十キロの地点に、ロナルド帝国と思われる大軍が確認されました! 至急会議室にお越しください!」
「な!? ……わかった。すぐに行く」
帝国は唐突にやってきた。
「よく集まってくれたね」
ラインが声をかけた先には、エルフの国の重鎮たちがいた。少し顔あわせを行った程度の面子だが、ミルの話によれば腕は確からしい。彼らと緊張することなく話せているのは、ラインの英雄の素質ゆえだろう。
しかし、少ない。
十ある席の内、埋まっているのは五席。残り五席は戦死したエルフの席だ。
これでもエルフの国がまわっているのは残りの五名が優秀と言う事と、戦死者の続出により全体的な規模が小さくなり、国を維持しやすくなったからだろう。
「参謀、作戦の説明を」
ラインの言葉に敬礼で答えたのは、見た目は二十歳ほどの男だった。
「ではまず……」
戦争が、始まる。
ロナルド帝国軍の前方。シルバは人間の姿で一人、その大軍勢を眺めていた。今頃ライン達は出撃の準備やら寡兵やらで大忙しだろう。
『本当に良かったんですか?』
「ああ。両軍に大勢の死者が出るより、ロナルド軍が壊滅したほうがいいだろ?」
その建前は誰に対するものなのか。
引き止めてきそうなテラリアを納得させるためのものか、自分自身に向けたものか。
言った本人にすらよくわからない。
『手伝うくらいなら文句はないですよね』
「むしろこっちからお願いしたいくらいだ。掃除は大人数でするに限る」
軽口を叩きながら、その足は確実に軍勢のほうへ進んでゆく。
「前方に人影あり!」
「速やかに排除せよ」
声が聞こえるほどの距離に近づいた。いや、帝国兵たちが近づいてきたのだ。信じられないほどのスピードで。
帝国兵達はシルバの知識にはない鉄の馬に乗っており、ブオオオオオン、と独特の鳴き声を上げている。
新種だろうか。馬には頭がない上に、脚の変わりに車輪がついている。
シルバは狙いやすいように、狙われやすいように身体強化で真上に飛び上がる。
「死ね」
短く、低い声を合図に、上空から無数の魔力弾が発射された。




