第二十三話 忍者
小説タイトルを変更しました。
ちょっと付け足した程度です。
「何だお前は? 見張りはどうした……?」
「さあな。仲良くお昼寝でもしてるんじゃねえか?」
エルフ王城の一室。招かれざる客に、シルバは魔力弾を放った。
「おっと」
「なに!?」
最低でも骨の一本は持っていく威力の魔力弾を、黒服はまるでうっとおしい蝿を追い払うかのように、凪いだ。
二つに切り分けられた衝撃波が、壁を崩壊させる。
ありえない。
身体強化でもしていない限り、黒服の体格であのような事は不可能だ。魔力の反応もない。
黒服は手を奇妙な形にして組むと、バックステップで距離をとる。
「邪魔するってことでいいんだな……? ……分身の術!」
手を組んだまま叫んだ黒服……いや、ニンジャは、左右に走り出した。
「増えた!?」
ラインの驚愕はもっともだが、シルバはさほど驚いてはいなかった。
むしろ、感動していたと言ったほうが正しい。
すげえ。ニンジャだ。本物だ。
彼の脳内ではこの三つがアテンションマーク(!)と音符(♪)を交えながら繰り返されている事だろう。
ぴったりとシンクロした左右同時の剣戟を流動化で受け流そうとして、あわてて回避に切り替える。
人目のあるところで人外アビリティの発動は避けたい。
時間差で放ってきた蹴りを簡易結界で防ぐ。
簡易結界はラインの周りにも張っているため、張れる結界はどうしても小さくなってしまう。ちょうどA4くらいの大きさだろうか。打撃ならばピンポイントで防ぐ事ができるが、広範囲攻撃となると防ぐ術がない。
ニンジャsは手を先程とはまた別の形に組み、先程と同じように叫んだ。
「「火遁の術!」」
叫んだその口から、火炎放射が放たれた。
「嘘だろ!?」
魔法のように魔力で保護されたわけでもないのに、熱くないのだろうか。
いや、そのような些事より、眼前に迫った炎の渦をどうにかするほうが先だ。
妖術の方の結界で防ぐ。ラインは簡易結界の中にいるので心配は無い。
シルバの戦い方は、いかに相手を近づかせないかというものだ。今までは強大な魔力に飽かせた結界と、どのような相手でも消滅させる範囲攻撃魔法によってそれは達成されてきたが、それは近接戦闘技術の必要性を奪うと言う事でもある。身体強化を使わない素の戦闘能力において、シルバほど脆く弱い人物は存在しない。
そして、シルバから魔力が失われてしまった今、近接戦闘に持ち込まれた時点でシルバの負けは確定する。
ならば、殴り合いに発展する前に決着をつけねばならない。
結界を広げ、いまだ炎を吐き続けていると思われるニンジャを囲う檻を形作る。
後はその檻をゆっくりと狭めてやればいい。
数分後。
炎を吐くのをやめたニンジャが、結界の檻の中で胡坐をかいていた。分身の術の効力は一分ほどだったらしく、檻の中にいるのは一人である。
「じゃあ、色々吐いてもらおうか。まずは名前から」
シルバはどこぞの刑事のような事を口走りつつ、指鉄砲の形にした手を突きつけた。指の先には魔力が籠もっており、いつでも魔力弾が発射できるようになっている。
「……お前に話す事などない」
「強気だな。いいさ。勝手に見る」
シルバは解析を発動する。
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ケンジ・ミナヤマ 十六才
種族 人間
魔力 0
アビリティ
SS
称号
異世界人
転生者
暗殺者
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SS……? いや、そんな事より。
「お前……転生者か!?」
ニンジャ改めケンジの目が、驚愕で見開かれる。
「どうやって……?」
「俺はシルバ。お前と同じ転生者だ異世界人。悪いけど死んでもらうぜ」
異世界人は殺す。神も言っていたし、自分の世界を踏み荒らされるのは気分の良いものではない。
「ほう……。お前は肯定派なのか。それならその能力の多さも頷ける」
「は? なんだって?」
「だがお前は一つ勘違いをしている! 俺が本物だと誰が言った?」
にやりと歪んだ顔で、口布に皺を寄せる。
「じゃあなシルバ! その名前、しかと覚えたぞ!」
直後。
一瞬の閃光を放ち、ケンジは失せた。おそらく、初めから分身だったのだろう。
千里眼で覗いても、建物内にいたニンジャ達は霞のように消え失せている。
終わったのだ。
「~~! ~~~~~~~?」
完全に忘れていたが、安全のために簡易結界の中に閉じ込めておいたラインを開放する。
ラインは先程まで結界の壁を叩いていた手が空振りし、わたたっとシルバのほうへもたれかかってきた。
「あの! ありがとう!」
「どう致しまして。じゃあ、俺は行く」
そっけなく返したシルバは、そのまま出て行こうとする。いい加減スライムに戻らないと不自然に思われるし、兵士が現在進行形で現場に急行中だ。
「待って!」
だが、それは後ろから伸びてきた手によって阻止された。
「名前だけでも……聞かせてくれないかい?」
「……」
言うまで放してはくれないだろう。
「……シルバだ」
「シルバ。また、会えるよね……?」
毎日会ってる。
「知らん」
一刻も早くこの場から立ち去りたいシルバは、最低限のやり取りで会話を終わらせようとする。
RPGのストーリー部分をAボタン連打ですっ飛ばしているようなイメージだ。
「言って! また会えるって!」
……はい/いいえの選択肢に捉まってしまったようである。
「わかったわかった! また会えるよ」
そういうなり、脱兎の如く駆け出していくシルバ。警備兵が目前に迫っている。
「な!? 貴様、何者だ!?」
「侵入者がいたぞ! ひっ捕らえろ!」
「国王陛下を暗殺しようなどと! 万死に値する……!」
「曲者だ! であえ! であええぇい!」
背後から色々と聞こえるが、突っ切って進む。撒けさえすればこちらのものだ。
『あれが本当の姿なんですね』
『おわあああああ!?』
擬態を解き、何気ない顔? で寝室に戻ろうとしたシルバに、誰かが声をかけた。
『何だ、テラリアか。脅かすなよ』
『ふふ。すいません』
声をかけたのがテラリアと知ると、シルバはとたんに警戒を解く。
『見ちゃいました。シルバさんの貴重な変身シーン』
『いつから気付いてたんだ?』
『シルバさんが部屋に入ってきたところからですね』
『最初からか……』
『仲良くお昼寝でもしてるんじゃないか(キラッ) ……クスッ』
『うっ!?』
指をいわゆるBANGの形にした手を顎に当て、決めポーズをとるテラリア。
楽しそうな彼女とは対照的に、シルバは心の深い部分を抉られたような顔をしている。
『今深夜ですよ。なのにお昼寝って……。クスクス』
『やめてくれええぇ』
『……かっこよかったですよ』
皮肉が身に染みる。
寝室。ラインはベッドに仰向けに寝転がり、天井を見つめる。
「シルバ、かあ……」
「かっこよかったな。お伽噺のヒーローみたいだ」
本人が聞けば、羞恥で悶絶することだろう。
ライン君、何なの!? お前がヒロインなの?
※二章のヒロインはテラリアです。




