第十八話 契約
一話一話が非常に短かったため、まとめました。ややこしくなったことをお詫び申しあげます。
『契約?』
ついオウム返しをしてしまったシルバに、テラリアは微笑みで返す。
『はい。精霊契約です』
『精霊契約って、エルフとかがするあれ?』
『あれです』
精霊と契約を結ぶ事により、精霊に共闘してもらえるようになる。それが精霊契約である。これがあるゆえにエルフは魔法に秀でる。ただ、本人達はその事を理解しておらず、精霊が一方的に結んでいる形となっている(師匠談)。
『精霊契約しないとこの周辺から離れられないんですよね』
テラリアはその小さな羽を広げると、ふわふわと空中で飛び回ってみせる。パタパタと華麗に飛び回る姿は、やはり愛らしかった。
シルバは少しの間考える。
もともと精霊契約なんてものはただの娯楽のようなものである。ちょっと旅行に行くくらいの感覚で結ぶものなのだ。
しかし、契約の拘束力は以上に強い。魂レベルで結びつき、どちらかの魂が死に、漂白されるまで効力を発揮し続けるだろう。
つまり、転生能力を持つシルバの魂が消えることは無く、精霊であるテラリアの魂もまた消えることは無い。何らかの方法で解約しない限り、永遠に契約が解かれる事は無いのだ。
『契約の内容を教えてもらっていいか?』
『もちろんです。契約の内容は二つ。
・精霊は契約者に最大限のサポートをすること
・契約者は精霊に魔力を供給し、同行させること
で、二つ目によって精霊の行動範囲制限が解除されるわけです。本当はもっと細かいんですけど、これで大体あってます』
テラリアの返答を聞いたシルバはさらに思い悩む。常に共にいるということは、喧嘩しても顔を合わせ続けなくてはならないと言う事だ。
『そんなに悩まなくてもいいんですよ。契約の結果何が起こっても文句は言いませんし、許可がなければ何もできませんから』
『それじゃあ、契約しようかな』
シルバがそう返した瞬間、テイムと似たような経路が二人の間に通ったのを感じる。
しかしその結びつきは強く、テイムとは比べ物にならない。
胸の中が満たされていく。温かい何かが流れ込んでくる。
シルバの意識はそこで途絶えた。
魔物は眠らない。気絶の惰性で眠る事も無いため、割と早く目を覚ます。シルバも例外ではなかった。
あたりを見渡すと、夕焼けに染まった調度品が目に付いた。床をくりぬいて作られた窓からは橙色に染まった森林が一望できる。丸一日気絶していた可能性を除くと、余り時間はたっていないらしい。
ゼリー状の体を巧みに動かし、シルバの体をベッド代わりにしているテラリアを起こさないよう、慎重に移動する。時折チャートの部屋からウヒョ、ウヒョヒョなんて声が聞こえてくるので、ラインはまだ帰ってきていないようだ。
テーブルや椅子の足をくぐりぬけ、床に落ちている本を乗り越えて、ドアの前にたどり着く。
ドアの下部分にはペット用のドアが設置されており、シルバでも自由に出入りする事が可能だ。
ペット用ドアがテラリアに当たらないよう気をつけて潜り抜ける。
小屋を出たシルバはそろそろと世界中の根元に下りる。そこは恐ろしいほど静かだった。
一拍置くと、手近な茂みに向かって魔力弾を放った。茂みが揺らされる音の他に、くぐもり声と肉が潰れる音、そしてドサリ、と何かが倒れる音がして、再び辺りを静寂が支配する。
「くそっ。あのスライム気づいてやがるぞ」
そういって出てきたのは鎧と剣で武装した集団だった。先ほど窓から見えた人数とも一致しているので、伏兵の心配は殆ど無いだろう。剣の鞘に刻まれている紋章は、円と各頂点が触れ合う五芒星というものだ。
「仕方ない。……用意!!」
そのうちの一人が手を上げると同時に、武装集団はいっせいに見覚えのある筒を構える。シルバはそれを今朝見たことがあった。魔導砲銃である。
「撃てえええぇぇぇぇェェェェ!!」
勢いよく振り下ろされた手に引っ張られるように、無数の弾がシルバに殺到する。が、それらはすべてシルバに届く前に霧散してしまった。進化の恩恵によって基本的な能力が大きく向上している今、高速で飛来する魔力弾を同じ魔力弾で叩き落すのは簡単だ。もちろんテラリアは気づかずにぐうすか寝ている。
「ちっ。まあいい。全員抜刀!!」
シルバは上位の魔物、スピリットスライムである。それは七色に輝く見た目からしても明らかだ。
ゆえに魔導砲銃が通じないことは予想できていたのか、大して動じる事も無く次の攻撃に移る。
鞘から抜かれた剣は全て魔力を纏っていた。おそらく魔剣だ。たとえシルバが流動化してもダメージを負わせることができるだろう。牽制に魔力弾を撃ったが魔剣によって斬られ、光と共に消え去ってしまった。
いい加減テラリアに起きてもらわなくてはならない。
眠りが浅いほうなのか、テラリアが寝ている部分を大きくブルンブルンと揺らしてやると、そのまま飛び起き、誰にでもなく敬礼した。
『な、なんですかシルバさん! 地震? 地震ですか!?』
『? 違う、敵だ。お願いできるか?』
するとテラリアはパッと飛び上がって、
『お安い御用です!』
テラリアは両手を胸の前で向かい合わせ、魔力を込める。
風魔法によって象られた、細く、鋭い真空の刃が小さな手からいくつも伸び、肉を裂き、穿ち、断つ。
魔剣で切り裂く暇も無くひき肉にされ、絶命していく。
忘れてはいけないのは攻撃手段が真空の刃であるという事だ。人体を破壊し役目を終えた刃は、真空であった場所に別のものをねじ込もうとする。その力は強烈な吸引力となり、破壊されたばかりの傷口をさらに抉った。
舞う血肉。響く断末魔。
予想通りの戦闘能力とはいえ、なかなかにえげつない。
だが頼んだのはシルバだ。黙って見ていよう。
テラリアは黙々と、淡々と、まるで作業のようにハンバーグを量産していく。
最後の一人の頭を爆散させたところで、テラリアはこちらへ戻ってきた。
『終わりましたよ』
『あ、ああ。ありがとう』
テラリアはシルバのねぎらいに、かわいらしい笑顔で応えた。
操作によって一時的にいくつかの死体をのっとり、情報を抜き取ったシルバは、得られた情報を整理していた。
シルバが全滅させたと思っていた隊には生き残りがいて、そいつが本体に情報を伝えたらしい。
その結果、精霊殊を入手できなかった事が判明。精霊殊奪還作戦を立案し、精鋭を派遣して今に至る。
もともと自分たちの持ち物でもないのに奪還などおこがましいと思うのだが、よくよく考えてみればシルバの物でもないのに食べてしまったのを思い出して、考えない事にした。
『どうするんですか?』
テラリアが聞いてくる。
『そうだな。帝国がここを警戒していると知れたら旅ができなくなるかもしれないし、証拠はきれいさっぱり消しておこう』
数分後、そこにはきれいな、きれいな大地が広がっているばかりだった。
一ヵ月後、ライン達は旅に出る。
記録のために現在の評価を残しておきましょう。ここなら無くさないし周囲にもばれない。
評価……42
ブクマ……21
評価者数……0
……しょぼいと言わないで。




