第十二話 進化というロマン
合体を繰り返したシルバは、かなりの巨体になっていた。
ステータスはこれである。
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シルバ 零才
種族 スライム(進化可能)
魔力 531
妖気 12
アビリティ
転生(転生数2)
魔法
妖術
分裂
合体
進化
称号
転生者
草原の主
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全体的に成長した。魔力も妖気も上昇しているし、進化ができようになっている。
シルバは、さっそく進化してみることにした。
脳?内で進化進化と念じていると、体が熱くなってくる。スライムになってから視界が全方位に広がり、自分自身も見えるようになったため、半透明の体が輝いている様がよく見える。
光が一段と強くなり、一瞬だけ体が見えなくなる。
次の瞬間には、シルバの体は別の物へと作り替わっていた。
と言っても、一メートルほどあった体長は元の三十センチに縮み、形状は変わらず、色もついていないままだ。
ステータスを確認する。
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シルバ 零才
種族 リキッドスライム
魔力 31
妖気 12
アビリティ
転生(転生数2)
魔法
妖術
分裂
合体
進化
流動
称号
転生者
草原の主
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魔力を消費している。進化に必要なもののようだ。
流動の使い方はシルバの頭?の中に入っている。
感覚としてはカレーと聞いて香辛料を思い出すようなものに近い。連想というやつだ。
流動という単語そのものがきっかけとなっていたようである。
試してみると、体がどろりと溶けた。
その状態でも行動可能なようで、うねうねと脈打って見せたり、這いずり回ったりする。
ふと思いついて、流動性のある体をこねまわし、地面に広げていく。
すると、流麗な狐の絵が完成した。元の体とは変形の自由度が違うらしい。
シルバはそれを踏まえて、今度は体を持ち上げ、人型になろうとする。
体を自在に変形させられるなら、変化と似たようなことも可能になるのではと思ったのだ。
結果は失敗だった。結合の弱い体はどう頑張っても山のような形にしかならず、立体的な形を保つことができない。
「ピィィ……」
シルバは残念だった。
流動体のまま戦うことができれば、物理攻撃無効のかなり強力な戦法になると思っていたのだが、その目論見は外れてしまった。しかし、この鳴き声はいったいどこから出ているのだろうか。スライムに声帯などあるはずもないし。
地道に鍛えていこう。
そうシルバは考え直し、次の獲物を探した。
スライムたちと片っ端から合体し、進化前の魔力を取り戻したシルバは、前方に森を発見した。
背の高い木々がうっそうと生い茂っており、まだ昼過ぎだというのに森の中は薄暗い。
時折ギイギイという何かの鳴き声が聞こえ、大変不気味である。
まあ、シルバにはそんなもの関係ないのだが。
流動というアビリティを手に入れたシルバはどんな悪路でも進んでいけるし、モンスターは夜目が聞く。
鳴き声はスライム並みに雑魚のゴブリンのものだし、入るのを嫌がる理由がない。
ずんずんと奥地へ進んでいくと、木の棒を持った緑色の人型生物が現れた。俗に言うゴブリンである。
シルバはフン、と無い鼻を鳴らし、植物魔法の術式を脳?内で展開する。森の中であるなら、植物魔法が最も燃費がよく、強力だ。
しかし、いざ発動しようとしても、足元の草たちはピクリとも動かない。術式が作動しないのだ。
ならば火魔法――は危ないので土魔法を発動する。が、やはり発動しない。
水魔法も、風魔法も、光魔法も、闇魔法も、先ほど思いとどまった火魔法も発動する事はない。
ゴブリンが放った棒による打撃を飛び跳ねてかわし、一メートルほど後方に着地する。
魔法そのものが使えなくなったわけではない。おそらく、魔物には術式を使用することができないのだろう。現に、術式を必要としない無属性魔法だけは簡単に発動できる。
魔力弾で脳天を貫く事で仕留めたゴブリンを丸呑みにしながら、シルバは今後の課題について考える。
シルバが得意としている魔法が殆ど仕えない以上、戦闘は無属性魔法か妖術、またはスライムのアビリティに頼る事になる。呪術が仕えない今、妖術の攻撃手段は無いに等しいし、無属性魔法は消耗が激しい。必然的にスライムのアビリティが主軸になってくるだろう。
そこまで考えたところで、血の匂いをかぎつけたのか、第二、第三のゴブリンが現れる。
食事が来た。
次々と手に入る昼ごはんにホクホクしていると、シルバは自分が妙に開けた場所にいることに気づいた。
その中央には巨大な、巨大な樹が鎮座しており、シルバを見下ろしている。
妙だ。シルバが森に入るときはこんな巨大な樹はなかったし、パッと見の森の面積よりこの広場のほうが広く感じる。
シルバがあたりを注意深く見渡すと、木の根元、はみ出した根っこに一人の老人が腰かけていた。
老人は既にシルバに気づいているようで、プルプルとしたスライムボディーをまっすぐに見つめている。
近づくか黙って立ち去るか迷っていると、老人のほうから近づいてきた。
転移の魔法で移動したのだ。
それを見てシルバの警戒心が一気に高まる。
通常、転移は並大抵の魔法使いに使えるものではない。一流の賢者が何年も修行してやっと長時間の詠唱付きで使えるようになるほどの高難度の魔法だ。
それを目の前にいる老人はいともたやすく発動して見せた。それは老人が凄腕の魔法使いであるということを示している。
老人がシルバに向かって手を伸ばす。
やられる……!
そうシルバが覚悟した時だった。
「お~よちよちスライムちゃ~ん。怖くないでちゅよ~」
それが老人の口から発せられた言葉だと気づくのに、数秒を要した。
今度こそ明日から一日一話となります。




