第十一話 異世界人を
第二章、はっじっまっるよ~♪(どうした)
シルバが目を覚ますと、そこは見慣れない場所だった。宙に見えない足場があるかのように、シルバは何もないところを踏みしめている。
状況を確認するため、シルバはあたりを見渡した。
上は黒。ただし、ただの黒ではなく、一面に大小さまざまな白い点がちりばめられている。
下は青。ただし、ただの青ではなく、緑の模様が入っている。青色との比は、七:三といったところだろうか。おまけに、ところどころに白い渦模様が入っている。端の方が丸くなっているので、きっと円か球のどちらかだろう。
「綺麗じゃろう。儂はレプリカを作るのが趣味でな。これはその中でも最高傑作じゃ」
振り向くと、いつぞやの神が立っていた。
レプリカと言う事は、どこかに本物が存在しているのだろうか。
「まずは第二の人生、楽しんでくれたかの?」
「何が『楽しんで』だ。十五才で死んだじゃねえか」
「仕方なかろう。儂に転生先を操作することはできんのじゃからな」
神はそう言って首を竦めた。
「あのメチャクチャ強い人間は何だ? あんなものは俺が転生するまでいなかったはずだ」
「勇者じゃよ。お前と同じ、な」
「馬鹿な! あれは人間にできるような技じゃない!」
食い気味に言ったシルバを、神がまあまあとたしなめる。
「お前が言うか。……まあいい。あれは異世界の勇者。お前の世界への侵入者じゃ」
神はそういって下を指差す。丸い世界が広がっていた。
「ここから異世界人が召還されているのじゃよ」
「何でそんな――」
「質問はここまでじゃ。できれば殺しておいて欲しいがの。第三の生、楽しんできなさい」
次の瞬間、その空間にシルバは存在していなかった。
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シルバの意識が、ゆっくりと覚醒していく。
心地よい風が、シルバの体表をプルプルと震わせる。
透き通った半透明の体を、もぞもぞと動かす。
ふいに、強風が吹いた。シルバの軽い体は簡単に吹き飛ばされ、丸い形状ゆえにころころと柔らかい草の上を転がる。
シルバはスライムになっていた。
モンスターに転生。
シルバはこの可能性を考えていなかったわけではないのだが、さすがに最弱の部類に転生するとは思っていなかった。
スライムは魔力が集まって生まれるモンスターで、体長は約三十センチ。半透明の組織液は薄い膜に覆われており、それが破れただけで死んでしまう。
よくある「食べた相手の力を自分の物にできる」能力もなく、本当にただの雑魚モンスターだ。
おまけに、モンスターにとっては極上の餌ときた。
生まれちゃったものはしょうがない。
シルバはそう結論付けて、行動を開始する。
周辺は見渡す限りの平原。もともといないのかはわからないが人影は見えず、かわりにシルバと同じような無色のスライムが徘徊している。
魔力から生まれたというだけあって最初から魔力を持っているらしく、解析が使える。
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シルバ 零才
種族 スライム
魔力 78
妖気 1
アビリティ
転生(転生数2)
魔法
妖術
分裂
合体
進化
称号
転生者
草原のスライム
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分裂、合体はすべてのスライムが持っている能力。
進化に至っては全魔物に確認されている。
シルバは普通のスライムだった。
アビリティは受け継がれているが、魔力、妖気は受け継がれていないし、なぜか呪術が使えなくなっている。
相手の防御力関係なく使える呪術はいわば切り札だったのだが、それを使えないとなるとかなり厳しい。
第一、妖気が低いので現時点だと狐火すら使えない。
とりあえず、シルバは自らの強化に努めることにした。
瞑想の要領で妖気を鍛えながら、ピョンピョン飛び跳ねて一番近くにいるスライムへ近づいていく。
「ピィィィィィ?」
「ピィ」
もさもさと草をむさぼっていたスライムに呼びかけると、そのスライムは誘いに応じた。
シルバはスライムに覆いかぶさる。
数秒後には、シルバの魔力が二倍に膨れ上がっていた。
魔力が上乗せされ、記憶も引き継がれる。それが合体の力だ。
これを繰り返せば、捕食されないくらい強くなれるだろう。
シルバは妖気を鍛えながら、次のスライムへと近づいていく。




