蛮族と悪魔崇拝と俺の英雄譚
フレンドリーなマッチョメンズに彼らの村まで案内してもらえることになった。
俺の事は異世界転移なんて言っても信じてもらえないだろうし、両親が亡くなったので旅をしていると説明した。
彼らは森を巡回している村の戦士だそうだ。
十数年程前、この森の向こうに金色の体毛の人間、彼らの言うところの金毛族が住み着いて、ことあるごとに争っているらしい。
彼らが言うには転移したあの場所から少し歩けば森から抜けると金毛族の集落があり、何も知らないで近づいたら捕まって奴隷にされるか、もしくは殺されていただろうと忠告してくれた。
彼らは金毛族に蛮族と呼ばれているそうだ。
金毛族が女子供を攫って、嫌がる彼女らの体に無理やり皮を巻きつける所を見たことがあるとマッチョメンが悔しそうな顔で言った。
金毛族は体に皮を巻きつける習慣があるらしく、捕まえた女子供を自分達の所有物にしたという証なのだろうと説明してくれた。
それにしても皮を巻きつける習慣か。
俺の頭に「悪魔崇拝」と言う言葉が浮かんだ。
まさかと思い、その事を聞いてみると彼らは初耳だったようで、説明してやった。
彼らは夜な夜な山羊の頭を被り、捕まえた女性を生きたまま腹を割いてハラワタを取り出し、悪魔を召喚しているのかもしれない。
それを聞いた彼らは真っ赤になって怒り、今にでも金毛族の集落に飛んでいきそうになるのを抑えるのが大変だった。
金毛族のやったことは確かに非人道的で許されることではない。
だが、3人だけで闇雲に向かっても返り討ちにあうだけだろう。
そして報復で奴らが本格的に攻め込んできて、村のみんなはみんな生きたまま生皮を剥がされ愉快なオブジェに変えられてしまう、と説得する。
今は雌伏の時。
いつか奴らに復讐するために、今は生き恥を晒してでも牙を研ぐことが大事だ。
悪魔崇拝は適当に言ったのだが、よくよく考えてみればそれ以外の可能性は現実的じゃない。
俺があの幼女に異世界転移させられたのは悪魔崇拝の金毛族を打ち倒し、世界を救って美少女ハーレムを作るためなのだろう。
論理的に考えるとそれ以外にない、なろう的に考えて。
あの幼女め、ミスで死なせたとか言っていたが、きっと素直に世界を救ってくれなんて神のプライドが邪魔して言えなかったに違いない。
世界一優秀な俺が必要なくらいこの世界には崩壊の危機が迫っているのだな。
俺が彼らに悪魔崇拝の恐ろしさ、そして世界の危機について熱く語っている間にどうやら彼らの村に着いたようだ。
さて、此処から俺のなろう的サクセスハーレム英雄譚が始まるのだな。
俺の可愛い子猫ちゃん達、恥ずかしがらないで出ておいで。
人間は第一印象が大事だ。
此処は友好的な印象を与えるような満開の笑顔を浮かべつつ、なおかつ新しい指導者たる勇者としての力強さを感じさせる仁王像吽形のポーズをキメる。
これで村民の好感度は爆上げのはず。
今や天啓のごとく確信を得た俺は、改めて村を見渡す。
村は森の中の開けた場所にあり、村の中心を分かつ様に川が流れている。
川のそばに田んぼが広がっており、稲作をしているのだろうと知れた。
そして竪穴式住居が何棟か建っているのが分かる。
俺の爺さんが住んでいる茨城の笠間市の光景がこんなだったな。
笠間駅から出ると田んぼと森と山、その間に思い出したかの様にポツポツとある藁葺きの家。
こうして異世界転移してしまった身としては、もう見ることが叶わないと思っていた景色が広がている。
将来、俺がデイトレードで億万長者になって竪穴式住居から最新式の床下暖房の家にリフォームして爺さんをびっくりさせる予定は永遠に未定になってしまったけど、今度はこの村の美少女達を悪鬼羅刹から救って、地球人口を超えるぐらいの子孫を作ってこの世界のアダムとなるから、爺さんも空から見守っててくれよ。
俺が仁王像吽形のポーズをしつつ、空で微笑んでる爺さんに誓いを捧げている間に帰還した村の戦士マッチョメンズを迎えるために、村人達が集まってきた。
村人達は全裸だった。