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第八話 断じて職業ではない。

ステータス表示があるので縦に長いですが文字数自体はむしろ少なめです。

 着脱可能なら一旦眼球を取り外して丸洗いしたいくらい、というのが花粉症の誰かが目のかゆさがどれだけ辛いかを表現した時の言葉だ。最初に聞いた時には何故そんな猟奇的な例えになるのか不思議に思ったものだけど、今の俺なら患部を直接どうにかしたくなるその短絡的な考えも理解できそうだ。

 空腹による腹のダメージまで増幅するとは痛覚強化スキルはずいぶんと働き者だなデメリットしかないクソスキルのくせに……!

 思春期男子に丸一日以上も絶食させるとかもはや拷問だろう。吐く物なんて情報にしろ胃の中身にしろ何もありはしないのに何でこんな目に遭うのか。あ、神のせいか。俺にはできそうもないから誰か代わりにボコボコにしておいてくれないかな。

 ……うん、そろそろ空腹で死にそうだ。比喩でも餓死でもなく空腹によるダメージが増幅されてのショック死で。今なら空腹を紛らすために指の一本くらいなら噛み千切れそうだ。そのまま致命傷になるだろうけど。

 ……もう本格的に駄目らしい。幻覚が見えてきた。某名作ゲームに出てくるあれとは違う、琥珀色の半透明なゼリーというかグミというか、とにかくぷるぷるしていそうな何かが見える。人間の頭よりは大きそうなそれを食い尽くせれば、この空腹も収まるだろうか。そんな事を思うのに、本能的にあれが食べられないものだと分かる。幻覚だしな。仮に現実だとしたら聖女の結界の内側にこんな謎の何かが現れた事になる。怖すぎるわ。

 そんな事を考えている内に結界が消え、三人が入ってきた。

「ま、まさか死んじゃったりしていないよね反町くん?」

「食料を持ってきたんじゃよ~。アイテムボックス様様じゃね」

「すまん、俺は全部食ってきちまった」

 自称神はいらないけど女神はここにいたか。朋友は……うん。


 急に食べると腹が痛くなりそうだからゆっくりと、慎重に食べる。VITも一しかないからな。昨日実質ネタ帳と化している手帳にペンで現状に関する情報をメモしようとした時も、まさにDEXが一だと実感できるような自分で字と認識できない何かしか書けなかったし、どこにステータスの影響が出てくるか分からない。もしかしたら筋肉痛もVITのせいかもしれないし、免疫力が低下している危険性もある。

 どこまでもお約束やご都合主義に真っ向から逆らう不便な身体だ。

 俺の食事中に三人には自分のステータスをそのまま書き出してもらっている。仲間のステータスを知っていて損する事はないだろう。果たしてどんな非常識が飛び出すのか楽しみなような恐ろしいような。




     *   *   *




NAME:綾女 優奈

ROLE:聖女


STR:71616853

VIT:71864518

MAG:75168437

REG:78745248

AGI:72531487

DEX:72643598


SKILL:

・全神聖系統魔法【畢竟(ひっきょう)

・詠唱完全破棄

・クールタイム短縮90%

・リキャストタイム短縮90%

・状態異常無効化

・痛覚遮断

 etc




NAME:仲間 朋友

ROLE:射手


STR:16384

VIT:2048

MAG:1024

REG:1024

AGI:8192

DEX:32768


SKILL:


・弓術【中級】

・千里眼

・属性付与【風】

・属性付与【火】

・言語自動翻訳

・鑑定解析

・アイテムボックス

・オートコントロール




NAME:客本 花恋

ROLE:魔導書使い


STR:1122

VIT:1122

MAG:33445

RES:33445

AGI:1122

DEX:3344


SKILL:

・攻撃魔法【下級】スロットA

・攻撃魔法【下級】スロットB

・攻撃魔法【下級】スロットC

・補助魔法【下級】スロットA

・攻撃魔法【中級】スロットA

・攻撃魔法【上級】スロットA

・言語自動翻訳

・鑑定解析

・アイテムボックス

・オートコントロール




     *   *   *




 ……うん、言いたい事はいくらでもある。

 綾女のステータス値七〇〇〇万とか、畢竟なんて普通は目にする事もなく生涯を終えそうな単語が使われている事とか、朋友のステータス値が全部二のべき乗な事とか、チートなのに弓術スキルが中級な事とか、魔導書使いって何だよとかスロットって何だよとか、とにかく言いたい事も言える事もいくらでもある。

 でもその中で俺が何よりまず言いたい事は一つだ。


「朋友」

「どうした班長?」

「正座」

「……はい?」

「正座」

「いやどうしたんだよ?」

「正座」

「おいちょっと待t――」

「正座」

「……了解」


 よし正座したな。


「お前、職業って言っていたよな?」

「はい?」

「お前はこのステータス表示を見ておきながら“ROLE”を“職業”って言っていたかどうかを聞いているんだ」

「ああ、いやだって射手は職業だろ?」

「それでも演劇部かお前は」


 ゲームのジャンルとしてのRPGという言葉で知られている割にROLEの和訳を知らない奴は少なくないけど、それが裏方とは言え演劇部員かと思うと呆れたくもなるだろう。

 ROLE、その和訳は配役、あるいは役割だ。断じて職業ではない。


 さて、ここで少し考え方を変えてみよう。

 例えばステータスプレートの表記はこの世界の言語では職業を意味する単語なのに、翻訳スキルの性能の問題でエキサイトに役と訳されてしまった可能性はあるだろうか。

 可能性という意味では〇ではないだろうけど、わざわざ英語表記をしているくせに誤訳をしているとしたら、別の意味で神に対する不信感が加速する。中二病か自称神のくせに。

 ……いや、地球の神話にもそんな話はあるし、そこは置いておこう。

 要するに意図的にJOB(職業)ではなくROLE()としたのなら、そこにはどのような意図があるのか。問題はそこだ。

 魔王と勇者を配置して戦争(演目)を観賞したいだけか?

 それとも何か別のシナリオが用意されているのか?

 俺の悪い意味で異常なステータスの事もある。現状は誰かの意図した通りに進んでいるのか?


 何をどうすれば事態は好転するのか。


 何かをどうにかすれば事態は好転するのか。


 分からない。何一つとして。

 だけど言いたい事なら一つできた。

 相手が神だろうがそれ以上だろうがそれ以下だろうが関係ない。

 卒業した元三年の自称脚本家のせいで、酷すぎる脚本を足蹴にしての改変改善はお手の物だ。明らかに演劇部としてはおかしな慣れだけど、今は気にしないでおく。

 とにかく、だ。

 誰が整えた場だろうと関係ない。

 主演女優がいる。

 脚本家がいる。

 大道具・小道具の俺がいる。

 あと音響もいる。


 この演目、この舞台、県立雫浪高校演劇部が乗っ取らせてもらおうか!

天王寺は置いてきた。ハッキリ言ってこの演目にはついてこれそうもない。

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