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第五話 このまま最期になるかもしれない。

 俺は馬鹿だ。

 神に押し付けられた最低なステータス?

 それを理由に殺そうとしてくるこの世界の連中?

 ついでに俺を見下して日頃の嫉妬なんかを解消しにくるかもしれない一緒に召喚されたクラスメイト達?

 馬鹿馬鹿しい。そうして外敵を警戒するばかりで、内に存在する想定外の敵をみすみす見落としていたなんて。

 見落とした結果が地に伏した今の無様な姿だ。我ながらなんて情けない。

 後悔しても手遅れだ。俺に残されたのは、ただ運に頼る事だけだ。この拷問に等しい時間を耐え切り、ショック死する事なく明日を迎えられるか。いくら意志を強く持ったところで耐えられる保証はどこにもない。今の俺はそれほどまでに弱い。

 誰の助けも得られない。だから俺は耐え抜き、勝つしかない。


 この筋肉痛に。


 完全に油断していた。武術行動不可スキルに気を取られて、立っているだけで疲弊する貧弱ステータスで計三時間動いたらどうなるか、という事に対する警戒がまるでできていなかった。

 たかが筋肉痛と侮る事なかれ。俺の痛覚強化スキルと合わされば、それは鉄の処女(アイアン・メイデン)の抱擁に匹敵する殺傷能力の高い苦痛に昇華する。拷問どころか処刑にも届きうるのだ。

 更に俺は、そもそも筋肉痛に効果があるのか分からないけど、治癒無効化という聖女たる綾女の能力でも無効化しそうなスキルまで与えられている。つまり自然に痛みが引くまで耐えるしかない。

 そろそろ男だろうが泣いていいと思う。たぶん多々いる自称最弱なラノベ主人公達の中でも、筋肉痛で死の淵を彷徨ったキャラは一人もいないと思うし。

 あ、もう無理。

 このまま最期になるかもしれない。そう頭の片隅で感じていようとどうする事もできずに、何度目かも忘れた感覚のままに意識が闇に沈んでいく――




     *   *   *




 ――また夢を見ている。神主を主人公とした異世界物テンプレ展開の夢を。

 最初に朋友に気絶させられた時から何度も見ている夢。気絶するたびに見る夢は前の夢の続きというわけではなく、平行世界とか分岐シナリオとかそういうものを何種類も見せられている。

 今回の夢では神主は無能と馬鹿にされながらも追放される事なく、ハーレムメンバーに助けられ守られながら過ごしていた。ちなみにこの間「俺にも戦う力があれば……」と言いながらも大したトレーニングはしていない。せめて足手まといにならないようにと足さばきを始めとする回避動作の猛特訓をするでも、何かの役に立つかもしれないと知識を得ようとするでもなく、だ。実に神主らしいクソラブコメクソ主人公っぷりだ。

 そしてテンプレ通り全員でダンジョンに行き、クラスメイトの一人が転移トラップに引っかかり、テンプレから外れてご都合主義的に神主の助力もあって、という事になって勇者の天王寺が強敵を倒し、しかし話をテンプレに戻そうとしているかのようにトラップに引っかかった奴の悪意により神主が奈落の底へと消えていった。

 今回の夢では視点が神主を追って移る事はなく、ハーレムメンバーがそいつをチート能力全開で袋叩きにするという主人公には見せられない凄惨な光景が映されている。夢で女の恐ろしさとか見たくない。

 そして職業の隠された力を駆使するだけでなく、ステータス値そのものも勇者以上にまで引き上げられた神主がこの世界で攻略したらしい美女美少女達を引き連れて俺達の前に変わらぬ姿を見せたところで今回の夢は終わった。

 ……何か違和感がある。転移トラップのところで一度テンプレから外れて敵の怪物を倒しているからだろうか。それだけではない気もするけど。

 もう少しで何かが掴める気がするのに、俺の意識は――




     *   *   *




 ……知っている天井だ。特徴的な汚れ、ひび割れがあるからよく分かる。意外と判別できるものなのか天井って。

 まだまだ痛み続ける身体から気を逸らすように下らない事を考える。起き上がるどころか身じろぎ一つで気絶しかねない状況ではまともに考える事すらままならないから仕方ない、という事にしておこう。呼吸一つ、拍動一つ、瞬き一つでさえ痛みが伴うし。

 まともに何かを考える事もできないのに、何かを考えて気を紛らさないと痛みに意識が向いて精神が削られる。下らない事をぼんやりと考えながら時間を浪費するしかないのは性に合わないけど、他に何をできるでもないし、何かできると思いつけるわけでもない。


 ……そう言えば、あの夢は一体何なのか。

 この世界に召喚されて気絶するようになってから何度も見る夢。自分ではなく今はここにいないクラスメイトの神主を主人公とした何種類ものテンプレラノベ展開の夢。正直なところ、あの夢を見るだけでも精神的に疲れるからどうにかして欲しい。何が悲しくて俺が嫌いなクソテンプレチーレム展開の、それも他人が主人公として調子に乗っている様を見せられなければならないのか。

 俺の好みはさておき、あの夢だ。

 例えば俺に平行世界で起きた出来事を見る異能力があると妄想しても、常に今ここにいない神主が出てくる時点で情報としては微妙だ。転移トラップが仕掛けられていたあの場所の光景みたいに情報だけなら使えそうなものはあるけど、それに引っかかる奴らが俺の話を聞きそうにないから活かせそうにない。そもそも夢で見た情報なんて俺自身も信憑性がなさすぎて実際に事が起きてからでもないと信じられない。

 だからそんな妄想は大して問題ではない。

 気になるのは物語である事、つまりどういう過程を経ようとも、最後には正義とか無関係に主人公様が勝つご都合主義展開しかない事だ。夢なんて突拍子もない展開だらけなのに――いつだったか自分がやたらとコミカルに死ぬ夢を見た事もあるのに――今見せられている夢ではただの一度も神主が死亡、又は行方不明のまま終了という事がない。

 いや、クラスメイト相手だし別にどうにかなる姿を夢で見たいと思っているわけではないけど、人の夢の中でまで主人公補正を発揮されるのは単純にウザい。今の俺が精神的にささくれ立っている事も影響しているんだろう。

 俺は筋肉痛で死にかけている非常識な状態なのに、夢の中とは言えどうしてあいつは何が起きようと――


 ――あ、分かった。さっきの夢の違和感の正体。


 テンプレ展開なら奈落の底に消えたキャラは地下の裏ダンジョンで独り幾多の死線を乗り越えてきた事で性格が変わる。中には隻眼になったりと容姿から変わるキャラもいるけど、まず間違いなく変わるのが性格であり、それに伴う立ち振る舞いだ。俺だって色々と残念ではあるけど死の脅威に晒されているせいか、今まで通りではいられなくなる予感がし始めているくらいだ。

 なのにあの夢の最後に見た神主はあまり変わっていなかった。何も変わっていなかったわけではないけど、むしろ悪い事に今のクラスメイト達と同じような、何の努力もなしに手に入れた力に酔っているような感じだった。

 もしかしてあの奈落の底には何の努力も苦労もなくステータス値を上げられる何かがあるのか?

 ……仮にあったとしても俺には関係ないか。テンプレ展開に反して神が用意したボーナスステージがあるとしても、俺にはその神に押し付けられたステータス値固定スキルがあるらしい。つまり俺のスキルの効果が優先された場合、俺のステータス値はボーナスステージの効果を無力化して一のまま、というわけだ。

 それに結局のところ情報源は夢だ。信じられるものでも信じようと思えるものでもない。気にするだけ馬鹿らしい。


 ……ステータス値。思えばこいつも気味が悪い。

 朋友のうろ覚え情報によれば成長するものらしいけど、成長条件も不明なら数値の影響も判定の計算式も不明な現状ではどうにも信用できない。数字を信用と言うのも変な感じがするけど、どうにもこいつにも何か裏がありそうで気が抜けない。


 こんな状況で信頼できる部活仲間が三人もいる事は、もしかしたらステータスの悲惨さを補って余りあるほどの幸運なのかもしれないな。

 天王寺? あいつは駄目だ。

三ヶ日をゆったり過ごしている間にブックマークが付いていた。

そもそも読む人いるのかなー、くらいの気持ちで書き始めたのでありがたい事です。

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