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第一〇話 ある意味では勇者より数奇な運命の持ち主かもしれない。

 気を取り直して次にいこう。

「次は神や勇者に関しての情報だな」

「私だね……」

 妙に疲れているな。何かあったのか?

「……いや、日本人にはあの感覚は分からないよね……とりあえず、宗教関係者に神の事なんて聞くものじゃないよね……」

 察した。

「当時この世界を救っているはすなのに初代以外の勇者について聞いても創世記や初代勇者に関する神話ばっかり聞かされて大変だったよ。初代勇者が訪れた各所が観光名所化している話なんてされても自由行動できるわけじゃないからどうでもいいのに」

「……うん、軽い考えで頼んで悪かった」

「ま、そこは反町くんのせいじゃないから気にしないで」

 そんな力なく言われても。




     *   *   *




 創世記、七柱の神々が現れた。

 神々はここに幸福に満ちた世界を創る事にした。

 星を、命を、法則を、それぞれの神が一つずつ担当する事とし、この世界が創られ始めた。

 しかし完成を目前にしたところで一柱の神が突如として邪神に堕ちてしまい、本来この世界に存在してはならない魔の者が放たれた。

 邪神はすぐに残る六柱の神々により討ち滅ぼされたが、世界から魔の者を取り除くには手遅れで、幸福に満ちるはずだったこの世界に悲しみが、恐怖が、絶望が生まれてしまった。

 それだけに留まらず、討ち滅ぼされた邪神の邪気に触れて大いなる邪悪へと成長した魔の者がこの世界に現れた。

 この魔の者こそが初代魔王。

 魔王はその強大な力と邪気により魔の者達を従え、魔の者達は魔に属さぬあらゆる命を滅ぼさんと活気づいた。

 残る六柱の神々はこの事態に頭を抱えた。邪神を討った後、これ以上どの神もこの世界に直接的に関わる事ができないようにしていたからだ。

 しかしこのままでは世界は魔王に、魔の者に滅ぼされてしまう。

 神々は決断した。

 六柱の神々は僅かずつの干渉力を合わせて異なる世界から聖なる者をこの世界に喚ぶ禁術、召喚魔法を創り出す事に成功した。

 神々は残された力で召喚魔法を発動させ、その存在と引き換えに一人の聖なる者とその仲間達を召喚した。

 この聖なる者こそが初代勇者。

 勇者は聖女と仲間達と共に魔の者達と戦うだけでなく人の世の改革も行い、神々の想定を超えんばかりに多くの、大いなる成果を挙げた。

 そして勇者達はついに魔王が待ち受ける魔王城に向かい、三人の仲間を失うも見事に邪悪なる魔王を討ち滅ぼしてみせた。

 魔王討伐を成し遂げたものの致命傷を負っていた勇者と聖女は世界のためにその存在を捧げる決意をし、二人の最期の力を合わせる事で神の座に届く一つの存在へと昇華した。

 魔王こそ討たれたが魔の者が滅びたわけではなく、また邪神の邪気も消滅したわけではないため、今も世界には脅威が残された。

 しかし初代勇者と初代聖女の二人が一つとなり生まれた唯一神は、今もこの世界を見守り続けている。

 魔の者達を、魔王を、邪気を、邪神の残した全てを、選びし後世の勇者が消し去り世界が平和を取り戻す時まで。




     *   *   *




「と、万に届きかねないくらい長い年月も言われ続けています」

「長すぎないか?」

「ちなみに魔王誕生の周期は二、三〇〇年くらいです」

 三〇〇年で計算しても三〇回以上勇者召喚という名の拉致からの参戦強要が行われているわけだ。

「それで一度も魔族を滅ぼせていないのか? 例えば一度は滅ぼしたはずなのにどこからともなく復活した、というわけでもなく」

「その辺りは情報がないから何とも言えないかな。私としては逆に情報が存在しないって方向で優奈ちゃんにも協力してほしいんだけど、大丈夫?」

「問題ないんじゃよ」

 情報がない、つまり帰還者がいない可能性か。初代勇者も魔王と相打ちだったみたいだし、可能性はなくはないだろう。魔王討伐は魔族の様子から判断できるだろうし。

 ただ最低三〇回もの戦い全てが相打ちとなると可能性は低い。もしそうならそれは偶然でも何でもなく、神がそうなるように仕向けた茶番だ。


「初代勇者と聖女が一緒になって唯一神になった、ってのは?」

「創世記からこの世界では一億を超えるステータス値は神の領域と思われているみたい。魔王城に乗り込む前に確認された初代勇者のステータス値が六三〇〇万、初代聖女が四二〇〇万だから二人合わせないと一億を超えない。創作でいう『覚醒イベント』で勇者達が強くなる事例はいくらでもあるみたいだけど、一人一度だけみたいだし、ステータス値は必ず一律で一・五倍にしかならないみたいだから初代勇者でも単独で神になる事はできなかった、っていうのか定説みたい」

「召喚時点でその領域に到達している天王寺はいったい……?」

「だからこそ自分達の存続がかかっているのに訓練なしでも問題ない、なんて楽観的になっているんだろうね、この世界の人達は」

 ははは、笑えない。

 それにしても『覚醒イベント』か。四捨五入するなら俺のステータス値も一から二に上がれそうだけど、どうせステータス値完全固定スキルのせいで変わらないんだろうな。


「ところで、さっきの話だと少し曖昧だったんだけど、もしかして初代聖女はこの世界の人間なのか?」

「そうみたい。元はただの修道女だったのが神の一柱から神託を受けて初代勇者達を受け入れるために奔走したとか何とか。ステータス値も勇者達が召喚された時に急変したみたい」

「それはまた……大変だっただろうな」

 ステータス値が一〇〇〇の住人から万倍の領域に引き上げられたら普通は混乱、どころか錯乱してもおかしくないだろうに。ある意味では勇者より数奇な運命の持ち主かもしれない。

「ちなみに聖女のステータス値は初代もそれ以降も勇者の七割程度、低くても三分の二以下になる事はなかったらしいよ」

 綾女も七〇〇〇万だしそういうものなのか。なのか?


「あと不確かすぎる噂だけど、一応話しておくね」

 何その不安な前置き。

「創世記、つまり初代勇者以前の時代と以降の時代だと、ステータス値に文字通り桁違いの差があるらしいの」

「どういう事なんじゃよ?」

 ステータスについて調べていたお前は心当たりがあってくれよ。

「創世記ではこの世界でも一部の強い人はステータス値が一万に届いたとか、初代勇者達は低くても三〇〇〇万以上だったとか」

「確か最初に聞いた時はこの世界の奴らの最高が一〇〇〇を超えるか超えないか、って話だったっけか?」

「俺に聞くなよ。俺は聞いていないんだから」

 正確には声は聞こえていたけど何を言っているのかが分からなかった。

「そう。一般人は一桁下がっているし、勇者は成長しても万だから三桁も差があるの。それだけ弱くなっているのに人類が滅びていないのは――」

「人だけでなく魔の者達も弱体化しているからじゃろうか?」

「だと思っている人もいるみたい。簡単に信じられる話じゃないからあくまで一部の人達がその可能性もあると思っている程度の都市伝説みたいなものだけど」

 仮に事実だとすれば、そんな事ができるのは神くらいなものか。たった二日でこれだと最終的にどこまで不信感が募るのやら。

 信用? 信頼? そんなものは初めからない。

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