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鋼の龍と呼ばれた鍛冶師  作者: 茅月 焔
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1.再召喚、そして救助依頼

 話によるとこの龍は「鋼龍」と呼ばれる金属を操る力を持った数百年生きる龍であり、ある強力な召喚士によって召喚されようとしているらしい。

 しかし龍の身体そのものを顕現させるには力不足だったらしく、その力だけならばなんとかなるらしい。龍を召喚するって、なかなかすごそうな人だな。


「召喚士に呼び出され、尚且つその召喚士に資格があれば我々はそれに応えなければならぬ。これは神に定められたものでな、今回の場合魔力は足りんが資格はある。無碍にするわけには行かぬのだ。」

「……俺は元の世界には帰れるのか?」

「うむ。お主の世界の時の進み方はこちらの世界よりもはるかに遅い。こっちでどれだけ過ごそうが、戻っても一瞬のズレしか生じぬであろう。お主の身体は元の世界においてきてあるしな」

「そうなの!?」

「うむ、お主は今その身の内の存在だけでこの世界に居る」


 魂だけでふらふらしてる状態か。……俺今幽霊ってこと?


「こっちで死んだらどうなるんだ?」

「存在が消滅する。即ち元の世界でも死ぬし、そもそもお主の存在そのものがなかったことにされるであろうな。まぁそれは恐らくありえぬ事態だが」


 こわっ、命の危険はなるべく避けたいぞ。家族や友人、教え子たちに忘れられるのも辛いしな。


「話聞く感じ、野生の魔物とかに襲われたりするんじゃないのか?召喚士なんている世界なんだろう?」

「我の龍の力を宿すのだぞ。そう簡単には死なぬ」

「確かにな、なるほど」


 そうか、龍なんてそんなに簡単には死ななそうだ。こいつも数世紀を生きてきたわけだしな。

 しかしこれ、俺に何の得もない取引なんだよな。ファンタジー世界を経験できるなんて心躍るものはあるのだが、やはり何か腑に落ちない。


「……ちなみに、俺に何かメリットはあるのか?」

「あると言えばあるな」

「?」

「お主は日本刀とやらが好きであろう?覗いていた時によくお主が眺めていたが、我の力であれば思い通りの刀を作れるぞ。それも、お主の世界には無い強靭かつ特殊な金属でな。勿論刀以外も作れるが」


 そうか、鋼龍の力であればあらゆる金属を自在に操ることができる。それなら、武器と言わず車や機械なんかも作れそうだな……。いや、やっぱり刀が一番だな。

 ……好きな物が自由に作れて、魔法で満たされた世界。今、まさに、全日本男児が夢見ているチャンスが転がっている。これを掴まなきゃ、男がすたるってもんだ。


「………分かった。その話、受けよう。代わりに呼び出されてやる」

「そうか。礼を言う。一応お主が呼び出せばこの姿でならそちらに顕現もできるゆえ、いつでも行けるようにしておこう。お主を死なせては寝覚めが悪そうだ」

「本当に困ったら助けを呼ばせてもらうよ」


 いやはや、凄い事になってしまった。龍に呼び出されて異世界への代理人にされるとは。


「じゃあ早速だが、お主には召喚されてもらう。肉体は我の力で18歳くらいの青年に見える・・・・器を用意しておいた、お主にはそれを使ってもらう。元の身体と長さなどが違うかもしれぬがすぐ慣れる。ああ、感覚は一緒にしておいたぞ」

「え?」


 ちょ、急すぎやしないか!?心の準備とか、魔法の使い方教わるとか、なんかさ!いろいろあるもんじゃないの!?


「実は召喚されてから召喚士には待っていてもらっているのだ。と言ってもこの空間の時の進みはかなり加速されているが、それでも数時間は魔力を放出し続けておる。お主を探している間に魔力が切れるかと思ったのだが……間に合ったようだ」

「数時間も!?」

「凄まじい魔力量だ。我を召喚するにはちと足りなかったがな」


 おお……そんな人でも召喚できないって、実はこの龍凄い奴なんじゃないか?

 鋼龍に促され、足元に不思議な紋様の描かれたところへ連れて行かれた。これが魔法陣とか召喚陣とか呼ばれるやつか。今回は後者かな?

 魔法陣に乗る前に、一通り召喚の際の注意やこっちの世界について鋼龍から説明をしてもらった。魔法の使い方は誰でも知っているから着いてから聞けとの事。残念。


「それでは、今から器の中にお主を入れつつ召喚士の描いた魔法陣のど真ん中に召喚されてもらう。準備はよいな?」

「いつでも」

「ならばそれの真ん中に立つがよい。召喚士の描いたものとつながっておる」


 ふむ、召喚士に魔物などが召喚されるときは、こういう風にその魔物の存在する空間に入り口が現れるわけだ。これは何かに使えそうだな。


「それじゃあ、またそのうち呼び出させてもらうよ」

「よろしく頼んだ」


 そして俺は召喚陣に足を踏み入れ、再び光に包まれた。


 ==


「っと、着いたか」


 元の世界からさっきのとこへ呼び出された時よりも、少し長い時間浮遊感が続いた。召喚陣の違いか、肉体への適合のためだったのだろうか。そういや確かに体のリーチが違う。ちょっと動かしづらい。手の甲には銀色の鋼龍の紋様のようなものが刻まれている。鋼龍製の証か何かだろうか?

 ……どうやらここは、森の中にある壊れた遺跡のようだな。屋根は少しも残っていないが瓦礫も落ちていない。かなり古いものだろうが、まだ人に使われているみたいだな。

 よくよく見れば、足元にはここに来るときに踏んだものと同じように見える召喚陣が確かに刻まれている。……あれ?召喚士の人は?

 ぐるりと周りを見渡せば、背後にうつぶせに倒れている人がいた。フードで表情が見えないが、周囲にあの人しか居ないし魔法使いが着そうなローブを身にまとっている。間違いないだろう。急いで駆け寄って顔を起こす。


「………女の子……?」


 なんとなく大魔導士の老召喚士かと思っていたが、鋼龍を召喚しようとしていたのは茶色の髪をショートカットにしメガネの似合いそうな美少女だった。歳は15、16歳くらいかな?この子が数時間におよぶ召喚に耐えた召喚士か……

 おっと、それどころじゃなかった。


「おい!大丈夫か!」

「……ぐっ…………」


 よし、意識はあるようだ。だが疲労がひどいな、しばらく遺跡の柱の陰に休ませておこう。


「よっこいせっ……………?」


 運ぼうとすると、少女の身体が軽々と持ち上がる。あれ、ほとんど力入れてないぞ?

 柱の横にそうっと少女をおろし、自分の身体を改めて確認する。

 服は鋼龍が着せてくれたのか、麻の服の上から高級そうなマントを羽織っている。何とはなしに自分の腕を触ってみると、ヒトの皮膚というよりは流体的な感触が返ってきた。しかも冷たいし、この感じはどうやら俺の新しい身体は金属製らしい。まぁ鋼龍が作ったんだからそうなるわな、マントとかも金属繊維で編んだやつかもしれない。見た目は完全に人間そのものだが、どうなってるんだろうか。

 そして来た時から感じては居たのだが、胸のあたりにエネルギーのようなものを感じる。これが鋼龍の力だろう、……早速試してみるか。

 目を閉じ、胸に集まっていたエネルギーを全身に行き渡らせる。……うん、思い通りに動く。以外にスムーズだな。


「…………えっ?」

「うわっ!」


 びっくりしたが、少女が目を覚ましたようだ。気が付かなかった。しかし、なぜか首をかしげている。


「鋼龍様………?」

「へ?……いや、俺は鋼龍ではないよ」

「だって……身体………」


 言われて自分の腕を見ると、鋼の鱗が浮き出ていた。なるほど、エネルギーを体中に行き渡らせると鋼龍化するわけか。てことはあいつの身体も特殊な金属なのか?


「俺は鋼龍の使いみたいなものだ。あいつ自身は顕現できないみたいでな、代わりに鋼龍の力を俺が借りてきた」

「………………………」


 じっ……と何かを判断するかの見つめられている。可愛い少女に見つめられて悪い気はしないが、何となく落ち着かないぞ。


「分かった………契約…」

「ああ……それなんだけどな」


 鋼龍から聞いたのだが、召喚された魔物などは召喚者と使い魔としての契約を交わし、用のあるとき以外は元の世界に還されるのが普通らしい。

 しかし俺の場合はそうではなく、常にこちらの世界に居る存在のため、使い魔の契約が出来ないらしい。だから本来使い魔は契約した召喚者の命令に逆らえないらしいのだが、俺の場合はそこに強制力は働かないらしい。


「……とは言うものの、とりあえず君についていくよ。何か困ったから、無理してまで鋼龍を呼び出そうとしたんだろう?」


 こくりと頷くと、少女はゆっくりと口を開いた。


「……私はユノ。村長の娘。近くに炎龍出たから、退治する」

「鋼龍に倒してもらおうと?」


 再び頷くユノ。なかなか無口な子だが、悪い子ではなさそうだな。


「分かった、とりあえずユノの村に連れて行ってもらえる?」

「うん。こっち」


 龍退治かぁ、いきなり危なそうだな……。なるべく命の危険は避けたいなぁ……でも村人さん達のこともあるしなぁ……。

 俺は少し気分を落としながら、ユノに連れられて鬱蒼としたほの暗い森を歩き出した。



 森をしばらく歩くと、集落のようなものが見えてきた。といっても、森の中からかなり距離にあるのだが……これもこの身体のおかげか。身体能力が著しく上昇しているみたいだな。しかし……ユノの後ろに付いて黙々と歩き続けているが、本当にしゃべらないなこの子。この世界に来て初めて出会った人なのだから、色々話を聞きたいんだがなぁ。話しかけてみるか。


「えーと、ユノ、さん?」

「ユノでいい」

「そうか。ユノ、君の村の近くに炎龍が出たと言っていたけど、今はどうしているんだ?」

「近くの魔獣食べて寝てる。起きたらまた襲う」


 今はまだ村への被害はないみたいだな。良かった。

 と思っていたら、急にユノがこちらを振り返ってまたじっと見つめてきた。なんだろう、やっぱりすごく落ち着かない。


「……………本当に助けてくれる?」

「ああ、勿論。倒せるかは分からないけどね、やれることはする」

「………ありがとう……」


 すると、ユノはほんの少しだけニコリと笑ってまた歩き出した。今のは彼女なりの最大級の笑顔だったのだろう。

 よく考えれば、確かにユノの村を助ける義理なんて俺にはないのかもしれない。けれどこんな話聞いて助けるのを断るなんて、俺には出来ない。鋼龍にもらった力での刀作りも試してみたいしな。そのためにはまず何かしらの鉱石や金属を手に入れる必要があるが……村にあるものを少し分けてもらえるだろうか?


「……炎龍ほんとに倒せるかなぁ………後で鋼龍呼び出そう……」

「……?いま、何か言った?」

「いや、何にも?」


 全く、急展開な召喚ですこと。

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