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鋼の龍と呼ばれた鍛冶師  作者: 茅月 焔
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0.召喚された矢先の命令

「あ!滝川先生だ!おはようございます!」


 少し前まで生徒だった子が、ランドセルを揺らしながら駆け寄ってくる。元気だなぁ。


「おお、おはよう。ちゃんと稽古はしているか?」

「はい、先生の教えを守って毎日欠かさず竹刀を振っております」

「そうか、先生はもう教えられないけど、頑張れよ」

「はい、先生もお元気で。また道場に遊びに来てください。では、失礼します!」

「はい。いってらっしゃい」


 ペコリとお辞儀をして川沿いの道を小学校へと駆けていく元教え子を見送りながら、最近暇つぶしのために始めた散歩を再開する。


 少し前まで、剣道や居合道などを道場で教えながら様々な日本刀を収集していたのだが、30歳を越えたあたりから身体にガタが来てしまい、40歳になったのを機に引退した。再就職をしなければとは思うのだが歳が歳なためにどこも雇ってくれず、休日はこうして散歩ばかりしている。集めていた刀も生活費の足しにするために売り払い、妻も子供も居ない独り身にはあまりに多すぎる時間が出来てしまったのだが……我ながら散歩しかすることがないとは、趣味の一つや二つ持っておくんだったな。釣りとか。


 いつものコースならば、次のT字路を右に曲がって、もう一度曲がれば我が家に戻るのだが……今日は時間もあるし、少し遠回りしてみよう。そう思いつつT字路を左に曲がる。この辺の道はよく分からないから覚えておかないとな。道に迷いそうだ。


 次に次に広がる見慣れぬ風景にキョロキョロとしてしまう。へぇ、あんなところにスーパーが……意外に家から近いな………


 ……なんだあれ。ブロック塀に落書きがしてある……が、なんだかよく分からない記号の羅列みたいだな。ギリシャ文字を角ばらせたような、不思議な落書きだ。しかしなぜか読める。知らないはずの文字なのに。


「………なんだこれ、『う…え…ちゅ……うい』……?」


 書かれている通り上を見上げる。あれ、こんな朝早くなのに真ん丸な白い月が真上にあるぞ。……あれ、あっちにも月がある。


「……ふたつ!?」


 違和感に気づいた瞬間、真上から降ってきた光の柱に身体が包まれた。が、なぜかこれは危険なものではないと分かり、光に身を任せギュッと目をつむった。



 ==



 フワッとした浮遊感ののち、地面に着地する感覚が足元から伝わってきた。どうやらさっきの月に見えたものは降ってくる途中の光柱だったみたいだが……、あの文字といい一体全体なんだってこんなファンタジーな一日になっちまったんだ?心の中でブツブツ言いながら、ゆっくりと目を開ける。


「…………うわ……」


 そこへ来てこの光景だよ。なんだこれ、そこらじゅうに島がある。いや、海の上に並ぶ諸島ならまだ話は分かるんだがね。どうしてこの島々は、俺が立っている島も含めて空に浮いている・・・・・・・のか。


 バサッ!という音に飛びあがって振り向けば、今度は強靭な翼を持った白銀の龍のお出ましだ。なんですか、この展開。めっちゃ見下ろされてるんですけど、あの龍に餌にされるためにここに呼ばれたんですかね僕?え?


「お主が滝川刃八とやらか」


 厳かな声で自分の名前を告げる龍。うーわ名前まで知られてるよ、帰りたい。


 反応せずに龍を眺めていると、あっちから話しかけてきた。


「ふっふ、何故名前を知っているのか?って顔だな。まぁその辺も説明してやらにゃいかんな……。ふむ、この姿ではちと話しづらいのう。どれ」


 そういうと、目の前の巨龍はみるみる縮んでぬいぐるみくらいの大きさになった。とりあえず食べられたりはしないようだ。


「……何故、俺のことを?」

「我の波動と丁度合い、尚且つあの世界から借りても問題なさそうな人間を探していたら、お主が一番調和するようでな。しばらくここから様子を見ていたのだ」

「波動?」

「生体から出る、オーラの種類みたいなものだな。これが合わぬと精霊や召喚獣を扱えぬ」


 あー、なんか、大量のファンタジー用語が飛び交っている。さらっと「お前居ても居なくても変わらなくね?」みたいなこと言われてるがまあそこは気にしない。否定できないし。


 しかしファンタジー用語が飛び交ってんなぁ……地球じゃないのは目の前の島を見る限り明らかだけどさ……。


「そんで、ここはどこで俺はどうなるんだ?」

「以外に驚かんものだな、我にも物怖じしていないと見える」

「文化大国日本なめんなよ?」

「お前の住んでいた国か、確かに変わった文明が発達していたようだな」


 世界で最もアニメ文化の栄えた国だからな。この程度の王道な物語ならまだ落ち着いていられるぞ。


 さぁて、次はどんな使命を課せらるかだな。姫の奪還か?悪者退治か?いや、こいつ龍だし、秘宝を手に入れることかもな。龍はお宝が好きっていうし。


「で?俺を呼んだ理由が聞きたいんだが」

「うむ、これからのお前のすることだがな、我の元居た世界に行ってくれ。どうやら召喚士が我を呼び出そうとしているらしいが、この身体だけでは顕現できぬゆえお主に力を託す。あとは好きにせい」

「……つまりは?」

「そのまんまの意味だ。我の代わりに呼び出されてくれ。問題なかろう?」


 ………………………おいおい、問題大ありだコンチクショウ。

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