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喜多見という人物

 喜多見(きたみ) (たけし)というのが私が親から授かった名前であった。小学校から今に至るまで、初見で「たけし」と呼ばれたことはほとんどなかったように思う。大体は私のことを「けん」と呼ぶのだ。

 小学校の頃は「けん」と呼ばれるたびに決まって「たけしです……」とどこかバツの悪そうに訂正をしていたのだが中学の生意気な自分には訂正するのもおっくうになって、点呼のときもそのまま返事をしていたような気がする。

 さて、そんな私も高校、大学と平凡に進み春に社会人となった。大学の専攻をそのまま職業に活かせる人間が一体何人いるのかわからないが、私は大学で4年間勉強したこととは全く関係のない職業に就いたのだ。

 思えば昔から無趣味な人間だったと思う。高校までの学生時代は休み時間の度に図書室に赴き、本を読んで帰ってくるといった学生生活を送っており、休日も友達と遊ぶでもなく家に引きこもっていたのだから。

 そんな私が大学時代に出会った享楽の一つが「酒」であった。

 初めは喉が焼けるような感覚と、意識の混濁する感覚を恐れていたのだがそのうちにそれすらも楽しむようになり、今では毎日の晩酌を欠かせないでいる。社会人になって初めての健康診断では肝臓の数値が悪く、上司や同僚から呆れたように、または心配されるような口ぶりで「ケンちゃん大丈夫かい?」と言われたことだけを覚えている。


 本日も私は勤務を終え、凝り固まった体でスーパーの袋を抱えながら安アパートの扉を開ける。そしてただいまと言うわけでもなくスーパーの袋を床に置き乱暴に手を洗ってうがいをするのだ。我ながら毎日飽きもせずにこんなことをやっているものだと一人ごちてスーパーの袋をゴソゴソと漁る。

 スーパーの安いかつ丼をレンジに放り込み2分半温める設定にし、缶チューハイのプルタブを引き起こす。500mlの缶にアルコールが9%入っているらしいそれに口をつけサイダーのように喉を鳴らして空になった胃袋に流し込む。二三度嚥下を繰り返すと缶から口を離し僅かにアルコールが脳を犯す感覚を楽しみながらレンジの前で弁当が回転する様子を眺める。明日は休みだ。

 取り留めもないことを考えていると、電子レンジが無機的な音で温めの終了を伝える。缶チューハイに口をつけ、また二三度嚥下をする。


 テレビをつけたままかつ丼を平らげ缶チューハイを1本飲み干し、2本目の缶チューハイのプルタブを引き起こす。そして口内に残ったかつ丼の味を洗い流すようにそれを流し込む。別にかつ丼の味が不快なわけではなく、私はこの味は好みである。ただ、口の中が妙にネバつくというか、妙な感覚が残るのだ。これはかつ丼に限ったことではない。

 ゆっくりと口内をアルコールで満たす。私の脳はすっかりとアルコールにおぼれている。テレビからは天気予報が流れる。明日はどうやら気温は低いが晴れるらしい。

 大きく息を吐いて私は明日の予定を立てながら缶チューハイを煽った。

 

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