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第八話 猫はね、もう元気だから

「最後は本日の映像をご覧下さい」

トリニティはそう言い終えると軽く頭を下げた。

また映像が出る。ちょうど今、目の前にいる男の子と同じ格好をした子が歩道でオロオロとしていた。片道一車線のさほど車通りが激しくない道路の道路の中央には血を流して倒れている猫が横たわっていた。彼はその猫を助けようと辺りの車通りを確かめていた。そして、車が来ない事を確認すると、一目散に猫に向かって走っていった。大量の血が流れているものの猫はまだ息をしており、男の子に抱き上げられると細く瞳を開けた。そして、また歩道に戻ろうと方向転換をしたその瞬間、蛇行運転をしたトラックが男の子めがけて突っ込んできた。

映像はそこで消えたが、みなそこから視線を外す事なく黙っていた。堪えきれなくなり、愛瑠がついにすすり泣きを始めた。

「あの猫はキミの猫かな?」

幽静がどこを見つめているのか分からない視線で話しかける。

「ちがうよ、しらないネコだ」

「じゃあ何で助けたの〜?ただの野良猫だろ」

「ぼくの目のまえで車にひかれたんだ。車のひとたち、ネコをそのままにして行っちゃったから」

「だから猫をキミが助けてあげようとして」

こくっ、と男の子はしっかりと頷いた。その目は真っすぐで強く美しいものだった。

「優しいね、優しいのね」

愛瑠が男の子の横に行くと泣きながら頭を撫でた。男の子は今まで堪えていたものが一気に崩れ、急にわっと泣き出すと愛瑠にしがみ付いた。子供だった。それは、本当に小さな子供の姿だった。

「いい話をしてあげよ〜。キミが助けた猫ちゃんは今、動物病院にいるよ」

「え…?」

幽静さんがニッと笑った。

「キミのご両親は立派な方々だね。事故を知り駆けつけたご両親は、お母さんはキミと救急車に乗り、お父さんはキミが命をかけて助けようとした猫を動物病院へ連れて行ったんだよ」

男の子はまだ涙を止める事が出来ないまま幽静の方をじっと見つめた。

(この子のお父さん、本当は一緒に救急車に乗りたくて仕方なかったんだろうな。でも、猫の命を見捨てる事が出来なかったんだ。…そういうお父さんだから、この子も、こんなに小さくてもこんなに強くて真っすぐなんだ…)

隼人が情けない事に羨ましそうな視線を男の子に浴びせていると、すぅと空から光が真っすぐ彼に向かって降りてきた。

「お?ミ〜ちゃんが迎えに来たな〜…さぁ行きな」

幽静がまたニヤっと笑い男の子の背中を押した。男の子は涙を必死にふき、幽静達の方を見ておじぎをすると光の先の方を見上げた。光は男の子を包むと、そのまま彼ごとすうっと消えてしまった。

ロイとトリニティは深々と下げていた頭をやっと上げた。隼人は複雑な顔をしたまま消えた光をまだ見つめており、愛瑠は指で目尻を抑えながらも手を振り続けていた。

「さて、じゃキミ達も天国に行ってみますか」

幽静さんが隼人達の方を振り向きながら言った。

「え?ここが天国じゃないの?」

愛瑠が手を止め、キョトンとした顔で言う。

「愛瑠ちゃん天然だな〜、じゃあ男の子はどこに消えたのさ〜」

愛瑠ちゃんが「ああ!」みたな顔をして隼人の方を見た。癖でまた隼人は目を逸らしてしまった。

(愛瑠ちゃんって意外と天然なのかな?可愛いな…)

「って事で、ここから先はキミ達2人で仲良くいってね〜」

「え?なんで?幽静さんはー?」

愛瑠は少し不安そうに幽静に詰め寄った。

(僕なんかと二人きりは……そりゃ嫌だよね…)

隼人は勝手にふてくされて下を俯いた。

「俺はちょっと親父の所には直接行けなくてね〜、大人は色々ややこしのよ〜」

はい、と幽静が隼人の手を取り金色の鍵と一枚のカードを渡してきた。カードにはフリフリの衣装を着たツインテールの少女の写真が付いていた。

「え…これ、トレカ…」

さすがに隼人でも口に出して思わずツッコミを入れてしまう。

「お!隼人君よく分かったね!トップアイドルグループ『ミルキィきゅーと』のまみたんだよ〜」

それは、テレビを殆ど見ない隼人でも分かるくらいの国民的アイドルグループのセンターだった。ただ、こんなものと死界で対面するなどと隼人は思いもよらず、トレカをまじまじと見る。

「隼人くんって、まみたん好きだったの?」

愛瑠が隼人の肩越しに覗き込む様にトレカを見る。愛瑠の顔がくっついてしまそうな距離にある。それだけで隼人の鼓動は通常の10倍速度で稼働し、全身の毛穴という毛穴から汗が吹き出していた。

女子が近くにいる事に異常に慣れなくて、どうしていいか分からずとりあえず俯く。「汚い」とか「臭い」とかまた言われそうで正直怖かったというのもあった。

「愛瑠ちゃん、あんま近づくと隼人君は童貞だから刺激が強過ぎるよ〜♪」

幽静がそんな事を言うので、隼人は余計恥ずかしくなり益々下を向いて目をぎゅっと閉じた。顔も耳も熱い。手足は震え、目眩すらしてきた。

(幽静さん!ひどいよ!最低だよ!)

しかし、愛瑠の口から出たのはとんでもなく

「え?どーてー?なに幽静さん?どうゆう意味??」

すっ恍けた返答だった。

(……………え?)


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