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第五話『目醒メノ刻』


 その時は、確か不機嫌な顔をしていたと思う。我ながら愛想のかけらもない。だが、そうなるのも無理はなかった。自分のことを興味津々に見つめてくる、三つの眼差しがあったのだから。

『ご覧の通り、今日はお前達にすごいお土産があるぞ! 名前は栄斗。仲良くしてやるんだぞ』

 大きな手に押し出されて、思わず前のめりにつんのめってしまう。それを前から体全体で支えてくれたのは、同じくらいの年頃の、にかっとした笑顔がかわいい女の子だった。その子はおもむろにまなじりを怒らせると、背後に立つ人物に非難の声をあげた。

『おとーさん、らんぼーすぎ! えいとくんがケガしたらどうするの? だいじょぶだった? えいとくん?』

 すぐに表情を変えて、心配そうに顔をのぞき込んでくる女の子。きらきらとした瞳に、そのまま吸い込まれてしまいそうだった。間近で見つめ合う二人の間に、ひとりの少女が割って入ってきた。三人の中で一番背が高く、しっかりとした女の子だった。

『ごめんね、栄斗くん。私は長女の春陽っていうの。で、この子が秋良ちゃん。あと……ほら、夏凛ちゃんもこっちにおいで?』

 春陽は優しい笑顔を振りまくと同時に、少し離れた場所で立ち尽くしていた、黒髪がとてもきれいな女の子を手招きした。女の子は何かのぬいぐるみを胸に抱えながら、春陽の背後に隠れると、こちらを伺いながらぼそりと言った。その顔は恥ずかしそうに真っ赤になっていた。

『次女の夏凛……よろしく』

 しっかりとしたお姉さんの女の子と、きれいだけど恥ずかしがり屋な女の子、そしていつもにこにこと明るい笑みを絶やさない女の子。三人の女の子に囲まれて、ひどく戸惑った。自分にはまぶしすぎる光景に、身体が勝手に拒否反応を起こしたのかもしれなかった。

 どうしたらいいかわからなくなり、自分をここに連れてきた男に振り返った。それにつられて、女の子達もそれぞれの表情で彼を見上げた。

 子供達に見つめられた男は、大きな声で笑いだした。本当に嬉しそうに大笑したのだ。

『よかったな、栄斗! これでお前は、俺達四季家の仲間入りだ! 姉ちゃん達に怒られないよう、せいぜいがんばるこった』

 彼の言葉で、周囲からも笑いが起こった。あの頑なだった女の子も、控えめながら表情を崩していた。元気な女の子がぎゅっと抱きついてくる。しっかりとした女の子は、そんな妹達を優しく見やっていた。

「……そうだ。これが始まりだったんだ」

 それらの光景を、まるで映像を通しているように見ていた栄斗が、ぽつりと呟く。彼の目の前に、巨大なスクリーンが広がっている。そこにはかつての記憶が、まるで映画のように上映されているのだ。

 栄斗が見たのは、彼が初めて四季家に連れてこられた時の映像だった。すっかり忘れていたものを、なぜ今になって思い出したのだろう。栄斗が訝しがる間もなく、次の記憶が映像となって浮かび上がる。

 そこからは断片的なもので、スライド上映を見るようだった。

 四季家に栄斗が養子として迎え入れられて、すぐに喜び事があった。もうひとりの家族が加わったのである。非常に難産で、母親は一時危篤状態に陥ったが、奇跡的に一命を取り留め、無事に出産を果たした。生まれてきた小さな命には、冬莉というかわいらしい名前が付けられた。

 四季家の姉妹に栄斗を加えた毎日は、平穏に過ぎていった。楽しいことばかりでなく、喧嘩をしたり、親に怒られたりもした、幼い日々。家族から笑顔が絶えない、本当に素晴らしい日々だった。

 楽しい、本当に楽しい毎日だった。……あの日が訪れるまでは。

『……春充様が亡くなられました。ですが、破邪の血族として最期までご立派でありました』

 雨が強く降っていた日だった。玄関にびしょ濡れの黒服の男が立っていた。無表情にそう告げられた母の背中は、しばらく微動だにしなかった。子供達はその様子をリビングから不思議そうに眺めるが、中学生の春陽だけは理解していたようだった。妹達をその場から遠ざけると、弱々しい笑みを浮かべながら遊んでくれた。

 父の葬儀は、ひっそりと執り行われた。それまで、四季家には血族の者達がよく訪ねてきたが、その時はほとんど誰も来なかった。大好きな父親がもう帰ってこないことを知らされた子供達は、幼い感情を癇癪玉のように破裂させていた。

 その中で春陽だけは泣かずに、口を真一文字に結んで耐えていた。在りし日の父の遺影を、強い眼差しでじっと見つめる横顔が、栄斗の心に強く残った。

「思えば、あの時からなんだろうな。春陽さんが、四季家を自分で何とかしようと決めたのは……」

 ここから先は思い出したくない。栄斗は思った。だが、記憶巡りの旅に途中下車はないようだった。目も耳も塞ぎたい気分だったが、それさえ許してくれそうもない。

 父である春充の死は、そのまま四季家当主不在という憂き目となった。その事に関しては、四季一門の間で大激論が交わされたらしい。下手をすれば家が取り潰されるといって、母の香澄かすみに男達が詰め寄る様を、栄斗は見たことがあった。

 結局、香澄が当主代理という形におさまり、四季家の存続が認められた。だがそれは、四季一門による傀儡を許すものだった。破邪の血族ではない香澄は、しょせん老獪どもの操り人形に過ぎなかったのだ。

 綺麗で慎ましやかだった母は、みるみるうちに痩せ衰えていった。それでも、偉大な母は子供達の前ではこれまで通りに振る舞った。食事を作り、掃除洗濯をして、学校行事には参加して、子供達との会話を欠かさない。どんなに苦しいことがあっても、それをおくびにも出さず、優しい母でい続けたのだ。

 だが、そんな無理が長く続くはずもない。家庭の母と、破邪の血族としての役目を同時に果たそうとした香澄は、ついにその身を病魔に蝕まれた。家で倒れたところを病院に運ばれた時には、すでに手遅れの状態だった。

 夕方である。病院の廊下に、眩しいぐらいの夕陽が差し込んでいた。栄斗は端に置かれていたベンチに、所在なげに座っていた。すぐ近くに、母の病室がある。その中には、昏睡状態に陥った母と娘達がいるはずだった。

 静かだった。栄斗は俯きながら、廊下に伸びる自分の影だけを見つめていた。耳を澄ませると、部屋の中から女の子の泣き声が聞こえてくる。それを無表情で聞いている自分は、なんて薄情なんだろうと思っていた。目を瞑る。熱くて眩しい夕陽が恨めしかった。

 次に気がつくと、栄斗は薄暗い病室の中にいた。その間の記憶が定かではない。部屋の中には栄斗がいるだけで、娘達の姿はなかった。暗がりに浮かぶ、妙に真っ白なベッドの上に、母が寝ていた。痩せ衰えた母は見るも痛々しいやつれ方をしていた。

『……栄斗、そこにいるの? こっちにいらっしゃい……』

 今にも消え入りそうな声が栄斗を呼んだ。呼ばれるがまま、母の枕元に立つ。少年を目の端に止めた母が、嬉しそうに微笑む。その笑顔が栄斗は逆に辛かった。かさかさになった唇を懸命に動かして、母が感謝の思いを口にした。

『今まで、あの子達と一緒にいてくれてありがとう。……おかげで、私達はとても楽しく過ごすことができたわ。あの人に代わってお礼を言うわね。……本当に、ありがとう』

 母の手が伸び、栄斗の頬に触れる。細く、節くれ立った指の感触。栄斗は知らず知らずのうちに、その手を握りしめていた。何かが、自分の中で何かが芽生えようとしている。それに突き動かされるように、力いっぱいに握りしめていた。

『あなたは強い子。……私達の本当の子供じゃないけど、私とあの人、そして娘達はあなたのことを本当の家族だと思っている。……だから、お願いしてもいい?』

 驚くべきことが起こった。寝込んでいた母が体を起こし、栄斗にすがりついたのだ。壮絶な表情が、最後の力を振り絞った決死の行動であることを示していた。

『あの子達を守ってあげて……! 春陽は責任感の強い子。自分の全部を捨てて、家族の為に尽くそうとしている。夏凛は強そうに見えて、繊細で脆い子。秋良はあなたに頼りきっている。冬莉はまだ幼くて、父親代わりになるひとが必要。……あの子達には、もうあなたしかいないから……!』

 母は訴えると同時に泣いていた。涙をぼろぼろとこぼしながら、残される娘達を最後まで思い、栄斗にそれを託そうとしている。とてつもなく重い、しかしすごく大切な願い。栄斗は母を抱きしめながら、初めて自分の意思で泣いた。大切なものを失う悲しみに直面して、空虚な少年の心に火を灯したのだ。

 自分が四季姉妹を守る。守れないまでも支えていく。それが母と交わした約束だった。

 その直後、母は静かに息を引き取った。その死に顔は肩の荷を下ろせたかのように安らかで、先に逝った夫のもとへ行けることを喜んでいるかのようだった。

 母の死後、春陽は高校を中退し、四季家の当主の座に就いた。そして、傀儡政権と化していた四季一門の建て直しに尽力した。母を死に追いやった直接の原因に対して、春陽は厳格かつ苛烈な手段を用いたという。その結果、父の死から勢力を衰えさせた四季一門は、従来の勢いを取り戻すに至ったのだ。

 そして春陽は母と同じく、家族に対して何の不自由も感じさせないように努めた。両親が望んでいた理想の家庭を守るべく、姉として、家長として、春陽は自分に与えられた役を果たしている。

 次女の夏凛も、高校を卒業すると同時に、破邪剣士としての道を歩み始めた。まだ学生の秋良もそのつもりでいるはずだ。

「冬莉ちゃんは……どうするんだろうな」

 四季冬莉。栄斗は、自分と一番小さな妹の間には、何か密接な関わりがあるのではないかという疑念を抱いていた。それが何かはわからないが、切って離すことのできない、大切な絆があるような、そんな気がしていたのだ。

 突然、周囲の景色が変わる。スクリーンが消失し、栄斗の周りも真っ暗な闇に塗りつぶされてしまった。どこを向いても漆黒の闇で、寒々とした黒が、栄斗から正常な感覚を奪っていく。

『目醒メノ時ハヤッテキタ……。既ニ我ガ魂ハ解放サレタ。次ハ血肉デアル貴様の番ダ』

 どこからか、あの声が聞こえてきた。魂さえ凍てつかせる、冷たく重い響きをのせて。

「誰だ? 僕に語りかけてくるお前は誰なんだ? 隠れてないで出てこい!」

 嘲笑を交えたおぞましい声に、栄斗は恐慌をきたしていた。狂ったように顔を巡らせながら、声の主を探す。その間にも、不気味な声はうるさいぐらいに、栄斗の頭に響いていた。

『何ヲ恐レル必要ガアル? 自分ガ元在ル姿ニ還ルダケノコト。ソレハ悦バシイコトデハナイカ』

「な……なんなんだよ、これは。なんなんだよ?」

 栄斗の絶叫が闇に響き渡る。身体が崩れていくような感覚。自分の中に眠っていた何かが、それまで収まっていた殻を打ち破ろうとしている。その中にいた、凶暴で強欲な何かが、歓喜のあまり哄笑していた。

「違う。嗤っているのは……僕なの、か?」

 栄斗は自分の声が遠くなっているのを、絶望的な思いに囚われながら聞いていた。闇に溶け消え、底なしの深い穴に引きずりこまれていく。その奥底から何かが上昇してきている。栄斗との距離はぐんぐん縮まっていき、ついにそれは交錯を果たした。

『オ前ノ役目ハ終ワッタ。闇ノ深淵ニ堕チタ中デ、事ノ顛末ヲ見届ケルガイイ、影生栄斗ヨ!』

 影生栄斗の姿を為した暗闇が、勝ち誇ったように声を荒げた。絶望の淵に叩きこまれた栄斗は、次第に遠ざかっていくその影を、力無く見送った。上の方で、何かが閉じる音が聞こえたような気がした。



 延々と続けられる退屈な授業に嫌気がさした秋良は、頬杖をついたまま窓の外の景色を見やった。午前中よりもさらに深みと濃さを増した雲が空を覆っていた。秋良は溜息をついた。

 暗い気分で思い返したのは、今朝の家での出来事である。あの家であんなにぎくしゃくした空気を感じたのは初めてだった。たとえ喧嘩した直後であっても、あそこまでひどくはならない。秋良がいつもの明るさを失っていたのは、その原因がどうやら栄斗にあるように思えたからだった。

「……いったいどうしちゃったのよ、栄斗。昨日からおかしいよ」

 そっと後ろを振り返り、机に突っ伏したままの栄斗を見やる。教室に入るなり、栄斗はああやって寝たままだった。クラス中が奇異な目を向けているが、それさえも意に介すことはなかった。

 ふと、秋良は異変に気がついた。栄斗の頭が小刻みに震えている。その震えは徐々に全身に広がっていって、机や椅子をがたがたと大きく揺らしだした。そこまでになって、周囲からざわめきが起こり始めた。明らかな異常に、女子生徒から悲鳴があがりだす。教師もぎょっとした顔で栄斗に近寄ろうとした。

 それを制したのは、真っ先に彼の元に駆け寄った秋良だった。

「せ、先生! 栄斗は今朝からすごく具合が悪かったんです。だから、アタシが保健室に連れていきます!」

 そう言うが早いか、秋良はすぐさま彼の肩を抱き起こした。栄斗の荒い呼吸とともに伝わった体の熱さが、秋良の顔を焦慮に歪ませる。もはや一刻の猶予もなかった。

 秋良は教室中の視線から逃げるように、廊下に飛び出した。保健室は一階にあるが、はたしてこのまま行ってもいいものか、秋良は判断に迷った。春陽あたりと連絡を取った方がいいかもしれない。階段の前で迷っていると、突然、栄斗がぎらりと秋良の顔を睨みつけてきた。

『四季家ノ女……! 我ノ邪魔ヲスルカ』

「何? 栄斗じゃ……ない?」

 憤怒に満ちた声が秋良の脳天を貫く。紅眼を光らせて唸る栄斗は、秋良が知っている彼ではなかった。獣を思わせる栄斗の威圧に、総毛だった秋良は足が竦んでしまった。

『ソウハサセヌゾ。コノ身体ハ、モウ既ニ我ガ支配下ニアルノダ』

 栄斗は秋良の首をわしづかみ、そのまま階段を駆け上がった。授業中で人気がなかったこともあって、誰もそれには気づかない。尋常ではない膂力の前に、秋良は抵抗することもできず、屋上に通じるドアに叩きつけられた。

「あうっ!」

『マズハ貴様ヲ血祭リニアゲテクレル。四季家ノ者ハ皆殺シダ!』

 顔を醜悪に歪めた栄斗が凄み、憎悪と復讐による猛りで、秋良を恐怖の虜にした。頭を強く打ちつけられた秋良は、朦朧とした意識の中で、栄斗から発せられる邪気に愕然としていた。

 栄斗の手が、容赦なく秋良の首を締めあげる。秋良は必死に破邪の気で対抗し、何とか持ち堪えようとした。少しでも対応が遅れていたら、少女の頭は簡単に握り潰されていたに違いない。

 窒息の苦しみが、秋良の脳裏に深い想いをよぎらせた。みんなより一歩後ろを歩く栄斗。そのたびに秋良は、いやがる彼の腕を強引に引っ張っていった。振り向くと、困ったように笑う栄斗と目が合う。そんな栄斗が、秋良は大好きだったのだ。

 栄斗の腕が高々と掲げられる。秋良を殺すことに、なんの躊躇いもない。残忍な形相に嗜虐的な嗤いが広がっていた。悲しみが苦しさを上回って、秋良の目から涙が溢れ出た。

「やめて……。もうやめようよ。……こんなの、栄斗らしくないじゃない……!」

 栄斗の腕に手を添えた秋良は、弱々しく微笑みながら栄斗を見つめた。少女の泣き笑いが栄斗の網膜に焼きつけられると、紅く爛々としていた瞳に変化が訪れた。それに合わせて、凶暴な力がなりを潜めていく。手から秋良の体が抜け落ち、それを見下ろす栄斗の表情は、苦悩と後悔に満ち満ちていた。

「僕は……いったい何をしていたんだ? ころ、す……? 秋良を殺そうとしたのか? 僕が……僕がッ?」

 うわごとのような栄斗の呟きは次第に大きさを増していった。。顔が引きつり、苦しそうに深々と身体を折りながら、両手で頭を抱え込む。混乱した様子の栄斗に、秋良は懸命にすがりつこうとした。

「栄斗。そんなに悲しまないで。アタシはここにいるよ? ずっと一緒にいてあげるから、もう泣かないで……!」

「く、来るな! 触らないでくれッ! でないと僕は、また秋良ヲ……?」

 絶叫して、栄斗は秋良を強引に自分から引き離し、封鎖されていた屋上のドアを思いきり殴り壊した。凄まじい勢いでドアが吹き飛び、屋上を囲うネットに深々と突き刺さる。

 もうこれ以上、秋良を傷つけたくない。その一心で栄斗は屋上に飛び出した。今にもあの暗い感情が甦ってきそうで、怖かった。人でなくなった自分が秋良を殺す光景など、見たくなかった。

「ぐっ! とにかくここから離れないと……な、なんだ?」

 屋上で立ち尽くす栄斗に、統率された殺気が襲いかかってきた。悄然とする栄斗を取り囲むように、複数の人影が物陰から躍り出てくる。訓練された身のこなしと、武威や法威に身を包んでいる彼らは、破邪の血族であるのが明白だった。

 破邪の血族。栄斗は、自分が彼らと同様の存在であると信じ、かつ誇りに思っていた。だが、彼らの顔は邪鬼妖魔と相対する時のものと寸分の違いもなかった。

「影生栄斗よ。やはり貴様は危険分子に過ぎなかった。その命、我らがもらい受ける!」

 言うが早いか、そのうちの一人が斬りかかってきた。栄斗はそれを反射的に腕で受け止めた。栄斗の全身から黒い気炎が吹き出し、破邪の剣の脅威を無力化した。その恐るべき邪気に圧倒されて、血族の戦士達が戦慄した。

「みんなかかれ! 絶対に仕留めるのだ!」

 破邪法師の法術と、破邪剣士の斬撃とが、容赦なく栄斗に浴びせられた。いかに強大な邪気に守られていようと、破邪の血族の波状攻撃は脅威である。間断のない連携の前に膝を屈した栄斗は、苦しげに喘いだ。口にあふれた血の味で、地に着いた手に力が込められた。

「一方的に仕掛けてきて、破邪の血族は本気で僕を殺す気だ。話を聞く気もないっていうのか……!」

 酷薄な展開が、栄斗の心に暗い炎を燃え上がらせた。信じていたものに裏切られ、負の感情が暴れ狂っていた。負の感情は、そのまま邪気の温床となる。栄斗の内から、凄まじい勢いで邪気が吹き出した。闇に支配される、その事に対する恐怖はなくなりつつあった。

「やめて! 栄斗を苛めないで! ただ苦しんでるだけなの! 話を聞いてあげて!」

 そこにやって来たのは、ふらふらとした足取りの秋良だった。邪気に当てられ、本調子ではない身体をおして、少女は栄斗のために声を張り上げたのだ。四季家の家族である栄斗を守るために、大好きな少年を助けたい一心で。

 一瞬だけ、栄斗は雲間から光を見たような気がした。だがそれは、あっけなく破邪の血族によって打ち消されるのである。

「何をバカな! 理由も知らぬ子供が口を出すな!」

「子供のくだらん感傷を持ちこみおって。影生栄斗は、我々にとって倒すべき敵だ」

「もとはといえば、貴様ら四季家のせいであろうが! 貴様らがしでかした不始末を、我らが拭おうというのだぞ。礼をこそ言われ、非難される筋合いはないわ!」

「四季春充も、とんだ厄介ごとを遺しくれたものだ。父が父ならその家族もまた然りだ」

 嘲笑混じりに悪罵を飛ばす血族達。父や家族を表立って悪く言われた秋良は絶句し、肩を震わせながら涙をこぼした。悔しさと悲しさが同時に押し寄せてきて、いかな強気の秋良といえど、我慢ができなかったのだ。

「秋良。……泣かないでくれよ。君にそんな姿は似合わないだろ? 泣かないで、くれよ……!」

 立ったまま泣き腫らす秋良から、栄斗は一瞬たりとも視線を外さなかった。幼少の頃からの付き合いである少女が泣かされた。それも自分のせいで。やるせない怒りが栄斗を責め立てた。そして同時に、栄斗は自分の本心を知るのである。

「……そうか。僕は秋良のことが好きだったんだ。……だったら、やることはひとつだ」

 栄斗は寂しげに笑った。とても大切なことを、今になって気づいたのだ。自分の鈍感さに呆れるばかりである。もう、すべてが遅すぎた。

『ドウヤラ決心ガ着イタヨウダナ』

「……ああ。秋良を泣かした奴は赦さない。四季家を愚弄した奴もだ」

 もう一人の自分に、栄斗は冷えきった心で答えた。感情が欠落した声が、かえって怒りの大きさを感じさせた。

『我ト一ツニナルトイウ事。ソレハ、コレマデオ前ガ築イテキタ、人トシテノ日々ヲ捨テルトイウコトダ。本当ニ覚悟ハデキテイルノダナ?』

 再び告げてきた声に、栄斗はわずかな違和感を覚えていた。今聞こえている声からは、強圧めいた禍々しさが感じられないようなのだ。厳かには違いないが、郷愁を感じさせる響きに、栄斗をそのまま静かに頷くのだった。

「これが僕の運命なら受け入れるさ。それにこうなった以上、もう四季家にはいられない。……どう考えても、潮時なんだよ」

『……ヨカロウ。ナラバ、汝ガ身体ニ封ジラレシ我ガ真性ヲ、ココニ顕現サセヨウ。心ヲ開キ、自然ノママ我ニ身ヲ任セルノダ』

 力が沸き上がってくるのを感じた。それは、人が決して手に入れることができない強さ。全てを圧し、ひれ伏させる、圧倒的な戦威。栄斗は見た。闇の中から生まれ、自分の目の前に現れた、巨大な黒き獣を。

「漆黒の、虎狼。それが、僕の正体……!」

 その名を栄斗が口にすると、全身から力が抜けていった。吸い寄せられるがままに、黒き獣の中に取りこまれてしまう。不思議と恐怖はなかった。帰るべき場所に帰ってきたという感慨にふけりながら、栄斗は全てを思い出していた。

『……漆黒の虎狼。かつて常世の覇権を握った、邪妖の主。それが、僕だ』

 視界が戻る。栄斗は、周囲を囲む小癪な人間どもを見下ろしていた。彼らの顔に浮かんでいるのは、焦りによる動揺。絶望的な恐怖。それらを屠るのに、何の躊躇いも感じなかった。

 黒き剛毛が風に吹かれ、その一本一本鋭利な刃のように研ぎ澄まされている。それらが覆う強靱な体躯は、鋼鉄のごとき強さと、疾風のごとき速さを生みだす

 全身黒の中に浮かび上がるは、猛き虎を彷彿とさせる爛々とした紅眼。そして、飢えた狼を思わせる銀の牙。鋭く尖った爪が描くのは、死への道筋。

「こ、これが奴の正体だというのか? 文字通りのバケモノめ」

「いかに強大な存在であったとしても、敵はひとりだ。我ら全員でかかれば……!」

 勝てる、などという勝手な思いこみをされるのは心外だった。栄斗の紅眼が四人の動きを捉える。邪妖の主に立ち向かおうという気概は買うが、いかんせん、技量が足りなすぎる。

 栄斗が、漆黒の虎狼が敵陣を駆け抜けた。ただのそれだけで、血煙が四つ、一度に舞った。全身を無惨に切り刻まれた屍が、ばらばらと床に落ちていく。まさに、一瞬の出来事であった。

 血塗れの爪を空で振るうと、栄斗はもはや後ろを振り返ろうとはせず、街のはるか彼方を遠望した。見慣れた景色がそこには広がっている。近くて遠い、もうここに存在することは許されない。その思いが、栄斗にわずかな寂寥感を植えつけた。

「どこに行くの……栄斗? 行っちゃ……行っちゃやだよ……!」

 背後から聞こえてきたのは、すがるような弱々しい声。後ろ髪を引かれる思いで、栄斗は顔だけそちらに向けた。かつて自分が好意を抱いていた少女、今なお自分を想ってくれている少女が、これまで見たことのない、悲しみに沈んだ顔で涙を流している。

 行きたくない。栄斗は思った。できることならこのまま彼女を抱きしめて、運命を共にしたかった。おそらく彼女は、喜んで自分に付き合ってくれるだろう。だからこそ、離れなければならなかった。自分はもう、全てを知ってしまったのだから。

 漆黒の虎狼と化した栄斗は、振り払うように秋良から顔を背けると、学校の屋上から飛び降りた。黒い影が、撃ち出された弾丸のように疾駆する。あれだけの巨体が、あっという間に景色に溶けて消えてしまった。

 ひとり残された秋良は、そのまま力尽きたように、屋上に倒れこんだ。ちょうどその時、騒ぎを聞きつけた教職員らが屋上にたどり着く。

「なんで? どうしてアタシを置いて行っちゃうの? ……バカ栄斗」

 ぽつり、と一滴、雨の滴が秋良の頬を打った。雨が、悲しみの雨が降り始めた。



 事態は青天の霹靂であった。あまりにもすべてが性急すぎる。いや、実際はそうではないのだろう。もともと仕組まれていた事に気づくのが遅すぎただけの話だ。直江龍生の進言がなければ、今頃はもう手遅れになっていただろう。

 そういう意味では、自分達はよくやっていると言えた。そう前向きにとらえるしかない。だが、後手に回っているのは事実であり、不利な状況に追い込まれているのは明らかだった。

 急がなければならない。高科一心は、執務室にて報告の子細に目を通しながら、深刻な焦りをみせていた。今回の事件の重要人物と目されている、二人の少年少女の動向が入ってきたからである。

「二人とも行方知れず、か。……春陽。もう潮時かもしれん」

 執務室の内線が着信を告げている。一心はそれに手を伸ばすと、受話器を取った。男の慇懃な声が耳に流れてくる。

『御館様。ただ今、四季殿が当屋敷を訪ねておいででございます。いかがいたしましょうか?』

 高科家の家令を務める笹木の問い合わせに、一心はしばし沈思黙考した。やがて結論を導き出すと、それを笹木に告げた。

「私の私室にお通ししろ。人目につかないよう、気をつけてな」

『承知いたしました』

 受話器を下ろし、一心はいよいよ覚悟を決めなければならなかった。四季春陽が自分を訪ねてきたということは、事態が最悪の方向に向かいつつあるということを、如実に物語っているからだった。

「血族の世界は歪み、淀んでいる。今回の事件でそれが明らかになるとは、何とも皮肉なことだな」

 高科家の当主となり、御三家の筆頭として破邪の血族の全貌を知ってからというもの、一心は自分達の施策に懐疑的な思いを抱いていた。古き掟に従い、それに盲従するだけの組織。

「……私はそれを変えたい。そしてその鍵を握っているのは若い者達。春陽。君もその内のひとりだと、私は信じている」

 呟いて、最新の電子メールを開き見る。一心の目がわずかに見開いた。もはや一刻の猶予もない。執務室を後にした高科家の若き当主は、血族が歩むべき未来を見定めるべく、自室へと急ぐのだった。


※※※


 高科一心とは、十歳ほど年が離れていた。血族同士で顔を合わせる際、春陽は大人と距離を置いていた。幼くして破邪法師の資質が開花していた少女は、なんとなく人の本音を読み取ることができた。笑顔の裏に潜む、人の醜い一面。そんな欺瞞に満ちた場所に、純真な少女の居場所はなかったのだ。

 ある時、ひとりで庭園に座りこんでいると、背後から誰かが近づいてきた。

「……君、ひとりでこんな所にいて、寂しくないのか?」

 振り返ると、自分よりもずっと大きく、子供以上大人未満の青年が見下ろしていた。彼は人好きのする笑みを浮かべながら、目線を自分に合わせて言ってくれた。

「もしよければ、僕と一緒に遊ばないか? 僕も君と一緒で、大人達から逃げてきたクチなんだよ」

 おどけたように笑う青年は、嘘を言っていなかった。少女は初めて、家族以外の人に笑顔を見せた。

「うん。いいよ。おにいさん、おなまえは? わたしははるひっていうのよ」

「僕は一心。高科一心だ。よろしくね、はるひちゃん」

 遠い昔のことだ。だが春陽は、その時のことを今も鮮明に思い出せる。一心の笑顔は、凍りつこうとしていた自分の心を救ってくれたのだ。まるで、春風が氷雪を溶かすように優しく、ゆっくりと。

「……もう、二十年近く前の話かしらね。私も歳をとるはずだわ」

 春陽の顔に苦笑が浮かぶ。春陽はもうすっかり大人になった。体つきは女らしくなったし、化粧も覚えた。家事もこなすし、家長としての務めもがんばっている。そして破邪の血族、四季家の当主としても。

 春陽は、四季家を代表する者として、高科邸を訪れていた。四季家伝来の破邪法師の法威『宵桜』を身に纏って。私的な訪問ではないことを、内外に知らしめるかのように。

 長くて量の多い髪はアップにして、古風なかんざしで留めている。そこにあらわれた白いうなじが、大人の色香を滲ませている。唇には真紅を引き、広がる白の中に鮮やかな赤が際だった。

 法威『宵桜』は、深い夜を思わせる濃紺地に、鮮やかに桜花を満開にさせた振り袖である。厳粛かつ壮麗ないでたちは、四季家の当主に相応しいものだった。

 通された一心の部屋は、飾り気のない、実用性を重視しただけのつまらない内装だった。純和風の高科邸にあって、完全な洋室だったのが唯一の特徴で、子供の頃の記憶と何ら変わらない姿を保っていた。

 ベッドが部屋の片隅に置かれ、本棚や机、歓談用のテーブルが整然と並んでいる。春陽は立ち上がり、壁に掛けられていた写真に目を留めた。思わず、声が漏れた。

「……懐かしい。こんなの、まだ飾っていたのね」

 それは、春陽と一心が二人並んで撮った写真だった。少し色褪せてしまった写真。どこかの庭園で、夏服の一心と春陽が微笑んでいる。それは初めて会った時のものに違いなかった。

 他にもたくさんの写真があった。小さい頃、彼によくせがんでは、いっぱしのモデル気分でポーズをとっていたのは、若気の至りというものだろう。春陽は苦笑するしかなかった。

 そこにはたくさんの春陽がいた。少しずつ成長していく少女と、少しずつ大人になっていく一心。二人の距離は年を経る事にどんどん近づいているようだった。春陽の頬にわずかな赤が差す。もう忘れてしまった過去が、この部屋では今なお息づいているのだ。

「……私の写真展を、わざわざ観覧しに来られたのかな。四季殿」

 聞こえてきたのは一心の声だった。春陽がゆっくりと振り返る。スーツ姿の一心が、ちょうど部屋に入ってきたところだった。春陽は再び壁の写真に向き直る。一心が春陽の隣に立った。

「よくもまあ、これだけ撮らせたものね。写真家も大変だったでしょう?」

「そんなことはない。君と過ごした年月は大切なものだ。思い出はいくら残しておいても足りないくらいだ」

 穏やかに笑う春陽とは対照的に、一心は他人行儀の姿勢を崩さない。それが少し気に入らず、春陽が意地悪を口にする。

「思い出なんて過去の事象に過ぎないけれどね。……奥様はお元気?」

「あいにくと、元気だ。今は二人目が腹の中にいる。一人でも大変だというのに、困ったものだ」

「そう言うわりには、幸せそうじゃない?」

「君も人の親になればわかる。理屈で家族は語れない。それは君も知っているはずだ、春陽」

 一心が春陽に向き直る。春陽は変わらず壁面の写真を見上げたままだ。その横顔は美しいがとても危険なものに見えた。

「話は手短に済ませよう。まずは四季殿。貴女が私を訪れた目的をお教え願いたい」

 一心の表情が、すっと引き締められた。御三家の頂点に立つ、破邪の血族の元締めとして、厳格な姿勢で四季家の当主に相対した。

「目的……それをわざわざ言わせるつもり?」

 それに対し、春陽の態度は不遜を極めた。明らかに苛立っているような雰囲気に、一心は警戒を強める。

「私は破邪の血族を束ねる者として、昨日重大な決定を為した。血族に名を連ねる者は皆、総力を挙げて常世と事を構えるべし。さらに四季冬莉及び影生栄斗の監視を強化し、必要とあらば実力行使もやむを得ず、とな」

 一心の言葉は厳しい。春陽はそれを聞いていないかのように、顔を背けたままだ。煮え切らない様子の春陽に、一心は入ってきたばかりの情報を明らかにした。

「四季冬莉が聖峰学院内にて、常世からの襲撃を受けた。それにより彼女の危険因子が目覚め、倉里の娘が若い命を散らした。影生栄斗も、己の内に秘めた邪妖の獣に魅入られ、血族を屠った。二人とも、その後の行方が知れない。事態はもう、貴女が思っているような生易しいものではないのだ!」

 静かに叫び、一心は春陽の反応を待った。今言った内容は、まだごくわずかな者が知るのみである。だが、すぐに情報は伝達され、然るべき行動に移らざるを得なくなるであろう。冬莉に関しては、まだ猶予があるかもしれない。だが栄斗はというと、難しい判断をせざるを得ない。

 しばらくして、一心の眉がわずかに動いた。不審なものを見る目で、顔を俯かせた春陽を見やる。小刻みに揺れている肩。何か音が聞こえたような気がして、耳を澄ませる。

 それは笑い声だった。狂った調子の嗤い。春陽は嗤っていた。

「……それで? 二人とも危険だから、殺すっていうの? そしてそれを、私にもやらせようって? うふ、うふふふふふ……!」

「春陽。君は……!」

 春陽のつんざくような笑い声が、部屋中に響き渡る。一心の脳裏に、幼い頃の春陽の笑顔が甦った。一時も忘れたことがない、眩しい笑顔。それを知っているだけに、今の春陽の凶行は見るに耐えなかった。止めさせようとして、彼女の両肩をつかむ。

「そんなの! 許せるワケないじゃない!」

 絶叫が一心の全身を打つ。肩に手を置いた瞬間、春陽の顔が急にはね上がって、一心を間近に睨みつけたのだ。凍えきった眼光の中で、確かな怒りが燃え上がっていた。

「私は、私達家族の絆を引き裂こうとする奴は、誰であろうと許さない! あなた達はくだらない感傷と言うだろうけど、私にはそのくだらないことがすべてなのよ!」

いつしか春陽は、一心の肩を両手でつかんでいた。凄まじい力が込められ、一心の顔がわずかに苦渋に歪む。だが彼はそれを甘んじて受けた。春陽の想いを受け止めるために。

「父さんも母さんも死んで、妹達は私が守っていくしかなかった。そのために私は何もかもを四季家に捧げたわ。これまで通りの家族でいられるなら、それで本望だったのよ……!」

 春陽の頭が下がり、一心の胸に押しつけられる。春陽は泣いていた。まるで子供のように、しゃくりあげるように、泣いたのである。

「お願いだから、私達の絆を引き裂かないで……! 一心くん、お願いよ……」

 春陽の慟哭に、一心は天を仰いだ。

「……久しぶりに、君にそう呼ばれたな。嬉しいが、悲しくもある。昔に戻れたらという思いに駆られたのは、一度や二度ではない。……人はそうやって後悔を積み重ねて生きていくのだろうな。まことにもって罪深い存在だ、我々は」

 一心は春陽の体を抱きしめた。たとえ大人に成長したとしても、子供の時の印象は変わらない。どれだけの年月が経とうとも、この感傷も変わることはないのだろう。

 外は強い雨が降っている。だが雨はいずれ降り止む。人の悲しみも同じように、いつか払拭される日が来るのだろうか。すでに三十年以上生きてきた一心であるが、未だにその答えを見いだせずにいた。

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