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わたしの異世界食配達物語  作者:
異世界へはプリン・アラ・モードと共に
8/58

6

「…………そこまでにしろ」

 

今まで黙っていた少年の身内ぽい威厳のあるおじさんが二人を制止する。

 

「リカルド。そこの娘さんを別室にご案内して差し上げなさい。魔術師も同行を願おう。私はこの場を鎮めてから向かう」

 

「父上………」

 

「リカルド。聞こえていたのなら返事をしなさい」

 

「っ!申し訳ありあません。聞こえています」

 

「魔術師と二人でそちらの娘さんに事情をしっかりとお伝えておきなさい」

 

「はい」

 

父上ってやっぱりこの二人、親子なんだ。

でもそれにしては酷く硬い喋り方をしているなぁ。

観察しているうちにおじさんの声で復活した人々が動き出す。

テキパキと指示を出すおじさんに誰も逆らえない。

唯一逆らいそうな怪しげな人も今は大人しく従う気らしく何も反論しない。

 

「おい」

 

「え、あ、はい」

 

「案内する。こちらだ」


ぶっきら棒な言い方で男の子はそれだけ言うとくるりと背を向けて歩き出してしまう。

途中、怪しげな人の襟首を掴んで無理矢理引っ張り始めた時は慌てたけど引っ張られている当人がへらへら笑っていたから私は黙って二人のあとを歩きつつ自分の身に起きた出来事を整理していた。


幸いなことに………と言っていいのかはわからないけど怪しげな人から知識を貰ったことで私は物語とかで出てくるここはどこなの!って状態には陥っていない。

この世界が私の世界とは別の異世界だということも。

私の世界にはいない妖精や精霊、魔術などといった非科学的なものが日常的に認知されていることも知識としてある。

この世界の国々は今のところ平和でここ数百年戦争は起きていないし魔王とか世界の危機とか差し迫った事態もない。

いたって平和。絵に描いたような平和を謳歌する時代。

だけど、だからこそ、浮ぶ疑問。


(私って………なんで呼ばれたの?)


首を傾げる私がその答えを知るまであと少し。



別室に案内され互いに自己紹介をした後、(リカルド君が王子だとか魔術師さんは何故か本名は教えてくれなかったりとか驚くことが多かったけど)事情を説明され、そして私は呆然とした。

 

「え、つまり、なんですか?私は食べたことのない食べ物を呼び出すのにおまけで異世界トリップを果たした、と?」

 

勇者になれ魔王になれとか世界を救えとかでも困りますが主目的が手にしていたプリン・アラ・モードだったと言われるのも反応に困りますね。

 

「うん。そう。つまり君が手にしているその食べ物が王子の望んだ願い、ってこと。実際にこの世界じゃ見ない食べ物だね~~~確かプリン・アラ・モードっていうんだっけ?」

 

「………あれ?なんでこれの名前わかるんですか?」

 

私一度も言ってないですよね?

 

「ん?ああ、君に僕の知識をあげたのと引き換えに君の知識を僕が貰ったの。だから知っているんだよ」

 

「ああ、それで…………」

 

ふと不安が過ぎる。

個人的な思い出とか伝わってないですよね?

 

私の頂いた知識にはこの人個人の記憶ってないですけど………。

 

疑問が残るがなんとなく口にするのも憚れているうちに話しが進んでいく。

 

「で、魔術師。ナツは異世界から来たわけだがちゃんと帰してやることができるのか?」

 

はっ!そうだよ。色々ありすぎて麻痺してたけど帰る方法、あるんだよね!

 

二人分の視線を受け、魔術師さんが小首を傾げる。

 

「君達、僕を誰だと思っているの?世界最強の魔術師だよ?帰せます」

 

「最強って自分でいうか?普通?それに最強より最凶のほうがお似合いだ」

 

迂闊な発言をした王子を笑顔で制裁を加える魔術師さん。

 

く、口は災いの元ね。私も気をつけないと。

 

「ごほんっ。まぁ、話しを元に戻すとして、君を問答無用で拉致してしまったのは完全にこちらの落ち度だからね。ごめん」

 

「いえ、そのもう謝っていただいてますし………」

 

「それに今から食物を強奪しないといけないから心苦しい……」

 

「………はい?」

 

「てな訳で、そのプリン・アラ・モードちょ~~~だい!」

 

「お前、実は全然反省していないだろ!」

 

私に向かって両手を差し出した魔術師さんの頭をリカルド君が勢いよく叩く。


い、いいの?この人、叩いたりなんてして。

 

「え~~王子のために折角崩れたり痛んだりしないように保存の魔法をかけていたのに!」

 

そんな魔法が掛けられていたのか。結構動いていたのに全然崩れないしクリームも溶けないから不思議には思っていたのよね。

 

魔法って、便利だ。

 

出来上がりと何一つ変わらないプリン・アラ・モードを見ながら私はしみじみとそう思った。

 

「大体だな。こんな目に遭わされたのに誰が食べ物くれるっていう………」


「えっと………どうぞ?私の手つくりだからお口には合わないかもしれないけど………」

 

「……………」

 

「くれるみたいだよ。優しいね。ナツは」

 

え、だって帰れるみたいだし、別に酷いことされた訳じゃないし、寧ろ心配してくれているみたいだから、これ食べたいならどうぞって思っただけなんだけど………何か、変、だったかな?

 

不安になって二人を窺えば魔術師さんは相変らず愉しそうでリカルド君は色々と諦めたような顔をしていた。

 

「あ~~~もういい、それを受けとればいいんだろ?」

 

リカルド君、まるで色んなことに疲れはてたサラリーマンみたいな哀愁を背負っちゃっているよ。

 

「えっと………元気だして?」

 

「………いや、なんでもない。それと食べ物を譲ってくれて、ありがとう」

 

「いや、これウチのオヤツだったし、折角の誕生日に大したものじゃなくてごめんね。それと、誕生日おめでとう」

 

せめてお祝いぐらいは言ってあげたいもんね。


巻き込まれたとはいえ、お祝いがプリン・アラ・モードっていうのは寂しいかもしれないけど。知っていたらケーキとか焼いたんだけど………兎に角急だったかなぁ~~~。

私はリカルド君にプリン・アラ・モードの乗った器を差し出したんだけど……一向にそれを受け取ってはくれない。

 

はて?

 

「王子、顔、赤いですよ~~~~」

 

「っ!うるさい!」

 

私が魔術師さんの言葉の真偽を確かめるよりも早く手の中の器がリカルド君の手に移り、彼はスプーンで勢いよく一口目を頬張った。

 

……………。

 

…………………。



ごくりと咀嚼し、嚥下するリカルド君。

その顔がぱぁ~~~と輝くように変化し、物凄い勢いでスプーンを口に運びはじめる。

見る見るという表現がピッタリなほどのスピードでプリン・アラ・モードを平らげていくリカルド君。最後の一口を食べ終えてもなお、口寂しそうにスプーンで何もない器を突いている。

 

そ、そこまで気に入ったの?

 

と、あれ?気付けばリカルド君がじっと私を見て………いや、正確には私の手元にあるも一つのプリン・アラ・モードをまるで獲物を狙う猛獣のような目で見ている。

 

「り、リカルドくん?何かな?その目?」

 

「…………」

 

「えっと……無言でスプーンを人に突きつけるのはマナー違反だと思うのですけど………」

 

「そっちの器のもくれ」

 

「だめ!これは冬香の分なんだから!」

 

慌てて自分の体でプリン・アラ・モードを隠せばリカルド君が負けじと身を乗り出してくる。


「むっ!それは俺の願いのために召喚されたものだろ!だったら俺のだ!食べさせろ!」

 

「だめぇ~~~~~!」

 

渡せ、嫌!という攻防戦を繰り広げる私達。

だが、しかし!身長の差という絶対的な有利を手に入れている私の方が圧倒的に優勢!

リカルド君は悔しげに私の頭上に持ち上げられたプリン・アラ・モードを見ている。

 

勝った!


勝利を確信した私。


その油断を銀色の光が切りさき私の頭上に落とされた。


 

「うん。本当においしいね!」

 

「え?」

 

「あ~~~~~~~~~~~~~!!ずるいぞ!魔術師!俺にもたべさせろ!」

 

リカルド君の叫びの合間を縫って聞こえてくるのは何かを租借する音と軽い食器が奏でる音。

 

ま、まさか………。


ぐぎぎぃぃぃと錆付いたロボットのような動きでお盆を目線の高さまでさげれば案の定なにも乗っていない。

 

ゆっくり。

 

そう、ゆっくりと振り向けばそこにはプリン・アラ・モードを物凄い勢いで平らげている魔術師さんにそれに負けじと器にスプーンを伸ばすリカルド君が激烈な攻防戦(取り合い)を繰り広げる光景が広がっていた。


 

『おねぇのばかぁ~~~だいきらぁい~~~~!』


絶望的な光景に思わずふらつく。


ああ、嫌われる。冬香に嫌われる大嫌いって言われてしまう~~~~~~~!!

 

脳内に再現された未来図のあまりのダメージに思わずその場に四つんばいに崩れ落ちてしまう私なのでした。


「「うまかった!!」」

 

一分も立たない内に冬香の!(ここ重要!強調するよ!)プリン・アラ・モードを完食した二人が満足そうに頬を緩める。

 

「うまかったなぁ………」

 

「そうだね~~~この世のものとは思えないうまさだったね~~~~」

 

なにやら満足そうにため息をついている男二人には悪いがこちらのテンションは一気に下がっていた。

 

「あ~~~そうですか………こんな素人の私が作ったお菓子でそこまで幸せになれる貴方達の舌は安上がりでいいですねぇ~~~~」

 

若干どころでなくやさぐれた私の言葉は棘だらけである。

 

部屋の隅でいじけて丸くなる私は壁にのの字を指で書き続ける。

これから冬香に嫌われてしまうと思うと本当にもう………自棄酒でもしたい気分だよ!本当に!

大体食べちゃ駄目って言っているのになんで食べるかな!!

全く常識がないよ!


こんなことを思いながら憤慨していた私だったけど………後に知るこの世界の食事の水準は私の世界と比べて格段にレベルが下がっており、中でも甘味に関してはほとんど発達していない状況だなんて今、この段階で知るわけがなくて。

そんな食生活が当たり前だった人が、生クリームや果物をふんだんに使ったプリン・アラ・モードを食べたらまさに天上の甘露のごとく感じられたのだということを全くもって知らなかった。

ただただなんて食い意地の張った人たちなんだと憤慨やら呆れやらが混じった複雑な気持ちを抱いていたんだ。

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