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わたしの異世界食配達物語  作者:
異世界へはプリン・アラ・モードと共に
7/58

5

 

「うひゃ!」

 

魔術師の指が娘の額に触れた途端、摩訶不思議な悲鳴を上げながら娘がその場に再び座り込んだ。

その顔は苦悶に歪んでいた。

 

「魔術師!お前なにをした!」

 

「心配ないよ。言葉やこちらの世界のことを理解できるようにしただけだから。少し頭は混乱するけどすぐに治まるよ」

 

飄々とした物言いの魔術師の言葉に信憑性は全くないが今は信じるしかない。

きっと魔術師を睨みつけて娘の方に視線を戻すと苦悶は徐々に薄れていた。

どうやら魔術師の言う通り害があるものではないのか………。

そう思いかけたリカルドの前で娘の緑の美しい瞳からポロリと大粒の涙が零れる。


見た瞬間、リカルドの頭の中が真っ白になった。


気付けば、周囲の貴族達が全員面白いぐらい同じ顔で青ざめており。

王である父ですら滅多に変えない表情に驚きを乗せている。


気付いたら。リカルドは床を走って、飛んで、触るなキケンが全世界共通認識の魔術師の背中に………娘の世界で言うところのドロップキックを綺麗に決めていた。


反省はしない。後悔もしない。寧ろあの一撃だけでは足らなかった。


後にこの時のことを振り返りリカルドはそう懐古したという。



急激に詰め込まれた知識の影響で生理的な涙が零れてしまった。

頬を流れる涙を指で拭おうとした私だったが側にいた怪しい人にいきなり男の子がドロップキックを決めたことでその機会を失った。

 

ずっずずっずっ~~~~~~~と人体ってそこまで滑るんだというぐらいの距離をうつ伏せで滑っていく怪しい人。たまたま進行方向にあったテーブルに当たって(突っ込んで?)ようやく止まるがそれからぴくりとも動きがない


え、え、あの、何が起きたの?

 

呆然としている私の前で男の子はフーフーとまるで興奮したケモノのように肩で息をしている。

まるでその体から見えない怒気が煙となって上がっているかのようで私を含め、誰一人として動けない。

危うい均衡を崩したのは起き上がった怪しげな人。

 

「ったたた………ひどいよ~~~王子~~~行き成り蹴り喰らわせるなんて~~~~」

 

情けない声を上げながらも意外にも機敏な動きで怪しげな人が立ち上がってフードを叩く。

どうでもいいけど一連の流れで一度もフードが捲れなかったのが地味に気になるんだけど。いや、どうでもいいことなんだけどなんとなく。

ブツブツと文句を言いつつこちらに歩いてくる怪しげな人から私を庇うように男の子が立ちはだかりきっと怪しげな人を睨みつける。

 

「さて、王子?僕をこんな目に遭わせたのはなぜなのかなぁ~~~?」


笑っている怪しげな人からひやりと冷たい空気を感じる。


怒っている………絶対、これ、怒っているよ。


この人のことよく知らないけど。だけど。そんな私でも怒らしたら色々面倒なことを起こしそうな人だということは判る。

周囲を見れば青ざめるを通り越して即身仏と化していた。

だめだ。仲裁は期待できない。

 

下手な受け答えをすればその瞬間、あの怪しげの人の身体に詰め込まれた怒りが爆発しそうで私はきゅうと拳を握り締める。

横から口出しを許さない空気。


だけど何かあったら口も手も出させてもらうから!


そう決意する私の前で男の子が真っ直ぐに怪しげな人を見据える。

そして、私を指差し、声高らかにこう言ったのだ。

  

「女を泣かしたからだ!どんな理由であれ女を泣かす男は最低だ!」


……………。


場がもう何度目かわからない沈黙に包まれる。


(お、男前過ぎるよその発言)

 

「くっ………」

 

低い呻き声?

 

と思ったら行き成り怪しげな人が体を九の字に折り曲げて爆笑した。

 

「あははっはははははははははっ!なにそれ!滅茶苦茶カッコイイ!男らしい!漢だねぇ!くくくくっ!あははははっはははははっ!」

 

よほどツボに入ったのかぽかんとする私達を放置して肩を震わせ、怪しげな人は思う存分笑い転げている。

ひーひーと苦しそうに笑いすぎて呼吸すら難しくなっている。

 

「はぁ~~~笑った笑った。くくっ………暗殺されかかったことはあったけど女の子を泣かしたからっていう理由で背中を蹴られたのは生まれて初めてだよ」

 

まだ、笑いの名残を残しながら怪しげな人は物騒なことを言いつつ私の方を見て、頭を下げる。

 

「泣かしてごめんなさい」

 

なぜか、その瞬間あっちこっちから息を飲む音や短い悲鳴を無理矢理抑えたような呻き声が聞こえたのだけど………。

 

「え、あ、頭を上げてください。それにさっき泣いたのは色々な知識が沢山一度に入ってきたから流れた生理的なものだったので………」

 

「それでも僕が泣かしたわけだから?………許してくれる?」

 

「許す許さないということではなく………いえ、あの、許します、許しますから頭を上げてください!」

 

「そう?許してくれるんだ?じぁあこの件はこれで終りってことで~~~」

 

先ほどまでの殊勝さはどこにったのか顔を上げた怪しげな人はけろりとした口調で肩を廻している。

 

「おい…………魔術師!」

 

「う~~ん?なに?僕と彼女の間でもうこれは解決したの?君が口だすことじゃないよ?それに君の暴挙もこれでチャラにしてあげるんだから国が大切ならもう口にだすんじゃないよ」

 

怪しげな人の言葉に男の子が悔しそうに黙り込む。

 

それ、立派な脅し文句じゃないですか?

 

なんて心に浮んだ突っ込みは恐くて口に出せませんでした。はい。


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